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新川崎・創造のもり内のナノ・マイクロ技術の産学共同研究施設「NANOBIC」。本年4月に研究棟、9月にクリーンルーム棟がオープンし、本格運用を開始した。それを記念して「ナノ・マイクロ技術が切り拓く未来社会」をテーマとするシンポジウムと「NANOBIC」クリーンルーム棟のラボラトリーツアーが行われた。(主催:川崎市 協力:4大学 ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム、(公財)川崎市産業振興財団)。

目次
1.「NANOBIC」オープン記念シンポジウム(ケイスクエアタウンキャンパス厚生棟大会議室)

阿部孝夫川崎市長の挨拶

松本洋一郎4大学コンソーシアム代表の挨拶

岸輝雄氏(4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム顧問、TIA運営最高会議議長)

○特別メッセージ

講演に先立ち、4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム顧問の岸輝雄氏が「新川崎・創造のもりプロジェクトへの期待」と題して、特別メッセージを行なった。

目標は新産業創出。そのためには人材育成と企業との密接な関係によりイノベーションを喚起することが重要である。ナノテクは、電気・電子物理、生命科学に共通な分野。茨城県つくば市に「サイエンスシティ(TIA-nano:つくばイノベーションアリーナ)」があるが、川崎においても、ナノテクや医療・バイオを基盤にした「イノベーションシティ」として名乗りを挙げることを期待している。エレクトロニクス産業は小さいガレージ(核)から発展した。産官学が一体となり、共にイノベーションを喚起する環境作りを行っていきたい。

<参考>

○講演会

○「ビッグデータ時代の次世代コンピュータシステム研究開発への協業モデル」
折井 靖光氏(日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所サイエンス&テクノロジー部長)

■東京基礎研究所について

IBMの研究部門は、世界10ヶ国に12の研究所があり、約3,000名が基礎研究に従事している。
東京基礎研究所(*1)は大和にあったが、2012年9月にソフトウェア部門が豊洲に、ハードウェア部門が川崎(NANOBIC)に移った。川崎での研究内容は光インターコネクト(*2研究とサーキュタンシステム(*3)、三次元半導体実装技術、ミリ波無線技術などである。

■スパコンはなぜ早くしなければならないのか。

2010年には、およそ1ZB(Zetta Byte)という量の情報が年間に作成されている。このデータ量は、新聞の朝刊情報量(1MB)の約75億年分の情報量に匹敵する。
このようなビッグデータを処理するためには、センシング技術、高速無線技術、サーバ群によるデータ加工が必要で、データの量(テラバイトからエクサバイト級のデータを処理)、速度(ストリーミングデータをミリ秒から秒単位で処理)、形態(構造化、非構造化、テキスト、マルチメディア)に加え、四つ目の軸として、データの信頼度(不確かなデータ)を処理することが必要になっている。
2015年にはネットワークデバイスの合計が全世界の人口の2倍になり、全データの80%が不確かな情報を含むと予測されている。

膨大なデータをほぼリアルタイムで処理、加工して、モデリングやシミュレーションを実現する高度な計算処理を実現しなければならない。
今後、あらゆるものにチップが搭載され、リアルタイムな状況把握やヒト、モノ、システムが相互に接続して、新しいカタチで連携していく。目の前の変化への対応だけでなく、高度な予測能力によって、未来のリスクに備えることが可能になるなど、世界はますます「スモール化」、「フラット化」が進んで行く。
こうした高度な計算処理は一社だけの基礎研究だけでは限界があり、企業、パートナー、大学の連携が必要になってきている。

