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川崎元気企業調査報告書(川崎 元気本)
掲載企業紹介

三盛産業株式会社

設計からメンテナンスまでワンストップ
“現場力”で未来を切り拓く多角経営の新しいカタチ


代表取締役社長 中山 孝士(左)
取締役 中山 侑紀

事業内容エンジニアリング事業(プラント設備の設計・施工・保守)、マテリアルハンドリング事業、飲食事業(YUKIZAKURAグループ)、旅行業(A・Yトラベル)、その他関連事業
企業名三盛産業株式会社
創業1969年(昭和44年)、設立:1971年(昭和46年)1月20日
所在地本社   :川崎市川崎区京町1-16-19
横浜営業所:横浜市鶴見区市場大和町1-11 アイビー大和1階(Food事業部)
電話044-201-7920
従業員49名
代表代表取締役社長 中山 孝士(ナカヤマ タカシ)
URLhttps://mitsumori-industry.net/

川崎市川崎区の本社で24時間鳴り続ける電話の向こうで、全国の現場から声が届く。「昔は“コンビニ”と呼ばれていました」と笑うのは、三盛産業株式会社の中山孝士社長だ。重厚長大なプラント設備から、いわゆる軽薄短小のマテリアルハンドリング設備(生産・物流現場で物の移動や保管を自動化する装置)まで、設計・施工・メンテナンスをワンストップで手がけてきた同社は、今やその技術力を基盤に、飲食・旅行・スポーツといった新たな分野にも挑戦している。

清缶からマテハンへ ―時代とともに進化する技術力―

同社は発電ボイラーの清掃事業(清缶事業)からスタートしたが、ボイラーの技術革新により清掃需要が年々減少していく中、中山社長は大手機械メーカーでコンベア技術を磨き、平成5年の入社と同時に新たにコンベア事業を切り開くとともに、その知見も活かしながらマテリアルハンドリング事業へ進出した。
ターニングポイントとなったのが、今から数年前の大手物流施設での工事だった。搬送機の振動問題に直面した際、社長が前職で培った搬送設備の経験を活かした「転倒防止ネット」を提案。「コンベアが揺れるのは避けられないため、それにどう対応するか。それまでの経験が活かされました」。この提案が採用され、現在ではこの大手物流グループの多くの施設で標準採用されている。技術の蓄積が新しい価値を生む瞬間だった。
現在、マテリアルハンドリング事業は全国展開している。沖縄から北海道まで、繁忙期には全国20か所に及ぶ現場を同時進行で動かし、各地に宿泊拠点を確保して機動的に対応。通常5〜6名のグループで担当するが、同社は「自社手(正社員)」が多いため最大20名規模の現場にも即応できるのが長所だ。

「施工・工事現場の様子」

川崎で花開く”現場力” ―24時間体制と女性活躍―

マテハン分野の利点は、機器が軽量・小型であるため、女性にも働きやすい環境が整っていることだ。現在4名の女性社員が活躍し、「女性ならではの視点」が品質向上に大きく貢献している。特に設備の組立作業では「目配り・気配り」の効いた細かな検証作業が品質保証の向上につながっている。
事務職の女性社員の存在も組織運営に欠かせない。入社したての若い社員をよく観察し、悩みがある様子で急に休むなどの兆候があると寮まで足を運んで話を聞いてくれる。そうしたこまやかな気遣いができる社員がチーム編成の手配を担当しており、下請けの若手スタッフも含めて顔と特徴を熟知しているため、最適なチーム組成が効率的に行われている。「チームプレーがより濃厚なものになった」と語るように、組織の要として機能している。
40代を中心とした社員が現場を支え、全社員49名がオンコール体制を敷き、常時7〜8名が夜間の突発的な対応にあたることができる体制を整えている。過去に夏季の設備トラブルで、ひと月に7回も夜間対応した経験から確立されたこの体制が、顧客からの大きな信頼につながっている。

