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デンマーク福祉産業フォーラム[2010.11.26]

日時    平成22年11月26日(金)午後2時〜午後4時
場所    川崎市国際交流センターホール
主催    川崎市
後援    デンマーク大使館・経済産業省関東経済産業局・川崎商工会議所・
川崎市産業振興財団・川崎市国際交流協会

 今回は、川崎市国際交流センターで開催された「デンマーク福祉産業フォーラム」にお邪魔しました。
川崎市では福祉産業の振興に力を入れています。  今回は、デンマーク駐日大使をお迎えし、福祉におけるロボット技術の活用とデンマークとの連携について「デンマークに学ぶ!福祉産業の未来」と題しフォーラムが開催されました。

 

来賓挨拶

  開催にあたり、イエスパー トムセン駐日デンマーク代理大使から挨拶がありました。


 「私どもデンマーク大使館と川崎市は、緊密な関係にあります。川崎市は工業都市から研究開発都市として発展し、また、環境技術やロボットの基盤となる技術に強みを有する等、「イノベーション」といった世界の潮流と共に歩んでいる都市であります。
 デンマーク大使館においても、川崎国際環境技術展2010への参加や、デンマークの環境大臣が来日時に株式会社イスマンジェイを視察するなど、緊密な関係を築いています。
 川崎市とデンマークの特徴は、近隣に大都市圏や大国を抱えていることが挙げられます。つまり、こうした環境下では頭脳を働かせ、迅速に動く必要があり、このためイノベーションが重視されています。
 高齢化社会への対応も似ています。高齢化対応の対策として、労働省力化技術があります。その中でもロボットは、人件費を抑え、サービスの高度化に貢献するなどの可能性があると考えられます。日本には世界最高のロボット技術があり、デンマークは日本との連携を通じて最新技術を導入して行く方針です。」

 

基調講演〜福祉におけるロボット技術の活用−ロボットスーツHALの現状と未来

講師:筑波大学大学院教授 山海 嘉之 氏

山海先生とHALについて

 山海先生は、世界初の身体に装着するロボット「ロボットスーツHAL®(Hybrid Assistive Limb®)」を開発し、また、大学発ベンチャー、サイバーダインを設立するなど、「研究成果を社会に還元する」ため第一線で活躍されています。

 HAL®は、神経の信号を読み取ってロボットに同じ動きをさせることができ、医療・福祉・重作業支援、災害レスキューなど幅広い分野での活躍が期待されています。

  • 人が動こうとすると生体電位信号が脳から神経を通じ筋肉に伝わる。
  • この微弱な信号を皮膚表面のセンサーが検出。コンピュータがこれを分析し信号に応じてパワーユニットが動く(筋肉の動きに連動し自分の体のように動かせる)
  • 250キロまで運べる(モンサンミッシェル探訪も予定)
  • 世界遺産登録箇所でのレスキューも想定(世界遺産ではバリアフリー化が図られないため)
  • 上海万博にも出展
  • 茨城県30台導入・神奈川県で3台導入(現在160-170体が稼働中)
  • 現在、レンタルも計画中


 

 

 

        

 

<関係リンク>
山海研究室
CYBERDYNE
CYBERDYNE STUDIO

デンマークについて

山海先生からまず、デンマークの紹介がありました。

  • 面積: 43,000u(九週程度)
  • 人口: 520万人(兵庫県・福岡県程度)
  • 社会保障制度:北欧では租税による保障制度。 現物給付と現金給付の両方が公的制度としてある
  • 医療は主に県、福祉は主に市が中心となって推進

 

イノベーションの持続的スパイラルアップ

 山海先生は「我が国の未来を開拓していくためには、イノベーションを1回で終わらせるのではなく、進化のスパイラルを形成し、持続的な成長を促す必要がある」とします。
  このためには「研究開発は出口(社会還元)を見据える必要があり、研究者は自身の研究領域だけではなく、専門外も見る必要がある」と指摘します。そして、研究開発から繋がる新産業の創出と合せ、持続的発展のため人材育成の必要性についても言及されていました。
山海先生が提唱されたサイバニクス(Cybernics)とは、ロボット工学にとどまらず、IT技術、システム技術、脳・神経科融合また複合する新たな学術体系で、これらがロボットスーツHALとして結実しています。さらには技術融合だけではなく、法律、倫理哲学、経営とも連携し、ビジネスモデルを策定、社会の流れや国の未来ビジョンとも融合していこうとしています。

<関係リンク>
筑波大学サイバニクス国際教育研究拠点

経済成長戦略上の位置づけ

  昨年12月に閣議決定された政府経済成長戦略の基本方針「新成長戦略〜輝きのある日本へ〜」の中で「ライフ・イノベーションによる健康大国〜日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発推進」として、創薬ベンチャーの育成推進や、新薬、再生医療等の先端医療技術の振興とあわせ、ロボット分野では「ものづくり技術を活用した高齢者用パーソナルモビリティ、医療・介護ロボット等の研究開発・実用化を促進する。」ことが明記されました。

