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川崎元気企業調査報告書(川崎 元気本)
掲載企業紹介

株式会社 半ざむ

株式会社 半ざむ 代表取締役 佐保田 篤

睡眠の“在り方”を追求する
古くて新しい寝具のコーディネーター

代表取締役 佐保田 篤

事業内容寝具、オーダーカーテンの販売
企業名株式会社 半ざむ
創業1876 年(明治9 年)
所在地川崎市多摩区登戸1890
電話044-922-8036
従業員30名
代表佐保田 篤(サホダ アツシ)
URLhttps://www.hanzam.co.jp/

小田急線向ヶ丘遊園駅近くに、「半ざむ」という洗練された外観の寝具店がある。一見、『半分寒い』とも受け取れる寝具店らしからぬ店名だが、川崎近隣のみならず遠方からも多くの顧客が訪れる繁盛店だ。「会話のネタとしては良い名前です。メリットが大きいので、社名変更は考えていません」と笑顔を見せる代表取締役の佐保田篤氏に、創業から将来構想に至るまでの事業展開について話を伺った。

ヨーロッパ放浪から得られた専門的店舗への意識

社名の由来でもある佐保田範左ヱ門氏が1876 年に多摩区で創業した呉服店および雑貨店『大和屋』が、同社の起源である。創業者は、地域の人々に親しまれるうちに『はんざえもんさん』から『はんじゃむさん』という愛称で呼ばれていた。地域に親しまれるお店を目指していた佐保田氏の祖父が、1948年に独立して製綿所を開き、1949 年に『半ざむ』と名付けた寝具店を設立した。この店舗は1953 年には布団製造販売、1997 年にはオーダーカーテン販売などへと事業を拡大してきた。

「子供の頃からお店に遊びに行くのが好きで、階段から両親が楽しそうに仕事をする姿をよく見ていました」と語るのは、創業家の次男である佐保田篤氏だ。早くから経営者としての意識を高めており、「社長になるには人より厳しい環境を経験すべき」との思いから、全寮制の中高一貫校に進学。その後、大学では経営学を学び、新卒で急成長中だった呉服事業の会社に就職した。しかし、入社からわずか2 年半でその親会社が倒産。そのタイミングで「半ざむで働く」と腹を決めた佐保田氏に、当時社長だった父から「今のうちに海外を見てこい」との言葉をかけられた。商材の輸入に力を入れ、発想力豊かだったことで、街の寝具店とは一線を画した経営姿勢から“宇宙人”と呼ばれていた父ならではの指令だった。

佐保田氏は、欧州10 か国を主とした約半年間の海外放浪に出た。日本より成熟した市場を目の当たりにし、寝具店の継続性に関する一つの結論に至る。「成熟した市場では、年々特徴を生み出し続ける店舗が必要です。総合的な品揃えを追わず、専門性の高い店舗を目指す意思を固めました」と語る。

そして、2008 年、満を持して佐保田氏は「半ざむ」に入社。「感覚でではなく、ロジックに基づいて商品を売ることが重要」と考え、これまでの見聞から得た営業方針を展開した。具体的には「あなたにとってこれが最適です。あちらは合いません」といった個別アドバイスを重視した。「以前は、男性には硬め、女性には柔らかめといった感覚的な基準でマットレスを販売していました。しかし、当社では計測器を用いた独自の骨格診断を基に、個々に最適なマットレスを提案しています」と佐保田氏は語る。身体にあったマットレスを提供することで顧客満足度は向上し、返品率が減少し、経営効率の改善にも成功している。

積極的なリニューアルで、睡眠に課題を感じている顧客へ浸透してきた

佐保田氏が大切にしているのは、「一般消費者が持つ潜在意識を事業者としていち早く言語化する」ことだ。「布団という“モノ”の裏にある、良い眠りの在り方といった“コト”をお客様にしっかり伝えなくてはいけません」とも語る。そのメッセージが伝わることで、顧客は「こうすればいい」と具体的な製品選びができるようになる。2014 年にリニューアルしたホームページは、そのための強力なツールとなっている。腰痛など具体的な悩みを持つ方への提案実例をブログで紹介したり、自分に合った寝具を選ぶ方法を解説したりと、ユーザーの課題に寄り添った内容を充実させた。この工夫により、悩みを抱えた一般ユーザーが気軽に来店しやすい環境を整えている。2016 年に本社をリニューアルした。それ以前は、“昔ながらの布団屋”の典型的なレイアウトや品揃えで、こだわりの寝具を求める人々に十分訴求できていなかった。しかし、リニューアル後はより専門性を高めた店舗へと生まれ変わり、新たに増えてきた顧客は30~50 代の働き盛り世代だった。彼らは、仕事の充実に良質な睡眠が欠かせないことを実感し、専門的なアドバイスを求めて来店してきた。

2016 年には自社企画商品の開発に取り組み、子ども用の綿毛布『ひなたぼっこ』シリーズを上市した。きっかけは、自身の子どもが保育園に入園する際、理想的な毛布が市場にないことに気づいたことだった。国内には高品質な毛布を製造する工場が存在するものの、「小ロットには対応できない」という理由で依頼を断られることが続いた。それでも挑戦してくれる工場が大阪で見つかり、理想を形にすることができた。「海外からの物流費がかからないことや、日本人特有の細かなニュアンスが伝わることなど、国内工場には多くのメリットがあります」と佐保田氏は語る。日本の工場の可能性を活かし、それを顧客に伝えることで、寝具業界の生態系を維持することを大切にしている。

寝具業界の変化に対応した事業展開で良質な睡眠につながる寝具を届ける

2020 年、佐保田氏は代表取締役に就任した。寝具業界にも流通構造の変化の波が押し寄せている。それに合わせ、2022年には山梨に縫製工場を、2024年には川崎市内の提携の縫製工場と取引を開始し、仕入れ販売からSPA(製造小売業)形態への移行を少しずつ進めている。以前は寝具メーカーのみに情報が蓄積されていたが、EC などを通じて直接顧客情報が集まるようになり、小売店ならではの強みを実感している。こうした情報を迅速に形にするため、メーカー、卸、小売業の枠を超えたネットワークを築き、実際に行動に移すことで、佐保田氏は「情報を持ってくる人として、皆さんが支援してくれます」と重宝されている。山梨の工場で製造しているシーツやカバーの『Wake up』シリーズは、30 社以上の小売店にも卸されている。

一方で、故きを温ねることも怠らない。打ち直し工場から始まった自社の「直して使うDNA」を守り、綿布団の打ち直しや羽毛布団、ウレタンマットレスのクリーニングを強化している。半ざむは、不易流行の事業展開を通じて、寝具に求められるコトをこれからも追求していく。

    (左)店舗外観    (右)当社オリジナル商品 ひなたぼっこ