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川崎元気企業調査報告書(川崎 元気本)
掲載企業紹介

株式会社tappi.lab(tappi.lab)

日本古来の「ひば」の自然の力を、独自のナノ技術で現代の暮らしへ
― 川崎発の天然消臭スプレーが切り拓く新市場 ―


代表取締役 園田 孝一

事業内容青森ひば精油をはじめとした精油の乳化及び商品開発、製造、販売
企業名株式会社tappi.lab(tappi.lab)
創業2024年(令和6年)7月17日
所在地川崎市川崎区駅前本町11-2 川崎フロンティアビル
電話050-6883-8806
従業員非公開
代表代表取締役 園田 孝一(ソノダ コウイチ)
URLhttps://tappilab.co.jp/

川崎の名店「おつけもの慶」。キムチで有名なこの店が抱えていた悩みは深刻だった。催事用のレンタル什器や運送車両に染み付く頑固な臭い。どんな消臭剤を使っても消えなかった臭いが、ある試作品によって見事に消えた。その試作品こそ、「青森ひば」の精油と水けで作られた「ニオイトリMASHUU」の原型だった。開発したのは株式会社tappi.lab。「日本固有の自然素材を、現代の暮らしに役立てたい」という想いが、4年の実証実験を経て、ついに製品として結実した。

コロナ禍が生んだ発想の転換 ― 自然由来の素材との出会い ―

2020年、世界中がコロナ禍に見舞われる中、スマートフォン用タッチパネルのコーティング材を開発していた森本専務は、抗菌性を付与するのに日頃から触る物で顔の近くで使用する為に天然の物で出来ないか考えていた。そこで、自然由来の代替素材を探し始めた。そこで出会ったのが青森ひばだった。
「オンラインショップでアロマ関係を検索していたら、青森ひばの精油が強力な抗菌作用を持つことを知りました。」
青森ひばには「ヒノキチオール」という成分が特に豊富に含まれている。この成分の強力な抗菌・消臭・防カビ・防虫効果により、ひばは古くから寺社仏閣や仏像の材料として重宝されてきた。また、ひばが基礎に使われている古民家は何百年ももつと言われている。
しかし、精油は油。水と混ぜるには通常アルコールやグリセリンが必要となる。
「アルコールを使わずに水と油を混ぜる」、化学企業と表面処理技術、それぞれの分野で経験を積んできた10年来の知人、園田孝一社長と森本専務。この技術開発への挑戦が、株式会社tappi.labの創業へとつながっていく。

水と油の分離を超えて ― 強力な消臭力の実証 ―

開発を進める中で、意外な協力者が現れた。森本専務は「おつけもの慶」のキムチの大ファンで、店の人とも顔なじみだった。ある日、催事出店時の悩みを聞かされる。
「レンタルの冷蔵什器や運送車両に、強烈な臭いが染み付いてとれない。その掃除が本当に大変なんです」。ちょうど、ひば精油と水を混ぜる技術開発を進めていたところだったため、試作品を提供した。結果は驚くべきものだった。あの頑固な臭いが、見事に消えたのだ。
「水と油なので、時間が経つと分離してしまう。そこをクリアするのに3年かかりました」、と当時の苦労を振り返る。油を微細化する技術、その最適なサイズの設定、そして長期間安定して分離しない配合。ナノサイズでありながら、小さすぎてもいけない。水とフィットする「ちょうど良いサイズ」を見つけ、ついに独自の「ナノ分散工法」の開発に成功した。 「わかってしまえば単純な仕組み。でも、その『わかる』までが一番難しい」。この言葉に、技術開発の本質が凝縮されている。化学分野の知見を持つ園田社長と、表面処理技術など異分野で経験を積んできた森本専務の柔軟な発想が組み合わさり、画期的な技術を生み出した瞬間だった。

MASHUUの製品ラインナップ

100%ピュアにこだわる理由 ― 本物のひばの香りを再現 ―

「青森にはすでに多くのひば製品があります。その中で差別化が必要でしたが、実際に香りを確認してもらうと、違いがすぐに分かっていただけました。」
その秘訣は、アルコールを一切使わず、ひば精油と水で作られているため、ひばの木そのままの香りが再現されているところにある。原料となるひば精油は、青森県竜飛岬のひば精油精製工場と連携して調達している。社名の「tappi」も、この竜飛(たっぴ)に由来する。日本のひばの約8割は青森県に生育しているが、国立公園内に生育していたり伐採制限があったりと、貴重な資源となっている。100グラムのおがくずから採れる精油はわずか1〜2グラム。この希少な精油を、製材時に出る廃材の「おがくず」から抽出することで、資源の有効活用を実現している。
「連携先のひば精油精製工場では、ひばのおがくずだけを使用しています。混じり気のない状態だからこそ、本物のひばの香りを引き出すことができます。」
青森の資源を、川崎の技術で製品化する。この地域を超えた連携が、新たな価値を生み出している。

