sona+n(ソナプラスエヌ)

「インスタグラム」をプラットフォームに、障がい者向けのヘルプ・グッズを受注生産。健常者との共存社会の実現を目指し、本格事業化へ踏み出す

 

 

 

 

代表 菅田 恵美(右)

事業内容 オリジナルアクセサリー販売
企業名 sona+n
創業 2018年(平成30年)3月
所在地 川崎市宮前区菅生1-1-8シャトレー菅生 202号
電話 080-1153-4689
従業員 1名
代表 菅田 恵美(スゲタ エミ)
URL https://www.studio-sona.jp/

sona+nは、自らも障がいを持つ子どもを抱える菅田恵美代表が2018年3月に開設し運営している、オリジナル「ヘルプ・グッズ」類の生産と販売を手掛けるアクセサリーショップである。

心身の障がいや疾患の状態などを簡潔に表現、あるいはデザインした装飾モチーフの一種であるロゼットや、缶バッチ、パスケースなどを手作りし、見本品の展示・受注・決済・納品・アフターサービス等に関わるやり取りの一切は、写真共有SNS(ソーシャルネットワークサービス)「インスタグラム」の機能を活用して行っている。SNSを通じて広がった国内からのオファーのみならず、最近では、東南アジアなど海外からの受注にも応えている。

ロゼット類への引き合いや受注残が月を重ねるごとに増大し、収益事業としても本格的に立ち上がろうとしていることから、2020年1月には独自の通信講座を通じて、ロゼットや缶バッチなどを制作できる外部人材の育成にも乗り出した。今後は知財関連の整理・整備を進めたうえで、秋口をめどに法人化を図る計画という。

障がい者の“お守り”となるような「ヘルプ・グッズ」を求めて

菅田代表がネットショップのsona+nを立ち上げた背景は、家庭のやむにやまれぬ事情からだった。

4人の子どもを抱え、うち娘には重度の知的障害と持病があった。そのケアと仕事の両立を目指してヨガ教室を開いたものの、収益は上がらず、「きちんと収入を得ようと」副業として始めたのが、ロゼットや缶バッチを中心とする障がい者向けのオリジナル「ヘルプ・グッズ」類の生産・販売だった。ちなみにロゼットとは、リボンやツイストコードなどで花形にかたちづくられた勲章状の服飾アクセサリーのことで、“リボンの勲章”とも呼ばれている。

障がいや疾患を持つ、あるいは妊娠中であることを周囲の人に知らせるピクトグラム(絵文字)としては、東京都が中心となって普及を進めている「ヘルプマーク」が広く知られている。

しかしこの「ヘルプマーク」は、マークの裏側に書かれた文面まで読まないと、どういう障がい等を持ち、なぜ理解とヘルプを必要としているのかが分からないという難点があった。そこで、「パッと見て、『こういう障がいがあります』と伝えられるマークがあれば、もっと理解してもらえたり、(本人も)これを“お守り”として安心して外出できるようになるのではないか」と思いついたことがsona+nのスタートとなった。

知財トラブルを機にクラウドファンディングに挑戦

とはいえ、事業のスタートアップの常として、この2年間は試行錯誤の連続であった。

まず、赤字になっては元も子もない。ロゼットは、市販されているパーツを購入し、障がいや疾患の種類に応じて作り分ける文字やイラストなどを菅田代表が自らデザインして布用プリンターで印刷、縫製までを一人でこなした。

セールスプロモーションは「インスタグラム」が持つ写真共有・検索・メッセージ受信機能をフルに活用してコストをミニマムに抑えた。

値付けにおいても当初は苦労した。しかし、sona+nの存在がSNSを通じて広まり、寄せられるオーダーの範疇がおおよそ掴めるようになると、1個1500~3000円という価格に落ち着いた。

そうした中で、一番の危機は2019年1月に知財関連のトラブルに巻き込まれたことだった。

ある顧客からの注文で制作したロゼットのデザインが、既存の障がい者福祉団体のロゴマークと似ていると、指摘された。オーダーを寄せた側に知財という考え方が薄かったためだが、菅田代表側にもこの分野に関して脇の甘さがあった。幸い、法的には問題はないとの結論に至ったが、同じような問題が二度と起きないよう知財関連の整理と整備に乗り出した。

その一環として、引き合いが特に多い「Kids車いすマーク」と「心疾患マーク」について、商標登録をはかった。必要となる商標登録料の資金調達には、実行者の思いに共感したり事業性を評価してくれたりする人たちに資金を募るクラウドファンディングを採用した。この時も、目標金額をいくらにするのか、プロジェクトの意図をどう正確に伝えるか、寄付してくれた人への返礼は何にするのかなど難問ばかりであったが、「自分で考え悩み、汗をかいた」結果、目標金額を1割近く上回る資金を募ることに成功し、無事に商標登録を申請できる運びとなった。

そして何よりの手応えは、クラウドファンディングの狙いに共感した134人の出資者のうち、半分ほどの人が返礼品は不要との趣旨で「寄付」としてくれたことだった。「今までまったく接点のなかった人も賛同してくれたことに、驚きと感謝でいっぱいでした」(菅田代表)。それはまた、菅田代表に自信と勇気を与えた瞬間だった。

通信講座でボトルネックを解消、法人化も視野に

現在、sona+nでは人気のロゼットのほか、缶バッチやパスケースなどを含めて月に20~30個を受注生産・販売している。

「インスタグラム」のフォロワー数はおよそ3400人を数え、実際に購入した人が自分の「インスタグラム」に商品の写真を投稿。それを見た別の人が「私もこれと同じものが欲しい」と伝えてくるなど、好回転に入った。韓国やフィリピンなどからの問い合わせもあるという。

こうした中、雑務関連はアルバイトに任せているものの、制作に関しては引き続き菅田代表が行っている。バックオーダーは常に15~20人、納期もおおよそ1ヵ月半待ちに膨らんでいる。まさに“うれしい悲鳴”の状態ではあるが、顧客サービスや商品の品質保証といった面を考えると見過ごせない課題もある。

そこで今、菅田代表が考えているのが通信講座と法人化というソリューションだ。ロゼットや缶バッチ類を一緒に制作できる「仲間たち」を通信講座を通じて養成し、ボトルネックになっている生産能力を拡大。それにより、売上増とリードタイムの短縮を実現することで収益の安定化をはかり、法人化で社会的信用も高めようというシナリオである。

そして将来は、障がいを持つ娘が成人する5年後を目標に、障がい者と健常者がともに利用できるバリアフリー型のゲストハウスカフェを開きたいと、夢は広がる。そのためにもまずは、sona+nの足腰固めが必須。

菅田代表は事業開始3年目に入るのを前に、これまで以上にしっかりと前を見据えている。

当社製品 「ハンドメイド ロゼット」

川崎市産業振興会館
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