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川崎元気企業調査報告書(川崎 元気本)
掲載企業紹介

オールテック株式会社

科学が形にする永遠の記憶設
― 28年の産学連携が生んだ、ダイヤモンドがつなぐ記憶と未来 ―


代表取締役社長 白倉 昌(左)
慶應義塾大学 鈴木哲也 教授

事業内容メモリアル製品「ABBY」製造販売、薄膜コーティング装置の開発・設計・製作、薄膜技術応用製品の製作、および薄膜技術に関するコンサルティング
企業名オールテック株式会社(ALL TECH, INC.)
創業2003年(平成15年)10月(旧・有限会社バイオダイヤモンド)
所在地本 社:東京都渋谷区桜丘町29-31-302
製造所:川崎市高津区下野毛1-6-40
相談室:東京都港区新橋1-16-9 亀田ビル2階(コワーキングサロン内)
電話050-8880-4240(本社)
従業員
代表代表取締役社長 白倉 昌(シラクラ アキラ)
URLhttps://all-tech.co.jp/

透明な輝きの中に、大切な記憶が永遠に刻まれる。川崎市高津区に工房を構えるオールテック株式会社が提供する「ABBY®(アビー)」は、遺骨や髪の毛に含まれる炭素から、科学的に証明されたダイヤモンド薄膜を形成し、人生のかけがえのない瞬間を永遠のかたちとして残す。ペットロスの悲しみから生まれたこの技術は、慶應義塾大学との28年にわたる産学連携の結晶であり、今や国境を越え、失った悲しみを癒やし、新しい命の誕生を祝福する存在へと進化を遂げている。

ペットロスが生んだ使命― 28年の産学連携の原点 ―

1996年、慶應義塾大学の鈴木哲也氏との出会いから、白倉昌氏の約30年に及ぶ産学連携が始まった。当時キリンビール株式会社でPETボトルのDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング技術を研究していた白倉氏は、世界初の高耐久・高透明コーティング技術を実現した。この技術は現在も年間1億本規模で生産が続いており、30年を経た今でも社会の中で生き続けている。
白倉氏は、2011年に鈴木研究室のダイヤ合成技術のスピンアウトカンパニー(有限会社バイオダイヤモンド)を引き継ぎ、オールテック株式会社と社名変更して、産業界からの受託研究をつづけた。時が流れ、2020年のコロナ禍の時、白倉氏と鈴木氏は、ほぼ同じ時期に愛犬を亡くすという経験を共有した。その深い悲しみを経て、2人の胸に新たな思いが芽生えた。
「『技術を人の心に寄り添うものにしたい』。記憶を形として身近に残せるものがあればいい。」
多くの人が写真を持ち歩くと知り、より自然に手元に置いておける、お守りのような製品を作ろうと思い立った。商品化に5年をかけた。そして2025年から、「ABBY®(アビー)」の本格的な受注生産を開始することになった。

永遠型ペンダント『ABBY®』

産業技術から心に寄り添う製品へ― 800度のプラズマが生む新しい価値 ―

白倉氏の歩みは、産業技術を人の心に寄り添わせることを追い求めた軌跡でもあった。
「人工ダイヤモンドは長い歴史を持つ素材ですが、産業用途が一巡し次のステージを探る必要を感じていました。その中で、これまでの技術を人の心に寄り添う製品に生かせないかと考えたのが始まりでした。」
最初に取り組んだのは、ペットとの思い出を形に残すメモリアル製品作りだった。お守り袋に入れて持ち歩けるものを制作し、そのニーズがあることを確認できたため、徐々にペンダントや指輪など、アクセサリー型の製品も開発していった。
オールテックのダイヤモンドベール®は、遺骨や毛髪、衣類などに含まれる炭素を原料に、プラズマCVD(化学気相蒸着)法で薄膜を形成する。この技術は慶應義塾大学理工学部・鈴木哲也研究室の研究成果を基盤としており、日本および米国で特許登録済みだ。
「燃えるものならすべて原料になると言っても過言ではありません。洋服の切れ端や髪の毛なども使えます。基本的に炭素を含んでいるものは原料になります。それらはすべて、『記憶のかけら』でもあるのです。」
基材には人工のサファイアやルビー、モアサナイトを使用している。天然石は不純物やひびが多く、プラズマ加工の高温(約800度)に耐えられないためだ。人工結晶は耐熱性が高く、薄膜形成との相性も良い。品質が安定しており、仕上がりも美しいことから、これらの理由もユーザーへ丁寧に説明している。第三者機関の科学分析により、生成された薄膜はダイヤモンドであることが証明されている。
同社の最大の強みは、短納期と適正価格にある。3週間から2カ月以内で製作が可能で、「四十九日に間に合ってよかった」と喜ばれることも多い。