  同じく2010年6月の新成長戦略〜「元気な日本復活のシナリオ」では、健康大国戦略の2011年度に実施すべき事項として「生活支援ロボットの基本安全性・評価手法の確立また、安全性の確立したものについての普及策の検討」が、また、2013年度までに実施すべき事項として「開発状況に応じた個別の安全基準及び認証体系・インフラの整備、普及策の実施」が、さらに2020年までに実現すべき成果目標としてその実用化が示されています。
 山海先生は行政の方々と「どのようにすれば社会に溶け込むか」について意見交換を進められているそうです。また、最先端研究開発支援プログラムに中心研究者及び研究課題として採択されています。

<関係リンク>
首相官邸〜新成長戦略
経産省と厚労省、介護・福祉ロボ検討会が初会合、進行中のプロジェクトなど情報共有
内閣府〜最先端研究開発支援プログラム「中心研究者及び研究課題」の決定について

HAL使用事例

 現在、山海先生は様々な患者さんに、実際にHALを使っていただいているそうです。中にはポリオ感染で左足が動かない人の、ほんの数本の神経のわずかな信号を読み取りHALを動かす、また、パーキンソン病歴の人がHALを使い訓練することで、歩行器を使用して歩き始めた。といった目覚ましい事例が出始めています。
  もちろん、内部の倫理委員会とも調整しながら、安全性も確保し、地道な作業を進めています。また、「お医者さんと患者さんの関係は非常に重要で、お医者さんのアドバイスを介在することが必要」とします。
患者さんと周囲の支え、そしてHALが居る。そんな未来がすぐそこまで来ていると実感させる今回のご講演でした。
最後に先生から「革新技術を生むことは重要!そしてそれを育てることはもっと重要」


パネルディスカッション

<コーディネーター>
井上 剛伸 氏(国立障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部部長)
<パネリスト>
中島 健祐 氏(デンマーク大使館インベストメント・マネージャー)
赤松 幹之 氏((独)産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門長)
森田 俊彦 氏((株)富士通研究所ヒューマンセントリックコンピューティング研究所所長代理)
向井 利春 氏((独)理化学研究所理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センターロボット感覚情報研究チームチームリーダー)

コーディネーターの「本日のテーマはロボット技術ということで、このディスカッションから「何でロボットなんだろう」というところが見えてくればいいな。現場の立場から言うと、障害者の方の生活にロボットやデンマークをキーワードから明るい部分が出てくるといいなと思います。」という導入からスタート。まずはパネリストの皆さんの自己紹介から。

中島さん「デンマークの概要」

中島さんからは、デンマークが、欧米各国では、ICT、バイオ、エネルギー、環境分野で新規事業確立の戦略拠点として認識されていることや、現在デンマークが国策として力を入れている携帯電話、ソフトウエア開発、創薬、医療技術、風力発電、スマートグリッド等の分野が紹介されました。また、デンマーク大使館では、業界別のビジネス動向、各国主要都市との比較が可能なベンチマーク分析、会社設立のための各種ネットワーク情報、現地視察支援など、充実した投資情報も提供しているとのことでした。

デンマークの概要

  • 食糧自給率約300%/2009年
  • エネルギー自給率約130%/2009年(第一次オイルショック時2%)
  • 対GDP農業比率2%以下/2009年
  • IT競争力3年連続1位(世界経済フォーラム)
  • ブロードバンド普及率31.9%(OECD加盟国中トップ)
  • 所得税率が51%に関わらず国民の幸福度調査世界第一位

 

赤松さん「産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門での福祉技術の研究開発」

 赤松さんからは、ヒューマンライフテクノロジー研究部門での「運動機能回復脳メカニズムの研究」や身体との調和性の高いソフトアクチュエータ技術やリハビリ向け自転車などの生活支援のための「身体機能回復技術」、ニューロコミュニケータや視覚障害者トレーニングシステムなどの「障害者の生活を支援する技術」、嚥下トレーニングゲームや遠隔食事介護システムなどの「楽しい食生活を支援する技術」等、利用者ニーズに近い健康で安全・安心な社会を構築するための研究開発についてご紹介がありました。

森田さん「富士通のロボット開発」

 森田さんからは、90年代頃から始まった極限作業用ロボットや宇宙ロボット、小型ヒューマノイドロボット、サービスロボットといった富士通のロボット開発の歴史と、インタラクションするロボット、子ぐま型ソーシャルロボットの紹介がありました。
子ぐま型ソーシャルロボットは、ヒューマンセントリック(人を中心に技術を見直す流れ)の考え方に基づき、日常生活に溶け込む「人に優しい端末」として開発され、相手を見るアイコンタクトの機能や、動作の模倣、スキンシップへの応答が可能なロボットです。体温やまばたき頻度などから生活のリズムや長周期の変化を捉えることも可能です。森田さんは「このロボットを、ディスプレイやキーボードとは異なる新しいヒューマンインターフェースとして捉え、人に優しいサービスを開発していきたい」としています。

