株式会社 メタジェン
ブラウンオーシャンを切り拓く!
腸内細菌による「病気ゼロ社会」への挑戦
代表取締役社長CEO 福田 真嗣
事業内容 | 腸内環境を主軸とした研究支援・共同開発事業、ヘルスケア関連製品の開発支援 |
企業名 | 株式会社 メタジェン |
創業 | 2015 年(平成27 年)3 月 |
所在地 | 山形県鶴岡市覚岸寺字水上246-2(本社) 川崎市川崎区殿町3-103-9(川崎オフィス/研究所) 東京都港区芝浦3-3-6 東京科学大学キャンパス・イノベーションセンター INDEST 404(東京オフィス) |
電話 | 0235-64-0330(本社) |
従業員 | 26名 |
代表 | 代表取締役社長CEO 福田 真嗣(フクダ シンジ) |
URL | https://metagen.co.jp/ |
腸内細菌が人の健康に与える影響を解明し、「病気ゼロ社会」の実現を目指す―。株式会社メタジェンは、そんな大きな志を掲げて挑戦を続ける研究開発型のベンチャー企業である。同社は腸内フローラやその機能を網羅的に調べる技術を駆使し、腸内環境情報に基づいて個々人に最適化されたアプローチ方法を提案。その革新的なヘルスケアのコンセプトは、「腸内デザイン共創プロジェクト」を通じて広がりを見せ、業界の発展を牽引している。「病気になって初めて健康を意識するのでは遅い」という思いから、健康維持や予防医学の新しい形を追求し続けている。
研究者であり起業家―情熱の軌跡
1990 年代前半、『ジュラシック・パーク』との出会いが福田真嗣代表をバイオテクノロジーの道へと導いた。素朴な夢を胸に農学部への進学を決めた福田代表は、運命的な出会いを果たす。微生物研究室での実習中、一人の教授から「腸内細菌の研究をしてみないか」と声をかけられたのだ。
ブドウ糖からのエネルギー生成を学ぶ生化学の講義で、「お前、変わった奴だな」と言われながらも質問を重ねた日々が、微生物の世界への扉を開いた。そこで福田代表は「得られた研究成果を社会実装することに価値がある」という農学部特有の実学の精神を学んだ。
「毎日新しい発見があり、結果がすぐに見える」。腸内細菌研究の面白さに魅了された福田代表は、その後現在に至るまで25 年以上にわたってこの分野一筋に取り組んできた。2011 年、理化学研究所在籍中に、腸内細菌が作り出す「短鎖脂肪酸」である酢酸が、腸管出血性大腸菌O157:H7 感染症の予防に重要な役割を果たすことを明らかにした。この研究成果は世界的な科学誌「Nature」に掲載された。
しかし、学術的な成功が社会実装にそのまま結びつくわけではなかった。研究成果を持って企業を回っても興味を示してもらえることはなく、周囲からの反応は「すごいね」という賞賛だけ。「こんな評価をされるためにやってきたわけじゃない」。その虚しさが、社会実装への決意を固めるきっかけとなった。
社会実装への執念―試練と挑戦の日々
2012 年、福田代表は山形県鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所への移籍を決断した。移籍の背景には、世界トップレベルのメタボローム解析施設の存在、研究成果の社会実装を重視する風土があった。
しかし、そこでも日本の研究開発体制の現実が壁となる。
日本ではiPS 細胞研究に資金が集中し、「このままでは日本の腸内環境研究は世界に後れを取る」と訴えても、声はなかなか届かなかった。研究者の多くは論文執筆に没頭し、社会実装への関心は薄い。
「論文を書いて終わり。これでは科学技術の真の発展はない」。福田代表の胸には、アカデミアに対する危機感が募っていった。さらに、メディアで「この野菜を食べるとがん予防によい」などの情報が流され、スーパーからその野菜が消える事態も頻発。「科学者の間では『そんなことはない』と言って終わり。それでは一般の人は正しい情報を得られない」。研究成果を正しく社会に届けるには自ら行動を起こす必要があった。
「自分で実用化するしかない」。2015 年3 月、科学技術分野の創業支援のプロフェッショナル、株式会社リバネスとの出会いが転機となった。当時、研究者の起業は異端視される風潮があり、「アカデミアでの確実なキャリアパスがあるのにベンチャー設立を選ぶとは?」という声も聞こえた。
ベンチャー企業の一般的な成長モデルも、福田代表の目指す方向性とは異なっていた。VC からの資金調達では、短期的な収益や上場を求められる。「それでは本当の意味での『病気ゼロ社会』は実現できない」。代わりに選んだのは、志を同じくする企業との共同研究開発という道だった。また、創業からわずか7 ヶ月で、地元金融機関3 社から3,000 万円の融資を獲得。鶴岡では既に複数のバイオベンチャーが活躍しており、その実績も金融機関の判断を後押しした。
さらに画期的だったのが、「腸内デザイン共創プロジェクト」の立ち上げだ。「競争から共創へ」をキーワードに、業界の垣根を越えた連携を呼びかけ、本来競合同士と見られていた企業も含め2024 年現在では40 社が参画することとなった。「小さな市場を奪い合うのではなく、まず市場を作ることが重要」という理念が、多くの企業の共感を呼んだのである。
「病気ゼロ社会」への道―未来を拓く新たな挑戦
今、同社は新たな段階に入っている。2023 年4 月、カルビー株式会社との共同開発により、腸内フローラ検査とグラノーラの定期購買を組み合わせた「Body Granola」サービスを開始。個人の腸内環境に合わせた新しいパーソナライズド・ヘルスケアを提案している。2024 年12 月には、株式会社明治と連携し、腸内細菌のタイプを調べて自分にあったドリンクを定期購買する「Inner Garden」の監修・開発支援を行った。また、グループ会社のメタジェンセラピューティクスでは、腸内細菌叢の移植を用いた難病の新たな治療方法の確立を目指している。
腸内環境の重要性を広める活動は、着実に実を結びつつある。川崎市に研究開発拠点を構え、健康寿命の長い麻生区との連携も進める。「うんちツーリズム」という、健康と経済を結びつけた新産業の創出も構想。福田代表は、便に含まれる腸内環境情報を価値と捉え、「茶色い宝石®」と呼ぶ。その価値を活用した「ブラウンオーシャン」戦略という独自の構想は、健康増進と経済効果の両立を目指している。
研究者として、起業家として、そして何より「病気ゼロ社会」の実現を目指す一人の人間として。高校生時代のあの情熱は、今も福田代表の胸に脈々と息づいている。