「これがあの子なんですね」― 喪失を癒やす記憶のかたち ―

ユーザーからは「これがあの子なんですね」、「いつも身につけていられて安心します」、「そばにいるようで癒やされます」という声が多く寄せられる。特に印象的なのは、名古屋から新橋のショールームまで直接来社された方の話だ。サンプルを見てしっかり納得していただき、その場で涙ぐみながら話された。商品も郵送ではなく、受け取りに来られ感激の面持ちで帰られた。
「ペットを亡くされた方の思いは深く、共感できる部分が多いです。私自身も経験者なので、その気持ちがよくわかります。」
あるユーザーからは、こんなメッセージが届いた。「手放すことはとても勇気がいりましたが、注文して本当によかったです。一生大切にします。前に進めない人の心が救われますように。」
ベビーメモリアルも好評だ。赤ちゃんの髪の毛で作ったペンダントを注文した方から、後日「子どもがとても喜んでいる」とお礼の電話をいただいた。祖父母が孫へのプレゼントとして注文されるケースも増えており、Webサイトからの直接の申し込みも増えている。
ペットメモリアルは「亡くなった後」の商品なので積極的に広告を出しにくい分野だ。その代わり、丁寧な説明と口コミによって信頼を積み重ねてきた。今後は、「誕生」や「結婚」など、人生の“喜び”を彩るギフトにも取り組んでいきたいと考えている。実際、結婚式で髪の毛を使った指輪を作りたいという要望にも対応するなど、日常生活の中で人の心に寄り添うブランドを目指している。

『レザーのお守り袋入りABBY®』

川崎を拠点に世界へ― 人との縁が育む国際展開 ―

工房は川崎市高津区下野毛にあり、2011年からKBIC(かわさき新産業創造センター)に入居していた。KBICを出るとき、製造には可燃性ガスを扱うため設置場所の条件が厳しかったが、現在の場所はそれをクリアできた。研究・製造・地域が一体となって動ける環境で、地域とのつながりを大切にしている。
「今後、事業を拡大し移転する際にも川崎市内でやりたいと考えています。川崎との縁を大切にしたいと考えています。」
白倉氏の国際展開の原動力は、意外な場所から生まれた。通っていたスペイン語学校での出会いが、国際展開のきっかけとなった。そこで知り合った仲間が現在の社員となり、スペイン人の先生は欧州市場調査を担当するマーケターとなった。白倉氏も15〜16年スペイン語を学んでおり、今では海外展開を一緒に進める心強い仲間となっている。英語もスペイン語も堪能な社員が海外展開を支えるなど、人と人とのつながりが自然と事業の広がりを生んでいる。
2024年春から本格的にネットサービスを開始し、Instagramを国外向けと国内向けに分けて運用。同年9月には台湾で開催された「卡哇伊*媽媽Festival(カワイイ・ママフェスティバル)」に出展し、SNSでの発信を通じて現地ユーザーから大きな反響が寄せられた。この展示会をきっかけに、台湾企業から営業代理店契約の打診があった。海外展開が現実味を帯びた瞬間だった。

悲しみから喜びへ― 科学と心をつなぐ、次なる挑戦 ―

白倉氏は「宝石としてのダイヤモンドではなく、科学的に証明された素材」という考え方を大切にしている。ラボグロウンダイヤモンド(人工合成ダイヤモンド)は、炭素の結晶構造を精密にコントロールした、理想的な結晶だ。欧州を中心に認知度が急速に高まっており、日本でも今後数年で普及が進むと見込んでいる。
今後は代理店体制を維持しながらも、直販によるブランド力強化を視野に入れている。DLC技術は、医療や環境、自動車部品など多方面への応用が進んでおり、新たな素材へのコーティング技術など複数の特許出願も進行中だ。「産業向け技術開発も視野に入れていますが、いまはアクセサリービジネスに注力し、安定軌道に乗せることを目指しています。」
PETボトルという産業技術から、人の心に寄り添う製品へ。「前に進めない人の心が救われますように」というユーザーの言葉を胸に、同社の挑戦は続く。川崎から世界へ、大切な記憶を永遠の形に変える科学と心をつなぐ技術は、今日も誰かの想いを永遠の輝きへと変えている。