株式会社ピットロード
1/700の海に込めた、職人の誇りと夢
― 資料への執念と3D技術が切り拓く、艦船模型の新時代 ―
代表取締役 鈴木 幹雄
| 事業内容 | 1/700スケール艦船模型「Skywave」シリーズをはじめとする、模型(プラモデル等)・玩具、ディスプレイモデル、フィギュア等の企画・開発・製造・卸売 直営店「ノースポート」・インターネットサイトでの直販 3Dデータ・資料提供事業(IPビジネス) |
| 企業名 | 株式会社ピットロード |
| 創業 | 1981年(昭和56年)3月 1987年(昭和62年)7月設立(有限会社ピットロード東名として) 2009年(平成21年)9月 株式会社ピットロードに改組・改称 |
| 所在地 | 川崎市高津区梶ヶ谷5-10-3 |
| 電話 | 044-865-2460 |
| 従業員 | 19名(開発・販売・デザイン) |
| 代表 | 代表取締役 鈴木 幹雄(ズズキ ミキオ) |
| URL | https://pit-road.jp/ |
手のひらに載る小さな艦船模型。その1/700スケールの船体に刻まれた無数のディテールは、単なる「再現」を超えた、作り手の執念の結晶だ。戦艦大和の未知の部分にも挑み、海底調査による最新データまで模型制作に反映させている。全国に広がるネットワークを駆使して図面を集め、自衛隊の進水式にも足を運んでいる。かつて川崎の街角にあった小さな模型店が、今では映画やゲーム業界にも資料やデータを提供する存在となっている。
「徹底した資料収集と、妥協なき製造工程の追究があってこそ、良いものを作れる」。その信念を40年間貫いてきた株式会社ピットロードの挑戦は、今も進化を続けている。
高津区梶ケ谷で始まった挑戦 ― 街の模型店がメーカーへ ―
1981年3月、川崎市高津区梶ケ谷。代表取締役の鈴木幹雄氏が「ホビーショップ ピットロード」を開業したその年は、ガンダムがブレイクした年でもあった。鈴木氏は大学卒業後、従兄が経営していた鉄道模型メーカー「グリーンマックス」で5年間、模型メーカーとしてのノウハウを学んだ。開業から3年後の1984年、転機が訪れる。
グリーンマックスが鉄道模型に特化する方針を打ち出したことで、鈴木氏が開発に関わっていた1/700艦船プラモデルのブランド「スカイウェーブシリーズ」の金型を引き継ぐことになった。10種類以上の金型を買い取り、メーカーとしての第一歩を踏み出した。1985年からは独自の新しい金型の開発もスタート。1987年には法人化を果たし、有限会社ピットロード東名となった。
「スカイウェーブ」というブランド名は、「水と空」を意味する「スカイ&ウェーブ」を縮めたもの。船と飛行機の両方を1/700スケールで手がけたいという思いが込められている。
「現物に近いものを」の執念 ― 資料収集と全国ネットワーク ―
メーカーという立場になったとき、当時の艦船模型業界を見て、さらに精密さを追究できる可能性を感じた。「資料を調べれば、より良いものを作れるのではと思い立ち、できる限り現物に近いものを世に送り出そうという思いで努力を重ねてきました。」
その執念は、資料収集の方法に表れている。1945年の終戦時に焼却処分をまぬがれた青焼きの図面を丹念に収集し、写真から形状を解析していく。当社には船の造形に深い知識を持つ社員が3名在籍している。さらに全国組織「ネイビーヤード」のネットワークでは、定期的な情報交換会で図面や写真を持ち寄って情報を共有し、協力し合う。
現代の自衛隊艦船については、海上幕僚監部広報室に取材を申し込み、進水式や就役式の際などプレスと同様の取材許可を得て詳細な資料を収集している。情報がまったくない場合でも、船の形は決まった法則で作られるため、同型の他艦艇を参考にしながら図面を書き起こす。 記念すべき独自開発の第一号は、1986年に発売した旧ソ連海軍の「クリヴァク級フリゲート」。その次が海上自衛隊の護衛艦「はつゆき型」だった。既存の主要メーカー各社では1/700 スケールの海上自衛隊艦船のラインナップがなく、このスケールでは日本で初めて護衛艦のプラモデルを発売したことで、大きな反響を呼んだ。
700パーツに込めた大和への想い ― 木型から3Dへの転換期 ―
苦労したのは、創業35周年記念企画として2017年にリリースした「戦艦大和最終時」のモデルだ。パーツ総数は700点に及び、同種モデルの約2倍という細分化によって、精密な表現を追求した。
この大和のプロジェクトは、原型製作から3Dデータへの転換期でもあった。このプロジェクトでも原型は作ったが、金型工場には3Dデータで渡した。
