有限会社 野原プラスチックス
樹脂射出成形のプロフェッショナル
難しい透明部品でも顧客をコンサルティング
代表取締役 束原 和雄(右) 吉田 春斗
野原プラスチックスは、樹脂射出成形のプロフェッショナル。成形が難しい透明な樹脂レンズや肉厚な樹脂部品を得意とし、難題を抱えた顧客を丁寧にコンサルティングする。町の公共設備や交通機関の照明レンズは、大手メーカーと同社のような匠のコラボで作られている。射出成形は部品の大量生産に適した技術のため地方や海外の低コスト生産地への流出が進み、川崎という首都圏で付加価値の高い事業を続ける同社は貴重な存在だ。
くぼみや縞模様のトラブルを経験とノウハウで回避
射出成形は、必要な樹脂部品の形を削り出した「金型」を作り、高温で溶かした樹脂を流し込む。冷めて固まったところで金型を開けば樹脂部品の出来上がりだ。ただし、樹脂は冷めて固まる時、わずかに縮んでくぼみができる「ヒケ」や、溶けた樹脂の流れた跡が縞模様として残る「フローマーク」が発生する。こういった現象を抑えるには金型形状や温度、圧力、射出速度の微妙な調整が必要で、射出成形事業者の経験とノウハウが製品の出来を左右する。
野原プラスチックスは、難易度の高い樹脂部品の「小ロット多品種生産」に対応し、顧客が最良の部品を生産するための金型形状や成形条件をコンサルティングする。特に、肉厚な部品は、金型内に樹脂を満たすのに時間がかかるため、成形中の場所による温度変化で不良につながりやすい。透明な部品も形状の微妙な変化で光の通り方が大きく変わってしまうため成形が難しい。同社はこれらの難しい部品を得意としており、他社で成形に失敗した顧客から原因の分析を頼まれる「駆け込み寺」となっている。問題を抱えた顧客に、部品の製造だけでなく、コンサルティングサービスを提供するのが同社の特徴だ。
「ダッコちゃん」の部品から事業を拡大
同社は1960 年、先代の創業者・束原弘氏が横浜・菊名で創業した。高等専門学校で化学を学び薬品メーカーに勤めた後、高度経済成長期の勢いのなかで起業。当初は玩具のゴム・プラスチック部品を手がけた。当時大ヒット商品となった「ダッコちゃん人形」向けに、人形を膨らませるのに吹き込んだ息が逆流しない「逆止弁」のアイデアを考案し、この部品の大量生産で事業を拡大した。人形のほか海水浴用の浮き輪、さらにこれもヒット商品となった「リカちゃん人形」の靴やバッグといった小物の量産を担当。さまざまな玩具の部品を家族総出で作りつづけ、二代目の現社長・束原和雄氏も子供のころ「学校から帰ると、部品の取り出しを手伝っていた」と振り返る。
しかし、玩具は需要の波が大きく、ブームが去ると一気に注文が途絶える。このため1975 年ごろから工業製品向けの事業をスタートした。菊名周辺の大手・中堅企業から自動車関連の部品などを受注し、社員6人でポリプロピレンやABS といった工業製品によく使う樹脂で射出成形のノウハウを蓄積していく。
川崎の現所在地に移転したのは1995 年。菊名の本社・工場を使えなくなり、短期間で移転可能な代替地を探した。売りに出ていた川崎の物件は、鉄道も高速道路も使えるため製品の物流に有利で、菊名に勤めていた社員も全員通勤が可能。一人の退職者も出さずに移転を完了した。
現社長の束原和雄氏は移転前の1993 年に33 歳で入社した。大学の理工学部で流体力学を専攻し実家の取引先でもあった大手メーカーに就職するが、技術者ではなく営業担当を希望。技術とコンピュータが分かる営業担当者としてトップセールスを記録し、8年勤めて管理職目前というところで実家に戻った。この経験が取引量と取引先の拡大に大いに役立っている。父親の急逝に伴い、1998 年に39 歳で二代目社長に就任した。
金属・ガラスから樹脂への代替を促進
現在、野原プラスチックスは社員14 人で、川崎の本社・工場のほか2017 年に新設した埼玉事業所で射出成形事業を展開する。顧客の要望をもとに、まず切削加工で部品を試作し形状を検討、溶けた樹脂の注ぎ口となるゲートの位置や形状の検討、量産に適した部品形状への微修正など、経験とノウハウに基づくコンサルティングで顧客をサポートする。
得意とする透明部品の成形では、一般的な材料であるアクリルのほか、強度が高いポリカーボネート、植物由来のエンジニアリングプラスチックであるバイオ・デュラビオなど、さまざまな素材で顧客ニーズに対応する。低圧成形を採用し、くぼみが発生する「ヒケ」を抑えるなどノウハウを駆使して美しい透明樹脂部品を成形する。
事業展開の鍵となるのは工程の改善提案で、顧客がそれまで厚いアクリルパネルを2枚重ねて接合し切削加工していたような部品を、ポリカーボネート樹脂の射出成形で一発成形するといった提案を行う。金属やガラスを加工していた部品を樹脂で一発成形する提案も多く、顧客企業の製造コストを劇的に低減するアイデアが評価されている。
束原和雄社長は現在66 歳、技術開発を先頭に立って牽引している。娘婿で32 歳の吉田春斗氏が2年半前に入社し、射出成形の条件出しをマスターしている。直近の年間売上高は約2 億円、顧客企業数が拡大し、その8 割は開発段階から参加してコンサルティングを行う案件だという。