川崎からバスケの未来を-地元の新しいアイコンになる-
代表取締役社長 元沢 伸夫
事業内容 | プロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」の運営および関連事業 |
企業名 | 株式会社 DeNA川崎ブレイブサンダース |
創業 | 2018年(平成30年)1月 (クラブ創設1950年) |
所在地 | 川崎市川崎区駅前本町21-12 川崎第3京急ビル(カワサキ文化会館) 3F |
従業員 | 40名 |
代表 | 元沢 伸夫(モトザワ ノブオ) |
URL | https://kawasaki-bravethunders.com/ |
日本の男子バスケットボールの最高峰、「Bリーグ」に所属するプロバスケットボールクラブ、「川崎ブレイブサンダース」の運営をするのがDeNA川崎ブレイブサンダースだ。「ブレイブサンダース」の前身は東芝の社員チーム。1950年の創部と歴史は古く、日本バスケットボール協会のトップリーグ(日本リーグ→スーパーリーグ→JBL→NBL)で優勝6回、準優勝5回の強豪である。
発足以来、選手は東芝社員という「実業団チーム」だったが、2016年にバスケットボール協会のトップリーグと独立リーグ「bjリーグ」が合同して発足した「Bリーグ」への参加にあわせてプロ化。プロ化にあたりクラブを引き継いでくれる先を探し始めていたところ、手を挙げたのが、携帯ゲームで有名なIT企業のDeNA。ご存知、プロ野球球団「横浜DeNAベイスターズ」のオーナー企業である。
ベイスターズ再建の立役者
「もともと、他のスポーツに携わるとすれば神奈川でという思いがありました。ベイスターズも神奈川。同じ神奈川でやっていくことで、お互いのシナジーもあるかもしれない」と、語る元沢伸夫・DeNA川崎ブレイブサンダース社長。 DeNAは2012年に横浜ベイスターズを取得後、早くも16年に黒字化している。この実績を見て、様々な種類のスポーツ界から運営に乗り出さないかと声がかかったという。
「わが社はもともとITサービスの会社。しかし、ベイスターズの再建に取り組む中で、スポーツ事業を通して、リアルに人と関わることの喜び、ファンづくりの大切さなど、感じることと学ぶことが多くありました」という。
横浜DeNAベイスターズでは、事業本部長を勤めた元沢社長。「彼がいなければ30億円の赤字を20億円の黒字に変えることはできなかった」と南場智子・DeNA代表取締役会長が話すほどの功労者だ。ブレイブサンダースの話が出たとき、自分からやらせてほしいと申し出て代表に就任した。
もともと長い歴史を持つ強豪だったこともあって、チームそのものにはほとんど手をつけなかった。代わりに事業面については、「変えていないところがないくらい変えました」と、元沢社長は振り返る。
一番の課題はチームの認知度だった。事業承継直後の調査では、川崎市内での認知率はたった10%ほど。ベイスターズや同じ川崎市内のJリーグ川崎フロンターレであれば、地元では80%ほどの人が知っている。「だから、まずは知ってもらう、興味を持ってもらう。そこから着手しなければいけない」と思ったという。
1年目は、どうやって人を呼ぶかよりも、来てもらった人に満足してもらうことを考えた。試合場での飲食、マスコット、チアガールを一新。バスケットボール観戦をエンターテインメントにした。1シーズンで、試合後の満足度は約90%、来客のリピート率は約50%になった。
2年目には、新しいお客さんの開拓に力をいれた。そのねらい目がファミリー層。もともと観客は男女、年代もバランスが取れているが、特に小学生の子供がいるファミリー層が約3割を占めていた。
そこで東芝時代の育成塾という小規模なスクールを事業として拡大させることにした。4歳から参加できるスクールと本格的な指導が受けられるユースに分け、川崎ブレイブサンダースのGM(ゼネラルマネージャー)も関わり生徒数を伸ばしている。ユース生は、自分たちが目指すプロが試合をする現場を体験することを目的に試合運営を手伝うことがある。そのうちのひとつが「モッパー」で、試合中定期的にモップでバスケットコートを拭く役目。まさに眼前でプロのプレーを見ることができる貴重な機会だ。
それやこれやの努力の結果、観客数は、1年目が前年比125%、2年目が同128%。Bリーグは全体的に伸びてはいるが、それでも前年比
103%。東芝時代はリーグ18チーム中、13位であったが、いまでは1、2位を争うほどになっている。
今や地元川崎に根付いたチームに
参入当初の計画では3年目で黒字化の予定だったが、新型コロナウイルスの影響もあり、いまだ赤字。しかし、現在のペースでも5年で赤字脱却の目途だという。
この売り上げの拡大を支えているのが、観客動員ともう一つの柱、スポンサー収入だ。当初は探すのに苦労して20社程度がせいぜいだったが、人が集まるチームになって順回転でスポンサーが現れ出し、いまでは150社に上る。うち8割が地元、川崎市内の企業だ。行政が積極的に宣伝に協力してくれることも大きく役立っているという。
そのスポンサーもベイスターズの場合とは、少し肌合いが違う。テレビ中継もあるベイスターズの場合、スポンサーはBtoCの企業。つまり数多くの消費者を意識している。一方、ブレイブサンダースの場合、スポンサーにBtoBの企業が目立つ。
例えば、国際的に評価が高いメーカーだが一般には認知度は低く、人材採用に力を入れている企業。ブランディングを考えてユニフォームに名前を入れた。また、社内の福利厚生で、バスを貸し切り、全社員で観戦にくるITベンチャーのスポンサー。チームカラー(ブレイブレッド)の車を作る会社。チーム・マスコット「ロウル」を商品パッケージに使ったり、銀行でATMの待ち受け画面に使ったりする例もある。プロ野球よりバスケットボールの方が、スポンサーのかかわり方が多様だ。
「川崎」を意識しているのはこれだけではない。試合会場で販売する食べ物は、地元商店とのコラボだ。マスコットの「ロウル」を模したドーナッツや和菓子、地元の焼肉屋とコラボしたサンドイッチ、地元ブリュワーと組んだクラフトビールなど、「ここにしかない」食べ物で会場を盛り上げている。
川崎の未来をつくる
元沢社長は「今後、川崎市内で収容人数1万人規模の新アリーナを作りたいと思っています」と次のステップを語る。これによって、地元をさらに盛り上げていくことができると考えている。バスケットボールの試合があるとき以外であれば、イベントに使用するアリーナにもなる。
「いろんな人に楽しんでもらえる施設に、そして、川崎市の新しいアイコンになればと思っています」と元沢社長。新アリーナがより多くの観客を集めることで、「いずれ周辺のお店も盛り上がる」、そんな効果をもたらせればと未来を語っている。
PG 篠山 竜青 選手
※取材後の令和3年3月13日に7年振り4度目の天皇杯優勝を果した