伊勢型紙と欧米配色を融合! 見たことがない、新感覚の木蔦鞄を提案
代表取締役 土井 誠
事業内容 | テキスタイル企画、バッグ・スカーフ・シャツの販売 |
企業名 | 有限会社 プレスコット |
創業 | 1997年(平成9年)6月 |
所在地 | 川崎市中原区小杉陣屋町2-23-5 |
電話 | 044-733-4220 |
代表 | 土井 誠(ドイ マコト) |
従業員 | 1名 |
URL | http://www.kiduta.jp/index.html |
プレスコットは、婦人服向けのテキスタイル企画、およびバッグやスカーフの製造販売を行う会社である。当社の強みは、長年にわたって収集を続けた結果、伊勢型紙を600枚、ヨーロッパの図案を500枚保有していること。加えて、土井社長自身が30年以上、アパレルの配色の仕事に携わってきたため、自由自在に色を組むことができること。これらの強みを活かし、新感覚のテキスタイルやバッグを提案している。
現在、当社では自社ブランド商品である『木蔦鞄』(きづたかばん)の製造販売に注力している。伊勢型紙と欧米配色を融合したデザイン、裏地にまでこだわる、しっかりとした物作りなどが、目の肥えたお客様から高く評価されている。
稼いだお金をヨーロッパの手描き図案に投資
土井誠氏は、1975年頃に設立されたテキスタイル会社に創業時からかかわり、テキスタイルの営業を20年以上にわたって担当した。仕事の内容は、顧客であるアパレルメーカーに対し、海外図案の型紙に独自の配色を施して、婦人服地の企画提案を行うというもの。
1990年代に入ると、バブル崩壊やアパレルメーカーの工場の海外移転などの影響を受け、勤務していたテキスタイル会社の業績は悪化した。そして、リストラが始まったことをきっかけに会社に見切りをつけ、独立を決意した。
1997年に、土井氏はこれまでの経験を活かし、テキスタイル企画の会社としてプレスコットを設立した。サラリーマン時代のお客様へは売り込まないという考え方をとったため、まったくゼロからのスタートだったという。
ただ、幸運にも設立初年度の1997年に、和テーストのアンティーク図案をアパレルメーカーに提案し、これが採用されて記録的なヒット商品となった。具体的には、アンティーク図案をあしらった女性向けのワンピースをラフォーレ原宿で販売したところ、3ヶ月先の予約待ちとなる大ヒットとなった。Tシャツとジーンズの上に、このワンピースを羽織る着こなしが、若い女性から好評を得たのだ。
この成功により、プレスコットの事業基盤を作ることができた。この時に稼いだお金は、ハードではなくソフトな資産への投資に振り向けたという。ヨーロッパの展示会やスタジオに出向いて、ワンピースの手描きの図案を大量に買い付けた。これは、ヨーロッパのデザイナーが生地に柄を描き色づけしたもので、1枚が約6万円で取引されるものであった。
今では、ヨーロッパの図案のストックは500枚に達している。当社のテキスタイル企画の特徴は、この図案をもとに図柄や配置を選定し、配色を決め、ヨーロッパ調のオリジナルデザインをアパレルメーカーに提案すること。同じ図柄でも配色が異なれば、まったく違ったものに見えるという。
伝統の美しい着物柄とモダンな配色で、目の肥えたお客様を魅了
プレスコットでは、15年程前からバッグの製造販売を行っている。バッグのブランド名は『木蔦鞄』。大木にからんで上に登っていくキヅタのように商品が伸びていって欲しいという思いで名づけた。ここで『木蔦鞄』の特徴を紹介しておこう。
まず、木蔦鞄では、バッグの裏地に表と同じ柄で別配色の生地を使っている。バッグの表はベーシックカラー、裏はパステルカラーやビビッドカラーを用いるのが木蔦鞄のデザインの基本となっている。裏地にも表と同じしっかりした生地を使っているため、強度があって丈夫な作りになっている。同時に、軽くて扱いやすいという利点も兼ね備えている。また、バッグの表面にはPVC加工が施されており、雨に降られても問題ないよう、高い耐水性を持っている。なお、バッグのデザインによって、デニム、オックス、綿サテン、シルク、麻など、様々な素材の中から最適なものを選んで作っている。
「ヨーロッパの有名ブランドのバッグでさえ、裏地までこだわった物作りはやっていません。日本では、古くから裏使いにもお金をかけるという伝統があります。それを当社のバッグは踏襲しています」と土井社長は胸を張る。
次に、木蔦鞄では、伊勢型紙の図柄に独自の配色を施して、バッグの表面の色柄をデザインしている。日本の緻密で繊細かつ美しい着物柄とモダンな欧米配色を融合させることで、競合他社にはない、ジャポニズムエレガンスを感じさせる商品に仕上げている。
なお、伊勢型紙は、伊勢地方で千年前から使われており、着物や浴衣の生地に、柄や文様を染めるための伝統的な染色用具である。この伊勢型紙についても、当社は20年にわたり収集しており、600枚を保有している。
当社では、バッグの商品コンセプトに合わせて、様々な伊勢型紙の図柄の中から最適なものを選び出し、色の構成を自在に組むことで、これまでに見たことがないような新感覚のバッグ作りを実現させている。
「たくさん物が入る大きなバッグではなく、小さめのおしゃれなバッグを作っています(写真1参照)。顧客ターゲットは30~70歳代の男女、使用シーンは小旅行や歌舞伎・お芝居の観劇など、着物でも洋服でも合うデザインにしています。このほかにも、トートバッグ、タブレットケース、小物入れなどを作っています(写真2参照)。」と土井社長は解説する。
「ネット通販のように写真で木蔦鞄の良さをお伝えするのは難しいです。店頭で実際にものを手にとって、直に見て評価していただくのが一番良いと考えています。先日の丸善丸の内本店の催事場での販売では、サンフランシスコ在住のお客様がお見えになり、バッグ、スカーフ、小物等6点をお買い上げいただきました。日本の伝統的な和のデザインが、新鮮に見えたのではないでしょうか。店頭販売でお客様と接する機会も多いのですが、お客様が値札を見ないで、お買い上げされた瞬間、これまでの苦労が報われた気がします」と土井社長は笑顔をみせる。
当社製品「木津田鞄」
写真1
写真2
型紙や図案を活用したデザインは、様々な商品分野へ展開が可能
プレスコットの差し当たっての課題は、工房を構えること。現状では、自宅が事務所と工房を兼ねているため、手狭となっているからだ。これまで収集してきた型紙や図案等を収納する場所もなくて困っているという。「工房があればもっと前へ進めると思います。工房にお客様を呼んで、商品や型紙・図案などをお見せできますし、地域住民の方に気軽に見てもらうこともできます」と土井社長は説明する。
一方、商品については、少しずつ幅を広げていきたいという。当社が保有する伊勢型紙やヨーロッパの図案は、アパレルやバッグに限らず、様々な商品へ幅広く展開することができる。例えば、ファッション系ではない、インテリアや家電製品にも活用できる。図案、配色、構成、素材などの組み合わせを変えることで、いろいろな形の表現が可能になるからだ。
「先人たちが残してくれた、世界に誇れる和の伝統工芸文化を次世代にうまくつなげていきたい」プレスコットの挑戦は続く。