Heartseed 株式会社
重症心不全の治療を目的とした世界初の
iPS細胞由来の心筋再生治療を開発する
代表取締役社長 福田 恵一
事業内容 | iPS 細胞を用いた心筋再生医療の開発・事業化 |
企業名 | Heartseed 株式会社 |
創業 | 2015 年(平成27 年)11 月 |
所在地 | 【本社】東京都港区芝浦1-2-3 シーバンスS 館5F 【研究所】川崎市幸区新川崎7-7 AIRBIC A28 |
電話 | 03-6380-1068 |
従業員 | 40名 |
代表 | 福田 恵一(フクダ ケイイチ) |
URL | https://heartseed.jp/ |
「当社は、重症心不全の治療を目的とした世界初のiPS 細胞※由来の心筋再生治療を開発しています。再生医療の領域では世界で初めて心筋細胞の再生に成功し、1995 年から20 年間、大学で研究してきた心筋の再生医療を産業化するために、2015 年に会社を設立しました」と福田社長は胸を張る。
国内で治験を開始した開発品HS-001 は、健康なドナーの血液由来の他家iPS 細胞から再生した心筋細胞、特に心室筋細胞を1000 個凝集した心筋球だ。これを心臓の筋肉の中に移植・補填する「心筋補填療法」により、患者の心機能を根本的に改善することを目指している。※iPS 細胞:多能性幹細胞
心筋細胞の純化技術、心筋球の投与デバイスなど独自の特許技術を保有する
「当社は、心筋細胞の純化技術、心筋球の投与デバイスなど独自の技術を保有しており、これにより他家iPS 細胞を用いた治療法の安全性を大幅に向上させています。心筋細胞を安全に移植するために、ガン化の恐れがある未分化iPS細胞や心筋細胞以外の細胞を完全に取り除く技術が純化技術です。
これは細胞の栄養源の違いに着目したもので、メタボリック・セレクションと呼ばれており、心筋再生医療の実現に大きく近づきました。また、心筋細胞を移植する時の特別な注射針を作りました。それを心筋球の投与デバイスと呼んでいます。心臓に何か所も針を刺すので、出血したら手術になりません。そこで、鍼灸の針治療で使う針にヒントを得て、出血しない注射針を作りました。我々はこの治療法による患者様への投与を一日も早く実現したいです」と福田社長は熱く語る。
1983 年に慶応義塾大学医学部を卒業して循環器の医者になった福田社長は、20 代の頃、難治性重症心不全いわゆる拡張型心筋症の患者を診ていた。当時は心臓移植もなく有効な治療法がなかった。こういう病気を治せるような新たな治療法を研究したいという思いがきっかけだった。留学先の米国ハーバード大学でマウスのES 細胞を培養中に心筋が出来るという研究報告を見て、心筋が作れるなら心臓の病気を治せると1995 年に研究を開始した。1999 年にヒトの骨髄の間葉系幹細胞から心筋細胞が作れることを世界で初めて報告した。2006 年からiPS 細胞に方向転換して現在に至る。心室筋の作製、心筋細胞の純化、心筋球の移植の3 つの技術を確立したので、2015 年に会社を設立した。
大手製薬企業ノボ・ノルディスク社を通じて、迅速に世界市場へ展開する
「研究所を移転する際に、新川崎に慶応義塾大学のK2 タウンキャンパスがあり、研究開発型インキュベーション施設のかわさき新産業創造センター(KBIC)が隣接していることも調査して分かっていましたので、2020 年にJR 新川崎駅から徒歩10 分のKBIC に入居しました。その理由は、再生医療やバイオテクノロジー分野の企業が集積していることや慶應義塾大学医学部がある信濃町キャンパスとのアクセスが良好であることです」と福田社長は笑顔で語る。
福田社長の言葉「ゲレンデの上のスキーをしてはいけない」を研究所に掲げている。人の後ろを歩いてはいけない、つまり、全部独自の技術を開発することを意味する。苦労して開発した独自の技術は、最終的には特許や論文になる。新しい治療法の開発は、常に課題を克服する挑戦の連続だ。社員には「急がば回れ、一生懸命苦労をいっぱいした者勝ち、君達がやっていることは未来の医療を変えることなんだ」と常に説く福田社長は、「社員に苦労を苦労と思わせないことが重要だ」と語る。
心不全は、心筋梗塞など心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が詰まって血液が流れなくなって心筋細胞が死んでしまう病気で、虚血性心疾患ともいう。この虚血性心疾患に伴う重症心不全の患者を対象とした他家iPS 細胞由来心筋球HS-001 の第Ⅰ/Ⅱ相治験であるLAPiS(ラピス)試験を現在進めている。
世界市場への展開を迅速に進めていくために、他家iPS 細胞由来心筋球HS-001 の開発・製造・販売に関するライセンス契約を大手製薬企業ノボ・ノルディスク社と2021 年に締結した。
アイデアと発想力が重要になる再生医療や遺伝子治療の領域を手掛ける
当社のミッションは「再生医療で心臓病治療の扉を開く」、ビジョンは「再生医療で世界を変える」だ。心筋再生医療の分野で世界をリードし、心不全患者のQOL(生活の質)を向上させることを目指している。他家iPS 細胞由来心筋球HS-001 の投与には開胸手術が必要だが、カテーテルを用いた低侵襲な投与法を開発中だ。また、生モノの心筋球を搬送する輸送液も開発中だ。さらに、他家iPS 細胞で問題となる拒絶反応を抑制する免疫抑制剤を使えない患者向けに本人の血液由来の自家iPS 細胞からの心筋再生を開発している。将来的には、他の疾患や再生医療の分野にも応用できるプラットフォーム技術を開発し、より多くの患者に革新的な治療法を提供していくことを計画している。
「心筋再生医療に情熱を持つ人材を常に求めており、バイオテクノロジーや再生医療に関心のある方々、共に新しい治療法を創出し、患者様の命を救う使命感を持った方々を歓迎します」と語る福田社長は、今後はプレシジョン・メディシンや個別化医療など患者一人一人の病気に対して異なる治療法が必要との考え方から再生医療や遺伝子治療の領域が発展していくと見通している。これらの領域ではアイデアと発想力が重要になるので、そういう領域を手掛ける会社になることを志向している。
「川崎市は、企業や大学を誘致して新たな産業を創出するという明確なビジョンを持っているので、それが市政に反映されています。日本の中でも非常にユニークな存在で称賛に値します。そして、21世紀の理想的な街づくりだと思っています」と福田社長から川崎市へのエールの言葉を頂いた。
(左)心筋細胞を1000 個凝集した微小細胞「心筋球」 (右)心筋球を心臓の筋肉の中に移植補填する「心筋補填療法」