株式会社 ナノエッグ

研究開発のプロと経営のプロの融合で上場を目指す大学発ベンチャー

ナノエッグ 代表写真
社長 大竹 秀彦
事業内容 医薬品研究開発事業、機能性化粧品研究開発及び販売事業、新規事業開発
企業名 株式会社 ナノエッグ
創業 2006年(平成18年)4月
所在地 〒216-8512 川崎市宮前区菅生2-16-1
聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター内
電話 044-978-5231
FAX 044-978-5232
従業員 21名
代表 大竹 秀彦 (オオタケ ヒデヒコ)
資本金 7245万円
URL http://www.nanoegg.co.jp/

多摩丘陵から続く、細長い川崎市の中央部に近い緑濃い丘の上に、ひときわ高くそびえる聖マリアンナ医科大学病院がある。その広大な病院敷地の一角にある難病治療研究センターから幾多のバイオベンチャーが生み出されてきたが、(株)ナノエッグも聖マリアンナ医科大学の研究をもとに営利法人として起業された一社である。研究室とのコラボレーションにより画期的な商品の開発に成功し、ベンチャー企業として初年度から経営黒字を達成したその経営手腕や経営理念に学ぶことは多い。

医薬品の基剤開発の過程で生まれた画期的な化粧品

2003年9月 難病治療研究センターの研究テーマの1つである「皮膚再生のためのレチノイン酸ナノ粒子」が科学技術振興機構のプレベンチャー事業(リーダー:五十嵐 理慧、サブリーダー:山口 葉子)に採択され、起業に向けた側面支援が受けられることになった。
レチノイン酸(トレチノイン)は、細胞を分裂・増殖させて新しい細胞に生まれ変わるのを促進する効果を持つ。シミ治療においては、その原因となる表皮内メラニンを短期間で効率的に排出できる唯一の薬剤であるが、その一方で、皮膚に塗ると痛みや赤みを帯びるなどの副作用があり、熱や光に非常に弱いという課題を持っていたのである。
この課題を解決する手段として難病治療研究センター先端医薬開発部門DDS注1)研究室では、レチノイン酸などの薬剤を無機物質でコーティングしてナノ(100万分の1ミリ)サイズのカプセルとすることで、熱や光に対する安定性を高め、薬剤が皮膚の適切な場所で作用するというDDS技術の開発に成功した(ナノエッグと命名)。そしてこの技術を施したレチノイン酸を軟膏のように肌に塗りやすくするための「基剤」として、従来から一般的であったワセリンではなく、ジェル状で肌になじみやすい基剤を開発した(のちにナノキューブと命名)。これらを商品化するための評価実験の過程で、基剤であるナノキューブ自体に表皮細胞の再生作用があること、すなわちシミやしわの回復に高い効果を持つことが判明し、化粧品としての販売が開始されている。
人間の皮膚を覆う角質層は角質細胞と細胞間脂質(セラミドやアミノ酸など)が整然と隊列を組み(ラメラ液晶構造)、細菌など異物が皮膚から侵入することを防ぐバリヤー機能を果たしている。ケガをすると傷口が自然に治癒していくのは、皮膚が壊れてしまった隊列を整え、バリヤーを再生しようとする機能を持っているからである。山口氏はナノキューブが角質層の細胞間脂質の隊列を乱し、そのことを皮膚は“刺激を受けた”と勘違いをして自己回復能力(スキンホメオスタシス)を活性化させることを解明した。しかも副作用の心配はないと言う。
これらの研究をもとに2006年4月に(株)ナノエッグが設立され、ナノエッグ(カプセル化技術)を応用した薬の市場化を目指しながら、11月には大手エステティック会社TBCからナノキューブ配合化粧品を発売、2007年7月には自社ブランド化粧品「MARIANNA」を発売した。美白効果を謳った化粧品が数多く販売されているが、従来品は“メラニンを作らせない”化粧品であり、出来てしまったシミを取るメカニズムに注目して作った化粧品としては業界で珍しく、画期的なものであると言う。
さらに2008年3月には江崎グリコ社との共同開発で、メラニンの産生を抑制するα-アルブチン配合の「MARIANNA」新製品を発売した。
(注1)ドラッグデリバリーシステム(必要な時に必要な量の薬物を必要な部位で作用させるシステム

大学発ベンチャー成功の基本は戦略マーケティング

全国で数多く生まれた大学発ベンチャーのほとんどが経営に苦しむ状況下で、2004年に大竹秀彦氏は聖マリアンナ医科大学理事長である明石勝也氏と出会った。理事長より「教育」「診療」「研究」の3本柱に、もう1本の柱「財務戦略」の確立を請願された大竹氏は、同年7月に大学の技術移転やベンチャー支援業務を担うMPO(Marianna Property Office)株式会社を立ち上げ、社長として本学の知財の事業化支援活動を開始している。
大竹氏は東京大学で国際関係論を学び、その後はハーバード大学のビジネススクールでMBAを取得、米国系コンサルティング会社にて中堅企業の新事業・R&D・マーケティング・組織戦略等々のコンサルティングで手腕を発揮してきた異色の人物である。
(株)ナノエッグの立ち上げにあたり、MPO(株)は経営を任せることが出来る人物として、(1)戦略マーケティングを立案実行でき、(2)医学・化学の分野がわかる人物を探したが、見つからなかった。大竹氏はナノエッグ研究チーム及びそのテーマの高い可能性を評価し、自分の培ってきたノウハウをつぎ込む決心のもと、五十嵐 理慧氏(薬学博士)を会長、山口葉子氏(理学博士)を社長として、自らは取締役として参画、翌2007年6月にMPO(株)の代表と兼任するかたちで当社の代表取締役社長に就任した。三人はプレベンチャー事業の段階から、研究室に閉じこもることなく企業訪問や各種オーディションへの応募などを続け、創業初年度より純利益を創出している。
大竹社長は「バイオベンチャーの経営には、(1)最低限の知識、(2)臨機応変なスピード感、(3)大学の研究者とのコミュニケーションが出来ることが条件です」と、自戒をこめて言う。そして「研究と経営の分離と融合が重要です」と語る。つまりそれは(1)研究開発の完成度にこだわり過ぎると事業化のタイミングを逸する危険性がある、(2)研究者が技術開発に専念できる環境を用意する(3)経営には人事、総務、経理、資金管理などの専門知識が必要、ということである。まさに事業成功の基本である。

医薬品で社会へ貢献し、3年後には株式上場を果たしたい

研究チームの7割は女性で、うち過半数が主婦である。昼間はしっかりとした計画の下で研究に従事し、午後5時過ぎには主婦の顔に戻る。大竹社長は「チームの目標は医薬品の開発です。注射などに拠らず、塗ることで投与できるワクチンが開発できれば、痛みや通院などから解放された患者さんの生活に幅ができます」と言う。しかし医薬品の市場化というハードルは高く、数年では越えることができない。(株)ナノエッグは「目標を達成するまでの間、せめて商品(化粧品)の売り上げの一部を、NPO法人“世界の子供にワクチンを日本委員会(JCV)”を介して募金してはどうか」という社員の発案を実行している。
また経営的には3年後の株式上場が見えてきた。「医学、薬学、物理学、獣医学、農学などの異分野融合体であり、起業家精神を持った我がチームは、これらの目標を必ず達成します」と大竹社長は力強く宣言されました。

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