(*1)
IBM東京基礎研究所は、1982年にIBMのアジアで最初の基礎研究所として設立された。以来、グローバル・リサーチの一員として他の基礎研究所と協業しながら多くのIBMのハードウェア、ソフトウェア、サービスの製品やソリューションに貢献する研究成果を上げる一方、革新的な技術の適用や、実証実験、共同研究などを行い、IBMの研究成果のIn Market Researchの場としても重要な役割を果たしてきた。
(*2)
比較的短い距離(装置間,ボード間,チップ間)を伝送させる光通信技術の総称で、従来の銅配線に比べ高速化・高性能化(消費電力、EMI、ノイズ、損失等の特性)が実現可能な技術。近年の電子回路は高速化の傾向にあり(例えば、パソコンの周辺機器においては、銅配線の限界を解決する技術として光インターコネクトは注目を集めている(銅配線のまた、高性能化という観点からも光インターコネクトは注目を集めており、EMIやノイズ対策等でチップ間やボード内での使用が検討されている。
(*3)
ケーブルから無線へ。60ギガヘルツのミリハで高速通信。リソグラフィをマスクとソースの組み合わせによってパターンを予測。メモリのインテリジェント化。バイオ化(人間の脳に近づける)研究を東大と進める。

■スパコンランキング

年月 設置国 ベンダ 名称
2012年 11月 米国 クレイ タイタン
6月 米国 IBM セコイア
2011年 11月 日本 富士通
6月 日本 富士通

■次の世代のコンピュータ 「Watson」対クイズ王 〜検索からデータ解析へ

デビッド・フェルーチ博士は「クイズとチェスでは、やることは全く違う。チェスは数学的に定義される有限のルールに従うが、言語はあいまいで、文脈次第で意味が変わり、暗黙の了解みたいなものもあるからだ」と言っている。
1997年にIBMのコンピュータ「Deep Blue」は、チェスの世界チャンピオンに勝利したが、コンピュータはデータベースから特定のデータを検索するのは得意だが、クイズのようなあいまいな質問に答えるためには、単に早く検索できるだけでは十分でなく、データを解析する必要がある。
2011年、IBMの研究部門が開発した質問応答システム「Watson」は事前に読み込ませた本や百科事典など100万冊分の知識を頼りに答えを出し、米国のクイズ番組で人間に勝った。
「Watson」の技術は、今後、より迅速で正確な医療診断支援のためのシステムや弁護士や裁判官による過去の判例を参照するためのシステムなどへの応用が期待されている。

日本初の技術を川崎で

NANOBICでは産学が連携して、半導体のパッケージの開発や、材料メーカーと一緒に作り上げるモデルの構築(パートナーシップ)を通して、日本初の技術を川崎で開発したい。

○「産総研におけるオープンイノベーション」
瀬戸政宏氏(独立行政法人産業技術総合研究所理事)

■産業技術総合研究所(産総研)

産総研は、産業技術に関わる我が国最大規模の公的研究機関。1882年(明治15年)に設立された農商務省地質調査所にルーツがあり、2001年に旧通商産業省の16の研究所などを統合して設立された。基礎から実用化まで、連続的に研究を行う「本格研究」を推進しているが、2010年からはイノベーション推進本部を設置し、研究組織を6分野に再編。「技術を社会に」をテーマに、産業競争力の強化に寄与する先端的な研究開発、我が国のイノベーションにおける技術開発プラットフォーム、産業の基盤である計量標準、地質調査のナショナルセンターとしての役割を担うと共に、特に最近では、国際標準化にも力を入れている。
北海道から九州まで9つの施設があり、2014年には福島に再生可能エネルギー研究拠点を開設する予定である。

■ナノテクノロジー研究拠点 〜 つくばイノベーションアリーナ (TIA-nano)

2009年6月、産総研、物質・材料研究機構、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構、経団連が連携して、世界的なナノテク研究拠点「つくばイノベーションアリーナ (TIA-nano)」を設立。現在、93社約500名が参画して、16のプロジェクト(ナノエレクトロニクス、パワーエレクトロニクス、MEMS、カーボンナノチューブ等)を推進している。
また、ナノテク関連機器を公開し、企業や大学に使っても貰らう仕組みを作り、ナノテクの人材育成も併せて行っている。

