位相偏光フィルターと医療照明技術で
照明ソリューションに革命を起こすフェーズレイテクノロジー
事業内容 | 外観検査用照明装置の開発・製造販売事業、医療用照明装置の開発 |
企業名 | シンクロア株式会社 |
創業 | 2011年(平成23年)4月 |
所在地 | 川崎市幸区新川崎7-7 KBIC本館202号室 |
電話 | 044‐223‐6693 |
従業員 | 3名 |
代表 | 綾部 華織(アヤベ カオリ) |
URL | https://www.synqroa.co.jp/ |
「フェーズレイテクノロジーは、特許製法で製造した位相偏光フィルターと医療照明技術を融合した技術で、独特な光学設計と光を当てても影ができない無影技術が基礎にあります。グレアやハレーションといった光のギラツキを取る技術を実現できたので、今まで見えなかったキズや異物が浮き上がる全く新しい工業用照明装置“inVIEWシリーズ”を開発しました」と綾部社長は語った。
工業用照明装置“inVIEWシリーズ”の主要製品は、拡大・調光・偏光調整機能が付いた照明装置「inVIEW CIRCLE LIGHT」、樹脂やフィルムの目視検査に最適な照明装置「inVIEW PAD +PLUS」、ガラスのキズ・異物を検出できる照明装置「inVIEW ANGLE/ANGLE HANDY」だ。
位相偏光フィルターを使ったゴーグル型メガネの開発を契機に工業分野に進出
「フェーズレイテクノロジーを開発して良かったと思います。他社は全般的に光っている対象物を画像処理していましたが、当社のテクノロジーは、生画像がそもそもハレーションのない画像なので、自動化領域やAI画像処理領域で簡単に利用してもらえると気が付きました。数年前、ラインスキャンカメラやエリアスキャンカメラのメーカーが、別件の商談で来社されたとき、当社の小山取締役が開発して医師に提供していた「フェーズレイテクノロジー搭載メガネ照明装置」を見せたところ興味を持ってもらい、カメラメーカーと一緒に「工業分野で試してみよう」と方向転換しました。「カメラメーカーの提案前は、医師・歯科医師向けのゴーグル型メガネを開発しました。しかし医師からの多種多様な改善要求をさばききれず、工業にシフトしたのは正解でした。」綾部社長は当時を振り返る。
綾部社長は東芝メディカルシステムズ(現キャノンメディカルシステムズ)に就職後、医療機器等の広告代理店の会社を設立して営業部長となった。CTスキャンやMRIなど医療機器の開発経緯を良く知っていたので、お客様から重宝された。その広告代理店の会社で10年経過した綾部社長は前職から取引のあった医療照明会社の開発者だった小山取締役から3D-CAD(三次元コンピュータ支援設計)を教わっていたので、設計開発の仕事に興味があった。一方、小山取締役は働いていた医療照明会社がM&A(合併・買収)されて、自分が開発したい製品をことごとく却下された。綾部社長は小山取締役が開発したいものを開発できる会社を立ち上げることを決意して、2011年4月に当社を設立した。
位相偏光フィルターを使ったゴーグル型メガネを口腔歯科医や基板検査工場に持って行って、お客様のニーズを聞くと従来の拡大鏡は酔いやめまいがすることが判明した。そこで、位相偏光フィルターを使った拡大鏡「inVIEW CIRCLE LIGHT」を開発した。資金が尽きかけてエンジェル投資家に株式を売却した際に、そのエンジェル投資家が関係する米国企業の日本支社とゴーグル型メガネの販売契約を締結した。しかし、思惑通りには売れず2年で契約を解除した。その時期に、MINERVAビジネスプラン発表会に参加して、かわさき起業家オーディションを紹介された。第131回かわさき起業家大賞受賞後は、大手VC(ベンチャーキャピタル)等から声が掛かるなど取り巻く環境が一変した。
携帯電話向け位相偏光フィルターの実証実験に成功、海外展開を目指す
「2011年の東日本大震災後にLED照明が推奨されましたが、LEDの470ナノメーターの光が睡眠障害やうつ病などの人体に悪影響を引き起こすことを知っていました。また、LEDの紫色は乳癌リスクが高まることは外国の文献で証明されていました。そこで、2014年に有機EL照明装置を大手企業と共同開発しましたが、その大手企業が事業撤退しました。有機EL照明装置の開発に資金を投入しましたが、世の中の流れは高輝度つまり明るいLEDが良いとされるなか、2015年に位相偏光フィルターの開発に着手しました。その間、医療機器メーカーから受託の仕事を請け負って、開発資金を捻出していました」と綾部社長は独自技術の開発経緯を語る。
携帯電話向け位相偏光フィルターの実証実験に成功し、2023年に海外の携帯電話メーカーと契約を締結する予定だ。契約書の内容については、川崎市産業振興財団のワンデイコンサルティングを活用して弁護士に相談している。綾部社長は東芝メディカルシステムズで働いていたことから東芝本社があった川崎市とは縁があると感じていた。2022年10月に、かわさき新産業創造センターに移転したところ、東芝のOB、引退した先輩達も喜んでくれたと言う。今後取り組むべき経営課題は、人材採用と資金調達だ。人材採用については、当社の将来を託す後継者を決めなければならない。バイアウトやM&Aのいずれにしてもブランドを残すことが重要だ。資金調達については、投資を募集する予定だ。
世界中のメーカーに位相偏光フィルターの技術をライセンス供与する計画
「2021年に工業用照明装置“inVIEWシリーズ”をスタートしました。2022年6月の画像センシング展、2022年12月のセミコンジャパンに出展した結果、大手企業の様々な部署から声がかかり、開発案件も幾つか頂いています。以前取引のあった大手企業からの提案により海外展開を検討中です。位相偏光フィルターが完成するまでの5~6年は苦労しました。当社の位相偏光フィルターは暗くならないので光量が落ちないことやどの角度からでも見えることが特徴です」と綾部社長は語る。
工業用照明装置“inVIEWシリーズ”は、大手企業のパイロットから量産ラインへの導入に移行すると多くの数量を納入することになり、大手企業の海外工場にも展開できると見込んでいる。
経営理念は「シンクロア株式会社は、医療業界で培った照明技術のノウハウを生かし、工業・医療・モバイル市場に、革新的照明ソリューションを提供致します」を掲げる。
今後は、物理的な仕組みを電子的制御に改良した位相偏光フィルターや携帯電話向けガラス検査装置の試作機を海外の携帯電話メーカーに紹介する予定だ。かわさき新産業創造センターには多くの宇宙関連企業が入居しているので、宇宙産業への参入も考えられるのではと、期待している。
経営面では、資本政策を強化できるように運営側のスペシャリストを採用する必要がある。人材面では、開発、設計、営業、資材外注・生産管理の担当者を各1名採用する必要がある。
「フェーズレイテクノロジーについては、国内特許3件、海外特許2件を登録済みです。また、タンパク質可視化ライトで特許1件を出願中です。将来的には、ブランド力を高めることにより世界中のメーカーに位相偏光フィルターの技術をライセンス供与する計画です」と綾部社長は将来を見据える。