このプロジェクトのためネイビーヤードから2名を迎え入れ、その2名を中心に開発が進められた。実際に大和に関わった方から直接話しを伺い、また、存命でない関係者についても、当時の状況を知る方々から間接的に情報を収集した。途中で新たな情報が入り、設計を何度も変更し精度を高め、普通は見ることのできない船底部の形状まで徹底して再現した。
「海底調査など最新資料も反映したことで、本来の大和の姿に近づいたと評価されたことが嬉しかったです。詳細な設計図が残されていない大和は謎とされる部分も多く、その解明に挑むことが、多くのファンを魅了しています。忠実に再現できた点について、ファンから高い評価をいただきました。」
精密な表現を追求した戦艦大和最終時のモデル
戦艦大和最終時の3Dデータ
川崎で50年、新たな挑戦へ ― 3DデータとIP事業の展開 ―
1974年に川崎に引っ越してきてから50年になる。
「今までは作ることに専念していたが、今年から新しい分野に進出することもあり、地域との連携を深めながら、他社とのネットワークやコラボレーションなど、新たに立ち上げた事業を広く展開していく。」
その新しい分野とは、長年の設計で蓄積された3Dデータや実艦資料を活用したIPビジネスだ。以前から映画会社のプロデューサーから相談を受けることがあった。今夏(2025年8月)公開の映画「雪風」では、魚雷発射管や艦橋内部等のディテール部分の資料を提供し、プラモデルの3Dデータも提供。これらのデータがCG制作の基礎として活用された。2019年の映画「空母いぶき」をはじめ数多くの映画制作に協力し、ゲーム「蒼焔の艦隊」にも3Dデータを提供している。 「今まではビジネスとして考えていませんでしたが、今ある資産を活かし、将来を見据えたビジネスとして確立するために、新たにIP事業を立ち上げました。当社が持っているデータを活かして事業を展開してまいります。VRにも進出の足掛かりを得るため、神田技研とのコラボレーション企画で2018年の全日本模型ホビーショーでは、弊社作成の3Dを使用した戦艦大和と護衛艦あさひのVRのデモンストレーションを行いました。今後はこうした分野にも積極的に取り組んでいきたいです。」
未来を担う研究船「みらいⅡ」 ― 就役前の船舶のモデル化への挑戦 ―
最新プロジェクトは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の公募で採用された北極域研究船「みらいⅡ」を就役前にモデル化するという試みだ。公募に際し、模型化した「みらいⅡ」をイメージしやすいように、限られた時間ではあったが、一般に公開されている断片的な資料を基に「みらいⅡ」を3Dモデリングし、ピットロードからの提案として応募している。その姿勢と、途切れることなく精密な艦船模型を製品化し続けている当社の実績が評価され採用に至った。採用に至り、実際の図面資料に接することが出来るようになり、試作した3Dモデルの答え合わせが進められている。幸いまだ大きな誤りは無いようだ。普段からの開発力が発揮されたからに他ならない。
「みらいⅡのモデル化を通じて、地球環境問題への関心の向上にも貢献できれば、SDGsの理念にも合致する意義深い取り組みだと思います。」
「楽しくないといけない」 ― 模型文化を次世代へ ―
任せることのできる人材が育ってきたこともあり、ここ数年は心に余裕が生まれ、社長自身も模型制作を楽しむようになった。社内プラモデルコンテストを定期的に実施しており、社長も作って参加している。「自分がものを作っていて楽しくないといけない」
模型への深い情熱を持つ若手社員も加わり、技術と情熱を次世代へつなぐ取り組みが始まっている。
IP事業における映画やゲームはすでに形になりつつあり、今後は多様な交流の中で生まれたアイデアや製品を基盤として、さらなる活用方法を模索していく。1/700スケールのプラモデルでは、ストラクチャーやビルなどの建築物や街づくりを俯瞰(ふかん)できるモデルの制作にも注力していく。
「模型という一つの文化、人間が手で作るという文化を大事にしたいと考えています。人はもともと手を使うことで発達してきたため、その文化を大切に守り継承していきたいと考えています。高齢になってからも脳のトレーニングになりますし、組み立てる前に完成形を思い描くことで想像力も養われます。」
ガンダムブームから始まった街の模型店が、今や映画・ゲーム業界にデータを提供し、国の研究船のモデル化まで手がける。資料への執念と、全国に広がる艦船模型愛好家のネットワーク、そして「自分が楽しくないといけない」という哲学。1/700の海に込めた職人の誇りは、これからも川崎から次世代へと受け継がれていく。