豊富なアイディアを実現して
水産仲卸の新しいカタチを創っていく
事業内容 | 鮮魚や切り身・冷凍の水産物の卸売 |
企業名 | 株式会社 川崎丸福 |
創業 | 1982年(昭和57年) |
所在地 | 神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場B-20 |
電話 | 044-975-2568 |
FAX | 044-975-2466 |
従業員 | 15名 |
代表 | 田平 雅一(タヒラ マサカズ) |
URL | http://www.kawasaki-marufuku.com/ |
肉や魚、野菜、調味料、フードパック、お酒などなんでも揃う川崎北部市場。昨年に開場40周年を迎えた北部市場に当時から魚の仲卸業を営む会社がある、川崎丸福だ。仲卸とは市場の「せり」で買った魚介類を、飲食店などが買いやすい量や大きさに小分けして販売する。川崎丸福では神奈川県内や都内一部の飲食店やスーパー、病院・福祉施設などに鮮魚や切り身といった水産物を卸している。県内は川崎・横浜から県央、渋谷・新宿辺りの都内を配達する。魚だけでなく、卸先のお店で使うものであれば何でも取り扱っている。豆腐や納豆など食材はもちろん、包丁の柄やクックシューズといった食べる物でもないものも扱っている面白い会社だ。今回、川崎丸福の代表・田平氏にこれまでの事業と今後の展望を伺った。
アルバイト入社から社長へ抜擢!
川崎丸福は元々、全国で事業を展開していた親会社の丸福水産が、川崎市北部市場の開場に伴って設立した会社だった。そんな川崎丸福に現社長の田平氏が入社したのは、およそ28年前である。当時、専門学校を卒業し、大阪から上京していた田平氏はアルバイトを転々としていたという。飲食関係は食べるに困らないから将来は料理屋をやろうかと思い、居酒屋でアルバイトをしていたが、そのうちもっと上流(川上)の仕事に携わりたいと考えるようになっていった。そんな気持ちが周りに伝わったのか、あるとき北部市場の人を紹介された。それが川崎丸福への入社のきっかけだった。
入社当時は、市場内をターレで魚を運んだり、取引先にも配達を行ったりしていたが、そのうちアルバイトでの調理経験があったことから鮮魚の担当となった。オープンで気さくな人柄の田平氏だからだろう、当時取引先へ飲みに行くと直ぐ仲良くなるという。お客さんとの良い関係を築くにつれ、鮮魚部門の売上は全社売上の半分を占めるようになっており、気が付くと田平氏は川崎丸福の役員になっていた。田平氏が社長に就任したのは今から15年程前、親会社である丸福水産の会長でもあった川崎丸福の社長が亡くなり、丸福水産の事業転換の方針から川崎丸福が切り離されたときに田平氏が社長に抜擢された。
若くして就任した社長の苦労
当時田平氏は30代後半。みな年輩のベテランばかりである社員はそれぞれ自分の意見を言い、気苦労が絶えなかったようだ。「うちは魚屋なのに、なんで豆腐や納豆をもっていかないといけないんだ!」などと言われることもあったという。この頃に社員皆の意見を聞いてばかりいたら会社は上手くいかない、きちんと社長としての考えや方針をもって会社運営に臨まないといけないことを学んだ。
また、就任した頃には杜撰な会社との取引もあり、金銭面でも苦労もあった。スーパーのテナントに入っている会社がイベントのために川崎丸福から仕入れるも、結局支払えなくなって莫大な貸し倒れを出したこともあったという。
最近では飲食を取引先に多くもつため、やはりコロナ禍1年目は多大な影響を受けた。飲食店へ卸せなくなり、当時売上も半分近くまで落ち込んだという。それでも、病院・福祉施設、企業といった飲食店以外の販路を広くもつ当社は、コロナ禍の1年目をなんとか退職者ゼロ・給料維持で乗り切った。
常に新しいことへのチャレンジ
様々な苦労がありながらも、常に前向きで柔軟な姿勢をもつ田平氏は、いろいろな事業のアイディアを実践していっている。令和3年度には「川崎市中⼩企業間連携新規事業化モデル創出事業」に採択され、川崎北部市場の仲卸業者による鮮魚・精肉・青果の通販お取り寄せサイトを始めている。あるいは、ECサイト料理レシピのコミュニティサイトで有名なクックパッド㈱が運営する生鮮食品ネットスーパーとも提携して、直接食卓に水産物を届けている(https://cookpad-mart.com/shops/36)。特に、詰め合わせセットなどは毎日のように売れているようだ。
そうかといってコロナ禍により社会全体に広がるデジタル化を進めていくばかりではない。これから市内・近郊の年齢層高めの人に向けて、電話注文による新鮮な魚や加工品の配達のような「新しいアナログ」を考えているという。多彩な経験とアイディアをもつ田平氏だから考えられる販売戦略だろう。
そんな田平氏はこれから「加工」と「物流」を極めていきたいという。加工については、今から10年程前に当時水産物の加工に力をいれる方針の下、自社の加工場を市場内に造った。今後は、市場に来場した一般の人に向けた販売も行っていくために、既に市場内に調理兼販売ができるスペースも借りた。地域や近郊の人がもっともっと市場へ買い物に来る、市場へ遊びに来るような身近な存在になって欲しいと考えていることからだ。
一方、物流については、例えば、魚の加工をしているものの配送まではできていないような若い会社や、配達は外注したいという選択と集中を考える若い経営者から配達の提携をしていきたいという。物流は第三の利潤源と以前よりいわれているものだが、自社配送のコスト削減を考えるうちにあまり同業では行われていない「配送の請負」という考えに自然に至ったものだ。
北部市場はもっと楽しくなる
上で紹介した以外にも豊富なアイディアをもち、それを実証・実践していく行動力に溢れる田平氏。一般に港湾など、あまりキレイでないところに棲むために臭みがあり、市場価値の低いといわれているボラの養殖を数年前から試みている。沖合で獲れるものは美味しく、昔は市内でも食べられていたボラを川崎の名産にしていきたいと語る。
それは、水産物の消費量が年々減っていっているという現状があり、魚をもっと若い世代、特に子供たちに食べてもらいたいという想いが込められている。そんな川崎丸福が推し進めていく事業によって北部市場は将来、子供たちの集まる水産物のテーマパークになっているかもしれない。
ボラの養殖を試みる田平代表