○「産総研におけるオープンイノベーション」 瀬戸政宏氏(独立行政法人産業技術総合研究所理事)
■産業技術総合研究所(産総研)
産総研は、産業技術に関わる我が国最大規模の公的研究機関。1882年(明治15年)に設立された農商務省地質調査所にルーツがあり、2001年に旧通商産業省の16の研究所などを統合して設立された。基礎から実用化まで、連続的に研究を行う「本格研究」を推進しているが、2010年からはイノベーション推進本部を設置し、研究組織を6分野に再編。「技術を社会に」をテーマに、産業競争力の強化に寄与する先端的な研究開発、我が国のイノベーションにおける技術開発プラットフォーム、産業の基盤である計量標準、地質調査のナショナルセンターとしての役割を担うと共に、特に最近では、国際標準化にも力を入れている。
北海道から九州まで9つの施設があり、2014年には福島に再生可能エネルギー研究拠点を開設する予定である。
■ナノテクノロジー研究拠点 〜 つくばイノベーションアリーナ (TIA-nano)
2009年6月、産総研、物質・材料研究機構、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構、経団連が連携して、世界的なナノテク研究拠点「つくばイノベーションアリーナ (TIA-nano)」を設立。現在、93社約500名が参画して、16のプロジェクト(ナノエレクトロニクス、パワーエレクトロニクス、MEMS、カーボンナノチューブ等)を推進している。
また、ナノテク関連機器を公開し、企業や大学に使っても貰らう仕組みを作り、ナノテクの人材育成も併せて行っている。
■地域におけるイノベーションの推進
全国に9ヶ所ある地域センターは、北海道センターが「バイオものづくり」、関西センターが「ユビキタスエネルギー技術」等、その地域ニーズを踏まえて研究開発を行っており、中小企業からの技術相談や共同研究などの地域のニーズをつくばセンターで集約する仕組みとなっている。川崎市の企業と連携した共同研究も年50件程度行っている。
◇主要拠点
センター名 |
重点化技術開発 |
北海道センター |
バイオものづくり技術 |
東北センター |
低環境負荷化学プロセス技術 |
つくばセンター |
生活支援ロボットの安全性を試験・評価する技術 |
臨海副都心センター |
ライフ・IT融合技術 |
中部センター |
先進材料プロセス技術 |
関西センター |
ユビキタスエネルギー技術、医工連携技術、組込み情報技術 |
中国センター |
バイオマスリファイナリー技術 |
四国センター |
健康工学技術 |
九州センター |
生産計測技術、水素エネルギー技術 |
■国際ネットワークの形成
現在までに海外35の主要研究機関と包括研究協力覚書を締結しており、アジア12ヶ国とのバイオマス資源と日本のエタノール発酵技術などを活用した共同プロジェクトや、天然ゴムの生産性向上のための分子育種開発を目指すインドネシアとの「パラゴムノキプロジェクト」(産総研、ブリヂストン、インドネシア技術評価応用庁連携)に代表されるアジアでのネットワークを強化している。
■人材の育成
産総研では、専門家を育成するための技術研修や海外への派遣、シニア人材の活用など、人材の育成・活用に力をいれており、特に若手研究者(ポスドク、大学院生)がアカデミックキャリアからマルチキャリアへ移行できるよう、企業等への派遣(インターンシップ)やキャリア開発支援などを行う「イノベーションスクール」制度を実施し、2008年から約200名が企業や大学研究機関に就職している。
■技術を社会に
(1)国際標準化推進の支援
産総研職員170名が国際標準化委員会へエキスパートとして参加し、46名が役職者として、国際標準化委員会に参画している。太陽電池の国際標準化では、「太陽電池モジュール信頼性国際基準認証フォーラム」を米国、欧州と協力して運営している。
(2)産総研オープンラボも開催
産総研の400以上の研究成果や活動、約100ヶ所の研究室の実験装置・共用設備などの研究リソースを公開する「産総研オープンラボ」を毎年開催。平成24年10月の「産総研オープンラボ」には約1600社、3700人の来場があった。
(3)日本を元気にする産業技術会議
日本経済新聞社との協働事業「日本を元気にする産業技術会議」では、日本の主要企業や主要大学からの参加を得て、[1]エネルギー・資源 [2]革新的医療・創薬 [3]先端材料・製造技術実用化 [4]IT/サービス工学 [5]人材育成 [6]国際標準化の6分野について、解決すべき課題やその技術開発の方向性等を議論。関連シンポジウムを26回開催し、日本が基幹産業技術で中長期にわたり世界のフロントランナーとして走り続ける為に必要な「イノベーション・ロードマップ(アクションプラン)」を取りまとめ、日本経済新聞、日経産業新聞で情報を発信した。
■目指すべき多様なゴール
これまで個別に行われていた「製品・システム」、「技術」、「人材育成」に「標準・認証」を加えて、サービスやソリューションを考慮して、実施していくことが重要になっている。
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