株式会社 Slow Farm
完熟の美味さと直売の新鮮さ
来園客が絶えない人気のイチゴ農園
代表取締役社長 安藤 圭太
事業内容 | イチゴの栽培、イチゴ狩り、直売、スイーツの製造・販売 |
企業名 | 株式会社 Slow Farm |
創業 | 2019 年(平成31 年)3 月 |
所在地 | 川崎市麻生区早野246 |
電話 | 044-322-9492 |
従業員 | 25 名(アルバイト含む) |
代表 | 安藤 圭太(アンドウ ケイタ) |
URL | https://www.slowfarm.jp/ |
スーパーや食料品店に赤いイチゴのパックが並び始めると、春の訪れが近いことを感じさせる。小さな果実でありながら、季節感を伝える存在感はひときわ大きい。生命力に満ちた色彩、丸みを帯びた愛らしい形、つややかな表面、そして甘酸っぱい香りについ手が伸びてしまう。
そんな、子どもから大人まで幅広い世代に愛されるイチゴを生産している農家が、里山の風景が広がる川崎市麻生区早野地区にある。屋号は「Slow Farm(スローファーム)」。市内最大規模のイチゴ農園だ。5,000 ㎡もの敷地には3 棟の栽培ハウスが立ち並び、稲を刈り終えた田んぼの中で堂々とした存在感を示している。
スイーツまで楽しめるイチゴ農園「Slow Farm」
Slow Farm では、イチゴの栽培、イチゴ狩り、直売、スイーツの製造・販売を行っている。敷地内には栽培ハウスのほか、ハウス内に直売所が設置され、イチゴや旬のフルーツを使ったスイーツを提供するパティスリーや、イートインスペースも完備されている。広大な駐車場も併設されており、地元川崎や横浜ナンバーの車が、Slow Farm のイチゴを求めて絶え間なく農園を訪れる光景が印象的だ。
生産量はシーズンあたり28.8 トン、パックに換算すると約11 万パック分にも達する。単純計算では1 日あたり650パック近いイチゴを、12 月末から6 月上旬までのシーズン中に販売することになる。これでは来園客が途絶えないのも納得だ。イートインスペースは、パティスリーで購入したショートケーキやパフェを楽しむ家族連れや、ペットを連れたご婦人たちで賑わっていた。
伝統と最先端技術を融合した完熟イチゴ
栽培されている品種は、紅ほっぺ、よつぼし、ほしうらら、おいCベリーの4 種類。Slow Farm が特にこだわるのは“完熟”だ。イチゴ狩り経験者なら知っていると思うが、スーパーに並ぶイチゴと摘みたての完熟イチゴはまるで別物。完熟イチゴは香り高く、甘くてみずみずしい。その違いについて安藤社長に伺った。
「完熟したイチゴは果皮が柔らかく、輸送の際に傷つきやすいため、市場に出回るイチゴは完熟前に収穫されます。でも、イチゴは採った後にトマトのように追熟しないので、甘さや香りが十分ではありません。」恥ずかしながら、イチゴが追熟しないことをこの時初めて知った。
最高のイチゴを届けるための工夫は他にもある。完熟イチゴは、最も美味しく栄養価が高い早朝に収穫される。さらに、パック詰めされたイチゴは99%以上が売店で直売されるため、輸送による傷みもなく鮮度が保たれる。
また、安藤社長は肥料の組合せや濃度、温度管理、土作りなど栽培技術の研究にも余念がない。
「高設栽培では土を5 年ごとに総入れ替えするのが一般的ですが、ここでは毎年、収穫後に土を育てています。イチゴが成長する過程で土中の炭素が消費されるため、そのままでは水はけや肥料の保持力が落ち、植物の成長に影響が出ます。それを防ぐため、太陽光で一ヶ月ほど土壌を殺菌し、剪定枝を原料とした堆肥を加えてから、一ヶ月半ほど寝かせて土を再生しています。」
こうした昔ながらの土作りが元気なイチゴを育てる基盤となっている。一方で、土壌の水分量と日射量を基に給水量を調整する、AI 潅水施肥制御システムや環境制御装置といった、最先端のIoT 技術も導入。伝統と最先端技術を融合させる取り組みが、イチゴ栽培に新たな価値をもたらしている。
イチゴを通じて伝えたい、豊かなライフスタイル
イチゴの栽培技術をどのように習得したかを伺った。
「2018 年に家業の露地野菜農家を継ぐ前は、旅行代理店に勤める傍ら、週末には農業学校に通って農業の基本を学びました。
あとは実際にやりながら家族やベテラン農家の方々に教えてもらいました。」
つまり、安藤社長はサラリーマンから家業の農家へ転身した脱サラ組だ。前職では国内最大手の旅行代理店に勤務し、海外駐在や出張も多かったと言う。
家業を継いだ翌年、実家に近い早野地区に新たに土地を借り上げ、2020 年1 月にイチゴ農園「Slow Farm」をオープン。なぜ露地野菜ではなくイチゴを選んだのか、その理由をこう語る。
「都市近郊ならではの強みを最大限に活かせるのがイチゴだからです。輸送に弱いイチゴは、採れたてを地元で食べられる環境がないと真価を発揮できません。実は、こうした環境は世界的にも限られているんです。」安藤社長の視点には、前職で培った経験が活かされている。
「旅行代理店時代に海外の多くの地域を訪れましたが、これだけ大都市の中に生産地がある場所は稀です。川崎は世界的にも食生活が豊かで恵まれた地域です。ただ、多くの人がそのことに気付いていないのが現実です。だからこそ、『こういうライフスタイル、いいよね!』と僕らはイチゴを通じて伝えたいと考えています。」
前職で世界を巡った安藤社長の言葉には重みがある。将来的には川崎だけではなく、全国の都市近郊にもイチゴ栽培を展開し、豊かなライフスタイルを広げていくことが目標だ。
美味しいイチゴの見分け方
安藤社長のご厚意で、お話を伺いながら朝摘みの「紅ほっぺ」をいただいた。パックを開けた瞬間、うっとりするような芳香が広がる。果皮はツヤがあり鮮やかな紅色をしている。この時期(1 月上旬)の果実は、約70g とL サイズの生卵よりも重く大きい。ヘタを摘み、先端から口にすると、上品な香気と果汁が口いっぱいに広がり、甘さと濃厚な味わいに満たされる。表面のツブツブもしっかり感じられる。甘酸適和が特徴の「紅ほっぺ」だが、ヘタに近い上部の果肉までも甘く、思っていた以上に酸味が少ない。
そのことを伝えると、安藤社長は嬉しそうに「完熟させたイチゴは甘いんです。手前で採るから酸味が強くなるんです。」と教えてくれた。
ちなみに、美味しいイチゴの見分け方は次の3 点がポイント。ヘタが反り返っているもの(良好の指標)、根元まで真っ赤に色づいているもの(完熟の印)、ツヤとハリがあり粒がしっかりしているもの(健康に育った証)。春先になると、完熟までに必要な栄養や糖分を蓄える期間が短くなってしまうため、酸味より甘みを求める場合は、暖かくなる前に食べることをお勧めする。