■地域におけるイノベーションの推進

全国に9ヶ所ある地域センターは、北海道センターが「バイオものづくり」、関西センターが「ユビキタスエネルギー技術」等、その地域ニーズを踏まえて研究開発を行っており、中小企業からの技術相談や共同研究などの地域のニーズをつくばセンターで集約する仕組みとなっている。川崎市の企業と連携した共同研究も年50件程度行っている。

◇主要拠点

センター名 重点化技術開発
北海道センター バイオものづくり技術
東北センター 低環境負荷化学プロセス技術
つくばセンター 生活支援ロボットの安全性を試験・評価する技術
臨海副都心センター ライフ・IT融合技術
中部センター 先進材料プロセス技術
関西センター ユビキタスエネルギー技術、医工連携技術、組込み情報技術
中国センター バイオマスリファイナリー技術
四国センター 健康工学技術
九州センター 生産計測技術、水素エネルギー技術

■国際ネットワークの形成

現在までに海外35の主要研究機関と包括研究協力覚書を締結しており、アジア12ヶ国とのバイオマス資源と日本のエタノール発酵技術などを活用した共同プロジェクトや、天然ゴムの生産性向上のための分子育種開発を目指すインドネシアとの「パラゴムノキプロジェクト」(産総研、ブリヂストン、インドネシア技術評価応用庁連携)に代表されるアジアでのネットワークを強化している。

■人材の育成

産総研では、専門家を育成するための技術研修や海外への派遣、シニア人材の活用など、人材の育成・活用に力をいれており、特に若手研究者(ポスドク、大学院生)がアカデミックキャリアからマルチキャリアへ移行できるよう、企業等への派遣(インターンシップ)やキャリア開発支援などを行う「イノベーションスクール」制度を実施し、2008年から約200名が企業や大学研究機関に就職している。

■技術を社会に

(1)国際標準化推進の支援

産総研職員170名が国際標準化委員会へエキスパートとして参加し、46名が役職者として、国際標準化委員会に参画している。太陽電池の国際標準化では、「太陽電池モジュール信頼性国際基準認証フォーラム」を米国、欧州と協力して運営している。

(2)産総研オープンラボも開催

産総研の400以上の研究成果や活動、約100ヶ所の研究室の実験装置・共用設備などの研究リソースを公開する「産総研オープンラボ」を毎年開催。平成24年10月の「産総研オープンラボ」には約1600社、3700人の来場があった。

(3)日本を元気にする産業技術会議

日本経済新聞社との協働事業「日本を元気にする産業技術会議」では、日本の主要企業や主要大学からの参加を得て、[1]エネルギー・資源 [2]革新的医療・創薬 [3]先端材料・製造技術実用化 [4]IT/サービス工学 [5]人材育成 [6]国際標準化の6分野について、解決すべき課題やその技術開発の方向性等を議論。関連シンポジウムを26回開催し、日本が基幹産業技術で中長期にわたり世界のフロントランナーとして走り続ける為に必要な「イノベーション・ロードマップ(アクションプラン)」を取りまとめ、日本経済新聞、日経産業新聞で情報を発信した。

■目指すべき多様なゴール

これまで個別に行われていた「製品・システム」、「技術」、「人材育成」に「標準・認証」を加えて、サービスやソリューションを考慮して、実施していくことが重要になっている。

○「4大学コンソーシアムの活動とNANOBICの機器利用について」
菱田公一氏(4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム運営委員長、慶應義塾大学理工学部教授)

■世界で進むナノテク研究施設

近年、欧米をはじめ、世界各国でクリーンルーム、最先端加工、計測設備を備えた「ナノ・マイクロ拠点」が形成されており、日本でもナノテクノロジーや低炭素研究などの「ナノファブ共用施設」が整備されつつある。

