モーションリブ 株式会社

ひよこをそっと包み込むロボット リアルハプティクスで社会を豊かにする

 

 

 

 

 

代表取締役CEO 溝口 貴弘

事業内容 リアルハプティクスに関するコンサルティング、ICチップ販売ほか
企業名 モーションリブ 株式会社
創業 2016(平成28)年4月
所在地 川崎市幸区新川崎7-1
電話 050-5236-4767
代表 溝口 貴弘(ミゾグチ タカヒロ)
従業員 13名
URL https://www.motionlib.com/

まずは下の画像をご覧いただきたい。ひよこを抱えているのはロボットである。そっと優しく、まるで愛しむように包み込んでいる様子がお分かりいただけるだろうか。

絶えず進化を続けてきたロボット技術だが、いまだ難しいとされることがある。それは、“ちょうどいい力加減”でモノを掴むという動作である。それを可能にしたのが力触覚技術「リアルハプティクス」だ。掴めるのはひよこだけではない。例えば、ショートケーキのように柔らかくて崩れやすいもの、反対に、ノック式ペンの芯のように、硬いが折れやすいものも上手に掴むことができる。リアルハプティクスがロボットと人との距離を急速に縮めそうだ。

これまで不可能とされてきた力触覚の伝達を可能にした

ロボットが優しくひよこを包む

リアルハプティクスとは、「人の力加減を伴う動作や物体の感触といった力触覚情報を瞬時にデータ化し記録、編集、再現する」技術であり、力加減や感触の可視化・分析や力触覚を有した遠隔操作やVRなどが可能となる。たとえば、ロボットが物体を握って得られた柔らかい硬いといった「感触」を、インターフェースを通じて遠隔地のオペレーターの手に、リアルタイムに再現し伝達することができる。オペレーターは、ロボットが掴んだ物体の硬さや弾力などを肌で実感できるので、今度は対象に応じた、ちょうどいい力加減でロボットを操作し、物体を掴むことができる。この双方向性が本技術の肝である。ちなみに、従来のロボットでは物体の感触が得られないため、過剰な力で掴んだものを壊してしまったり、柔らかいものは握り潰してしまったりといった問題があった。

リアルハプティクスを発明したのは、慶應義塾大学新川崎タウンキャンパス(K²)に入居する、慶應義塾大学 グローバルリサーチインスティチュートの大西公平教授である。同氏が理工学部教授であった2002年に世界ではじめて、力触覚の伝達技術を実現した。

動作には必ず、位置と力という相反する二つの双対の働きがあり、力触覚を得るには矛盾する二つの働きを同時に達成する必要がある。しかし、位置を同期することと力を作用反作用の法則に則って追従することは相反するため、力触覚を得るのは困難であった。しかし、大西教授は物理的にアプローチするのではなく、加速度を使った理論「加速度規範双方向性制御」を生み出し、位置と力の制御を独自のアルゴリズムで両立させた。そして、その成果を社会へ活かすため、キャンパス内に設立されたベンチャー企業が「モーションリブ」である。

「AbcCore」がアクチュエータの力加減をコントロール

モーションリブでは、慶應義塾大学からリアルハプティクス技術の独占実施権を受けて、様々なアクチュエータへ実装できる、リアルハプティクスを搭載したICチップ「AbcCore」を開発した。これは、アクチュエータの力加減を制御する力触覚のコントローラであり、位置、速度、力の制御に加えて、一つのチップで2台のアクチュエータを同期させた力触覚を有した遠隔操作が可能である。アクチュエータにかかる負荷力を、前述のアルゴリズムから算出するため、力センサやトルクセンサの設置が不要となり、システムが簡素化しコストや故障も抑えられる利点もある。また、初めてロボットに触る人でも直感的に操ることができ、人の動作を記録すると複雑なティーチング作業なしに、そのままロボットが再実行することもできるので、熟練技能の記録、伝承にも向いている。

代表取締役の溝口CEOに話を伺った。

「『リアルアプティクスを使いたい』という企業からの要請に応えるため、2016年に会社を設立し、AbcCoreを提供できる体制を整えました。現在は、技術を導入したいお客様へのコンサルティングや技術支援、キーデバイスであるAbcCoreの販売等の事業を手掛けています。」

モーションリブが開発した「AbcCore」は、構造や用途に応じたパラメーターを設定すれば、すぐに使える状態にまで作り込まれており、SDKも充実している。ただし「AbcCore」を使うためには、慶應義塾大学が主宰する「リアルハプティクス技術協議会」に加盟する必要がある。「当社の理念は、リアルハプティクスで社会を豊かにすることです。力加減を制御できるようになると、ロボットが人を優しく支援することができるようになります。しかし、理念に反して、ロボットを犯罪などに悪用できる技術でもあるので、そうならない体制を作る必要がありました。そのため、理念に同意していただける企業様に、ICチップや技術ノウハウを提供しています。」

技術を健全かつ適正に普及させることが、リアルハプティクス技術協議会の目的である。なお、協議会への加盟と同時に慶應義塾大学との共同研究開発により利用が可能となる。この過程において課題検証、操作ハンドなど実機の共同開発、実証試験、ICチップの販売など、モーションリブが手厚くサポートしてくれる。

リアルハプティクスを搭載したICチップ「AbcCore」

ロボットと人が共生する社会の実現に向けて

同協議会には現在、自動車、建設機器、産業機械、医療機器などの産業界から50社ほどの企業が加盟し、実用化に向けた共同研究を進めている。例えば、シブヤ精機は、リアルハプティクスを搭載したミカン選果機を開発した。従来、選別したミカンは掃除機のようにエアで吸引していたため、腐敗したミカンを除去する際に、腐った果汁を撒き散らかしてしまう問題を抱えていた。それが、力触覚の伝達によって腐ったミカンであっても、ちょうどいい力加減で崩さずに取り扱うことが可能になった。

大林組は建設重機への応用を進めている。パワーショベルのアームの先端に、リアルハプティクスを搭載した「グラップル」と呼ばれるアタッチメントを装着し、遠隔操作で重量物だけでなく、変形しやすい薄肉鋼管を把持しながら運ぶことを実現させた。

これらの企業が事業として製品開発等を行う際には、モーションリブ中心に支援していくことになる。

産業界での実用化が進む一方、モーションリブでは現在、家電製品などの民生品への搭載にも力を入れている。それは一日も早く、ロボットと人が共生する社会を実現するためである。

「力加減をコントロールできない危険性が、ロボットと人との距離を遠ざけてきました。しかし、力触覚の獲得によってその距離を縮めることができます。これから人口減少、超高齢化社会を迎える日本は、様々な課題が山積していますが、その解決に向けてリアルハプティクスが活躍できる可能性は無限大です。」と溝口CEOは熱く語った。

リアルハプティクスを搭載したロボットが、日常生活の中で優しく人に寄り添う日も遠くないだろう。

川崎市産業振興会館
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