セラミックス製補綴物に特化した低額自費診療によって
「歯科医師・患者・歯科技工士の三方よし」を目指す歯科技工所
事業内容 | 歯科技工所、歯科経営改善コンサルタント |
企業名 | QLデンタルメーカー 株式会社 |
創業 | 2014年(平成26年)5月 |
所在地 | 川崎市多摩区登戸2710-1第6出井ビル3階 |
電話 | 044-930-5220 |
FAX | 044-930-5221 |
従業員 | 28名 |
代表 | 石原 孝樹(イシハラ タカキ) |
URL | https://www.qldm.co.jp/ |
健康保険診療制度の下では保険対象ごとに単価が決められているので、歯科医は顧客数を増やし回転を上げるしかないが、そのため一人の患者に時間をかけられず診療の質が低下する。一方、患者は安い健康保険診療を選択し、質は高いが高額な自費診療は敬遠する。また、歯科技工士は付加価値が低く長時間で低賃金の労働環境を強いられる。この業界特有の問題を解決し、歯科医師・患者・歯科技工士の三者が満足する「三方よし」を実現するために2014年に創業したのが当社である。今回、当社事業の特長と創業の経緯について代表取締役の石原孝樹氏に話を伺った。
営業マンゼロ? セラミックス製補綴物による低額自費診療という新領域の創出
当社は歯冠修復補綴物(ほてつぶつ)、平たく言うと歯の被せ物や詰め物を作って歯科医院に卸しているメーカーである。製品の直接の顧客は歯科医院であり、最終ユーザーは患者ということになる。被せ物・詰め物と聞くといわゆる銀歯と呼ばれる金属製が頭に浮かぶが、当社はセラミックス製の歯冠修復補綴物だけに特化している。金属製補綴物は健康保険対象で治療費が安く済む反面、患者が金属アレルギーを起こしたり、虫歯菌が入り込みやすかったり外れやすかったりというデメリットもある。一方、セラミックス製は金属製に比して約3分の1の重さで見た目も美しく寿命も長いというメリットがあるが、健康保険の対象外のため自費診療となって、患者の負担が大きくなる。
なぜ当社がセラミックス製の歯冠修復補綴物だけに特化しているのか?その理由を石原社長に伺った。「30年前から変わっていない健康保険点数に縛られるのではなく、コストさえ下げられれば自費診療が普及すると考えた」とのことであるが、「患者は数千円で済む健康保険診療と、負担が2桁近く上がる自費診療の2択しかなく、中間の診療費帯が無い」と問題点を指摘する。従って、たとえば3万円の低額自費診療の選択肢を患者に提供できれば、日本全体で1割程しかない自費診療がもっと増え、新領域市場が開拓可能とのことであった。また、歯科医は利益を出さなければ医院を継続できないが、健康保険診療ばかりではいっこうに儲からない。健康保険診療主体の歯科医から注文を受ける歯科技工士はさらに厳しい現実がある。たとえば、健康保険診療で数千円の金属製補綴物を1個注文受けて作るのに4時間かかるので、時間あたりは千円未満となり、さらに材料費を差し引くと残りわずかの賃金にしかならない。おのずと労働時間は長くなり、労働環境は決してよくない。こういった事情で歯科技工士の離職率は80%と驚くべき高い数値である。驚くのは低付加価値と離職率だけではない。歯科技工士を養成する歯科技工専門学校も年に2~3校が閉鎖され、若い歯科技工士の比率が低下し、現在約35000人いる歯科技工士の平均年齢は55歳、10年後には約25000人に減って平均年齢も65歳になってしまうという。
このような業界環境の中、当社は独自の方法でセラミックス製補綴物を低コストで提供し、平均年齢27歳と若い歯科技工士28名を有する。歯科技工専門学校から毎年800人が卒業するが、コロナ前はその1割の80人が当社を見学に来ていた。また、当社には営業マンがおらず、1度も営業活動をしたことがないそうである。低コスト、低い平均年齢、専門学校卒業生からの人気、そして営業活動ゼロはどうして実現したのだろうか。石原社長の経歴を振り返りつつ、その秘密を解き明かしていく。
「この職業には絶対つくな」と言われてなった歯科技工士の仕事とは?
石原社長は1985年長野県茅野市に生まれた。地元の高校で大学進学を目指していた頃、通院していた歯科医院で知り合った歯科技工士の会社に見学に行った。ところが、その方は「この職業には絶対つくな」と言ったので、「何か裏がある。よほど羽振りがいい仕事なのか、競合を増やしたくないのか」と天邪鬼な思いが頭をよぎった。その後大学には合格したが、ミッションを達成した感があり、むしろ早く職業に就いてお金を稼ぎたくなった。そこで歯科技工士に関心が高まっていたこともあり、東京都内にある日本歯科大学付属の歯科技工専門学校に進んだ。
卒業後に就職したのは横浜市にある歯科技工所だった。そこは健康保険対象の仕事ばかりで、過酷な労働環境だった。1日の睡眠時間は2~3時間、突発性難聴にもなった。そんな状況が4年間続き、自分が入所して以降入ってきた同僚はすべて辞めていった。以前言われた「この職業には絶対つくな」は、言葉通りの意味だったのだ。その後、成城学園にある自費診療中心で歯科技工所が附帯する歯科医院に再就職した。自費診療が主体なので単価も高く、仕事もやりがいがあった。「以前と比べたら天国にしか思えなかった」と石原社長は笑った。そこで自費診療に関わる多くのノウハウを習得し、他医院の仕事もとってくるようになり、「ビジネスチャンスが広がると思い、独立起業を確信するに到った」と振り返る。こうして2014年5月に川崎市多摩区の向ヶ丘遊園に、セラミックス製補綴物製作に特化した株式会社QLデンタルメーカーを立ち上げた。QLデンタルメーカーという社名は、Quality of Lifeすなわち「生活の品質を上げる歯科技工所」という意味を込めて名付けられている。
「歯科医師・患者・歯科技工士の三方よし」を実現する
成城学園の歯科医院時代の実績と評判から、創業直後から注文が舞い込んだが、石原社長は低額自費診療をさらに広めるために、低コスト化と高品質化を進めた。具体的には、歯科技工士が加工工程を分担するのではなく、技工士全員が3D-CADなどIT技術を駆使する能力を有し、1人の技工士が1から作って完成させる。ベテラン技工士の手技に頼ることなく、ITの力で若手でも短期間に技術を習得できる。また、補綴物を削るためのミリングマシンは設備投資せず、アウトソーシング化して固定費を削減している。低額自費診療を可能ならしめたセラミックス製補綴物は、歯科医の間でも高い評判が広がっていったこともあり、紹介ベースでどんどん注文が殺到し、創業以降一度も営業活動を行うことはなかった。また、石原社長は歯科医院の自費診療を促進するための販促ツールや業務フローを提供するなどのコンサルティングも行って、歯科医院を総合的に支援している。勤務する社員には、全国に先駆けて歯科技工士在宅ワークを導入するなど、労働環境改善に取り組み、従業員満足度は極めて高い。
当社が目指す「低額自費診療という新領域の創出」と「歯科医師・患者・歯科技工士の三方よし」はこのようにして実現してきたが、最後に、将来の抱負を石原社長に伺った。「歯科技工士が、なりたい職業のランキングに入るような仕組みを作っていきたい。そのためにも会社の福利厚生をより充実させたい。」と締めくくってくれた。