◇国内主要ナノファブ共用施設

地 域 施設名 規 模
宮城県 東北大学CINTS 1000u
茨城県 物質・材料研究機構NEP 450u
東京都 東京大学 武田先端知VDEC 600u
神奈川県 4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム 380u
愛知県 名古屋大学 426u
奈良県 京都大学低炭素ハブ拠点 668u

■4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム

クラス10000、クラス100のクリーンルームを備え、微細加工、分析、デバイス試作、評価などの装置を産官学の研究者・技術者に広く開放して、世界的な研究拠点にふさわしい基盤を提供する。

(1)沿革

年 月 内 容
2008年3月 4大学(慶應義塾大学、早稲田大学、東京工業大学、東京大学)がコンソーシアムを組み発足
2009年1月 川崎市との連携協力に関して合意
2012年4月 ナノ・マイクロ技術の産学共同研究施設「NANOBIC」研究棟オープン
2012年9月 「NANOBIC」クリーンルーム棟がオープン 本格稼働

(2)高度ファブリケーション支援事業の特徴

全国共用利用施設として、ガラスやシリコン基盤などの微細加工装置、分析装置、デバイス試作装置、評価装置などを産官学の研究者・技術者に広く開放し、世界的な研究拠点にふさわしい基盤を提供する。
これまで単位互換等の連携体制はあったが、設備利用、モノの共同運営は少なかった。ハコモノへの批判はあるが、アイデアの次のステップが必要。

(3)規模

  • クラス10000のクリーンルーム(*4)(206.2u)

  • クラス100のイエロークリーンルーム (172.8u)

(4)ナノ・マイクロデバイスのシステム

3つの工程からなり、エッチング工程では分析・評価を行う。

[1] 成膜工程
フォトレジストコーティング、ナノ薄膜
[2] フォトリソ工程
2ナノ電子ビーム転写
[3] エッチング工程
プラズマ線高速エッチング
分析・評価
デバイス速度温度計測、元素分布分析など

(5)研究事業

環境エネルギー分野とバイオMEMS分野について、研究を行っている。

[1] 環境エネルギー分野
流体電池(*5)(フロー電池)の性能向上
ナノ・マイクロ熱流体センシング
医療・ライフサイエンス分野への応用 など
[2] バイオMEMS分野
DNA 1分子での究極分析
光MEMS熱物性センサーによる極微量・超高速センシング など
(*4)
クリーンルームの清浄度は「一定の体積中の基準の大きさ以上の塵埃の数 量」で示される。規格の原本は1963年のアメリカ連邦規格Federal Standard209。現在では1993年に改定されたFed.Std209Eが最新版となっているが、一般的に最も使われているものは209Dで、1フィート立方中(28.8リットル)に0.5ミクロン以上の微粒子が何個あるかで表す。
209Dのクラス100とは1フィート立方中に0.5ミクロン以上の微粒子が100個以下であることで、1,000個以下であればクラス1,000。同じように10,000個以下であればクラス10,000と言い、数字が小さい程ゴミの無い空間となる。
(*5)
レドックス・フロー電池(レドックス・フローでんち、英:redox flow cell,redox flow battery)は二次電池の一種で、イオンの酸化還元反応を溶液のポンプ循環によって進行させて、充電と放電を行う流動電池。 redoxはreduction-oxidation reaction の短縮表現。「フロー」を略してレドックス電池と呼ぶこともあるが、分類としては流動電池(フロー電池)が上位にあたる。 1974年、NASAが基本原理を発表し、1980年代に研究が進み特許出願が進んだ。

(6)教育活動

4大学(慶應義塾大学、早稲田大学、東京工業大学、東京大学)などのナノ・マイクロ研究者による技術スクールを実施している。

2.ラボラトリーツアーの様子

シンポジウム終了後、「NANOBIC」クリーンルーム棟でのラボラトリーツアーが実施された。

クリーンルーム内の様子。

駐車場で展示されていた慶應義塾大学電気自動車研究室の電気自動車「Eliica」。

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