食で街を元気に、『YUKIZAKURA』 ―夢を後押しする経営哲学―

「自分たちが本当に食べたいものを提供したい」という思いから立ち上げた飲食事業YUKIZAKURAグループ。自然派ワインとクラフトビールを提供する「Sun.」、フードコートで人気の「ウワサのオムライス様」、味噌と醤油にこだわったラーメン店「雉虎」、移動販売「Kitchen234」など、多彩な店舗を展開している。コロナ禍ではセントラルキッチンを設置し、高級デリバリーサービスも展開した。
特筆すべきは、各店舗の完全責任施工制だ。店名、ロゴ、メニューまですべて店長に委ね、「将来店を持ちたいという若手の後押しをしたい」という思いを形にしている。現在のラーメン店店長は、同社の事業の一環として展開していた居酒屋業態から、念願だったラーメン店の開業を実現した人物。
年功序列を廃し、責任施工能力で評価する実力主義を徹底することで、「新しいことに挑戦したい、夢をかなえたいという思いを持つ社員が多い」環境を築き上げた。だからこそ飲食店経営を夢見る社員を積極的に応援し、チャレンジの場を提供している。「食は投資と考えている。4〜5年かけて投資してきたものがようやく芽を出している」段階だが、その効果は本業にも波及している。

事業間シナジーが生む新しい価値 ―「1+1+1=∞」の相乗効果―笑顔と連携が生む好循環 ― 一人ひとりが輝く場づくり ―

同社の社員旅行や出張を担当していた旅行会社の担当者が退職する際、それまでの関係性を継続させて立ち上げた旅行事業「A・Yトラベル」。「小規模で小回りが効く」ところが評価され、高いリピート率を誇る。来期からは三盛産業本社の一事業部として拡大させる予定で、羽田空港へのアクセスの良さという立地を最大限活用していく。
高校生・中学生のオーストラリア、ハワイ、ニュージーランドへの留学事業も手がけ、インバウンド事業として寺での修行体験やマイナースポーツの大会開催など、「まだまだやりたいことがたくさんある」状況だ。
三つの事業が互いに影響し合い、新しい価値を創造している。キッチンカーや厨房は「設備の塊」であり、本業のエンジニアリングの知見が活用される。一人親方が仕事の少ないシーズンに飲食で働くケースもあり、柔軟な働き方を実現。飲食のケータリングがサッカーチームとの出会いを生み、それが旅行事業の引き合いにもつながる。 「飲食という異分野ができたことで、工事部に相談を受けるとアイデアの幅が広がっている」と語るように、従来の建設・エンジニアリング事業にも新たな刺激と発想をもたらしている。「部署が違っても、お互いに支え合う風土が社内に広がった」。まさに「1+1+1=∞」という相乗効果が生まれている。

“歩のない将棋は負け将棋”で築く未来

「お客様の目線に立って、自分が発注する立場になる」「妥協は一切しない。『これでいいだろう』という妥協をしていいことはない」「社員だけでなく関係者も含め、当社の現場で働いてくれる方々、協力してくれる方々を大切にしたい。そこが当社の財産」。
「皆に責任を持ってやってもらう。任せたらうるさいことはあまり言わない。皆が家族と思っている。痛みも旨味も皆で分け合う」という経営方針が、「現場同士の助け合い」「お互い様の精神を醸成する社風」として結実している。
中山社長は「歩のない将棋は負け将棋」と例えるが、現場で働くすべての人を大切にする文化を育んできた。その助け合いと配慮の精神は社内外に浸透し、強固な団結力を生み出している。また建設業界の「現場主義」を尊重しながら、デジタルツールを活用したより効率的なコミュニケーションの推進にも取り組んでいる。
エンジニアリングで培った「設計からメンテまでワンストップ」の精神を、飲食・旅行・スポーツの各分野でも発揮。技術と人を大切にする企業文化が、多角的な事業展開を支えている。「食」「旅」「技術」を通じて人と人をつなぎ、川崎から新しい価値を創造し続ける三盛産業。”現場力”を武器に、半世紀を超える歴史に新たな1ページを刻みつつ、地域とともに歩む企業として挑戦を続けている。