原材料のひばのおがくず

想定外の効果が続々 ― 革製品から在宅介護まで ―

製品化後、予想外の効果の声が次々と上がった。
「カビが生えて捨てようと思っていた革のコートにスプレーしたら、カビがきれいにとれました」と、イベントで製品を購入した方から喜びの声が寄せられた。中高生の子どもを持つ方からは「運動着を洗濯する前にスプレーすると、今まで取れなかった臭いが1回の洗濯で消える」という感想も。特に在宅介護の現場からは切実な声が届いている。「介護現場特有の臭いに悩んでいたが、これで解決しました」といった感謝の言葉は、開発チームにとって大きな励みとなっている。
法人向けの展開も広がっている。東京のレンタル什器会社は、生魚などの臭いが残る什器の消臭に効果を認め、業務用の大容量タイプを定期的に購入。各地の営業担当者が携帯し、回収現場での即座の消臭作業を可能にした。
さらに印象的なのは、積水バイオリファイナリー岩手工場での採用事例だ。生ゴミからエタノールを抽出する工場で、近隣対策と職場環境改善のため消臭剤のコンペが行われた。
「当社の製品は他社製品より高価でしたが、価格差を上回る効果が認められ採用に至りました。」

川崎から全国へ、認知の輪 ― 多様な販路開拓が生む好循環 ―

販路開拓の転機となったのは、川崎の老舗ドラッグストアチェーン「灰吹屋薬局」での取り扱いだ。「通常の棚での陳列ではなく、特設コーナーを作っていただきました。特に溝ノ口の大型店舗での展開で認知度が大きく向上しました。」
イベント出店も功を奏している。川崎競輪場のイベントでは、MCを務めていた方が製品を気に入り、その紹介で新宿御苑での大規模イベント「GTFグリーンチャレンジデー」への出展が実現。さらに「マタニティ&ママフェスタin恵比寿」など、ターゲット層に直接アプローチできる場での展開も進んでいる。20代から60代まで幅広い世代から支持を集め、自然志向の顧客層を着実に広げている。
2025年5月には、川崎市のふるさと納税返礼品に採択。「川崎そだち」ブランドとして、青森ひばという地域資源を活用した製品が認められた。同年8月には青森ねぶた祭りにも初出店し、本場青森でも「本物のひばの香り」として話題となり、ネットでのリピーター獲得にもつながっている。

困っている人を助ける喜び ― 日本固有の資源を独自技術で広く普及 ―

現在の製品ラインナップは主力の「ニオイトリMASHUU」に加え、ペット用の「MASHUU for PET」、スプレータイプをそのまま固形化した置き型の「MASHUU ゲルタイプ」そして、お客様の声から産まれた完全無添加の入浴剤「MASHUUシリーズ ひば湯の素」。
製品名の「MASHUU」には、親しみやすい想いが込められている。「においとります」が「においとりまっす」となり、さらに「においとりまっしゅ」へと変化。この語呂合わせから生まれた名前が、今では多くの人に愛されている。
特に入浴剤は、防腐剤や着色料、香料もアルコールも使わない、これまでにない製品となっている。ナノ分散技術がもたらす使い易さも特長だ。ペット用製品の開発には、実際にペットを飼っていた経験が活きている。「犬はもちろん、アルコール成分を嫌がることの多い猫にも安心して使える」という点に加え、「毛玉ができにくくなる」という嬉しい効果も発見される(犬種による)など、ペットオーナーからも高い評価を得ている。
今後は、さらなる製品開発や新たな分野への応用も視野に入れている。水と油を混ぜる独自技術は、様々な可能性を秘めている。「日本固有の、古来から受け継がれてきた自然のものを、独自のナノ技術で現代の生活や社会に生かし、新しい独自技術で広く普及できるようにしたい」。園田社長のこの言葉に、同社の使命が凝縮されている。今まで油の状態では使用用途が限定されていたひばの効能を、乳化技術によって誰もが使える形にした。

「おつけもの慶」での頑固な臭いの悩み、在宅介護の現場やペットと暮らす家庭の困りごとなど、様々な課題に寄り添い解決してきた同社の技術は、今や全国へと広がっている。
「困っていることを解決できたこと、自然志向の方にマッチした製品を作れたことが何より嬉しい。」、
園田社長のこの言葉が示すように、川崎で生まれた技術と青森の恵みが出会い、人々の暮らしに新たな安心を届けている。その爽やかな森の香りが、これからも人々の暮らしに寄り添い、「困った」を一つひとつ「よかった」に変えていく。