向井さん「理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センター介護支援ロボットRIBAについて」

 向井さんからは2007年12月に開発が開始され、現在も改良が進む介護支援ロボットRIBA(Robot for Interactive Body Assistance;リーバ)が紹介されました。
RIBAは、ベッドと車いすの間の移乗作業を実現するもので、人を抱えられる強度とモータ出力を備えるとともに、腕の広範囲を覆うセンサーにより安全な場面では自律的に、また、抱き上げなど危険がある状況では操作者が音声やタッチパッドで介護者とロボットの協調作業を行うなど、人と協調できる環境対応能力を備えています。

会場から質問

 ここで会場から「ロボットの被験者は元気な人なので、リアリティーが無いのでは?現実に即したモニタリングが必要では?」との意見。
パネリストからは「研究所の倫理委員会で実験は成人健常者に規定されている。今後は障害者と一緒に研究したいと考えている」との回答でした。

ロボットなんて役に立つのか?

ここから討論。
「ロボットなんて役に立つのか?示されているのはチャンピオンデータ(開発者に有利なデータ)ではないのか。」
コーディネーターからは議論を誘発するため、あえて刺激的な一言が・・・


    向井さん 

   「これまでのロボットは、自律的な機能が求められたが、今後自律性は制限されるべきと考える。ただし、知能化、キネマテクス、力制御等の技術は必要ではないか。認識判断は人に任すべきだが、近いうちに役立つものが出来ると思う。」


    森田さん

    「条件としてロボットと捉えなければ役立つ。特に日本のロボット開発者にはロボットとはこうあるべきという強いイメージあり、ニーズや求められるコストに合わせた割り切りが足りなかった。意識を変え、本当のユーザニーズに立った開発を進めれば、役に立つものを作り出すことができると思う。」


    赤松さん

    「障害者のことがわかっているのか。というネガティブな議論は承知している。徐々に変わってきているのを感じる。技術オリエントな雰囲気は研究者からは無くなっている。そもそも機械をつかわないわけにはいかない、人間だけではなく、まかせることはまかせる。ハイテクが現場に入ると雇用者満足度をあげる。山海先生の発表で施設のヘルパーさんが「新しさを感じる」としているのは象徴的。」


    中島さん

    「福祉先進国のデンマークでは、答えはイエス。逆にそうしなければいけないという強い意識を福祉サービスの提供者とユーザーが共有している。デンマークは、高齢者は社会の芸術だとの認識があり、自立精神が尊重されるデンマークでは、自律のために役に立つ技術の導入に積極的である。アーリーアダプター(新しい技術を早期に取り入れるユーザー)であることもロボットを積極的に導入するインセンティブとなっている。デンマークでは人口の30%が公共セクターで働いているが、高齢化により福祉介護現場で従事する労働者不足が深刻となっている。そのため、新しい技術を使って生産性を高めなければという危機意識がある。こうした点から、デンマークではロボットは役に立つのは当然であり、むしろ早く導入しなければならないとの見解が政府からユーザーまで広く共有されているのが実状である。」


    コーディネーター 

  「(ロボット側が)歩み寄ってきているので、使っても良いのではと思いませんか?その上で課題は?


    向井さん

    「安全性基準・これはロボット技術者だけでできるものではない」


    森田さん

    「新しい技術を積極的に試し、どんどん注文をつけていただきたい。」


    赤松さん

    「全体が幸せになるシステムが必要」


    コーディネーター

   「経産省が安全性の倫理審査スキームを検討しているので進むのでは」


    中島さん

    「医療福祉ロボットの開発においては、アジアなどの競合国の追い上げに対応する為には、安全性などのリスクを折り込み、ある程度、プロジェクトを進めながら考えるというアプローチが必要となる。ただ、日本ではそうした方法はとれないので、デンマークが得意とするクイックアプローチと、日本で行われる着実なステップバイステップによる二本立ての開発と、それらの連携が重要になると考えている。」


    コーディネーター

   「キーワードを繋げると将来が少し見えてきたのでは、ユーザードリブン・ヒューマンセントリックが定着し始めている。開発には最初からユーザーを入れないとダメ。(ロボットが)出来る前にユーザー側から発信できる仕組みが必要。社会のための技術。ソサイエティーセンサードへ。 山海先生のような先駆者が一気通関で社会性を確保している状況。これからは、皆さんでやりましょう。」

コーディネーター井上さんの好リードもあり、短いながらも熱く、充実したディスカッションとなりました。 ロボットと利用者の距離がまた一つ縮まったと感じた1日でした。

<関係リンク>
国立障害者リハビリテーションセンター
デンマーク大使館
(独)産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門
(株)富士通研究所
(独)理化学研究所理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センター

 

 

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