就労継続支援B型事業所 はっぴわーく

精神障がい者の認知と活躍の場を拓くため地元産高級梨ジャム製造に挑戦

 

 

 

 

はっぴわーく利用者・ 職員集合写真

事業内容 障害福祉サービス事業、相談支援事業、地域生活支援事業など
企業名 特定非営利活動法人たま・あさお精神保健福祉をすすめる会

就労継続支援B型事業所 はっぴわーく

創業 2009年(平成21年)9月
所在地 川崎市多摩区登戸2959
電話 044-299-6367
代表 (はっぴわーく所長)嘉門 琢美(カモン タクミ)

(主任)田中 敦子(タナカ アツコ)

URL たま・あさお精神保健福祉をすすめる会:https://www.sky1995.com/index.html

はっぴわーく:https://www.sky1995.com/office_shuurou_happi.html

厚生労働省が障がい者雇用義務の対象として「精神障がい者」を追加したのは2018年4月1日のこと。それまでは精神障がい者に対する認知が進まず、無理解と偏見から“居場所”を見つけるのが難しいといえた。一方、精神科の病院では長期入院が課題となり、地域生活に移行する動き(ノーマライゼーションの推進)が進んだ。しかし、精神障がい者は外見では分かりにくく、症状も人によってさまざま。そのため、知らないがゆえに「怖い」と感じてしまう人が少なくなく、就労はもちろんのこと、住居すら見つけられないケースもあった。こうした中、精神障がい者を身内に持つ家族たちは、障害者自立支援法ができる前から「家族会」などを結成。助け合って精神障がい者の「住む」「集う」「憩う」「働く」を創ってきた。2009年9月に開設された就労継続支援B型事業所「はっぴわーく」の母体も、多摩区・麻生区の家族会が前身の一つとなった市民団体「たま・あさお精神保健福祉をすすめる会」だ。同事業所では、障がい者が自分らしくこの地域で暮らすことを手助けするために、あらゆるチャレンジを続けている。その一つが生ジャム製造だ。

転機は大手鉄道会社からの連絡

「特定非営利活動法人たま・あさお精神保健福祉をすすめる会」は1995年10月に設立された。精神障がい者に対する自立支援の一環として、社会と接点を持ちたいとの希望を持つ利用者に、働きながら経験を積める作業所を設けていた。週1日から勤務できる軽作業がメインだったが、時代とともに障がい者の一般就労への道筋もできたことで「もっと働きたい」と考える利用者が増えてきたという。そこで、週2日2時間以上働き、希望すれば一般就労も目指せる施設として「はっぴわーく」が設立された。それまで働いていた約50人の中11人が働きたいと意志を示し、スタートした。

当初は企業から請け負う軽作業やポスティング、清掃作業が中心だった。しかしながら、職員たちは「他にも何か新しい仕事がつくり出せないか」と考えるようになり、地元の名産品で贈答用の高級梨として知られる「多摩川梨」を作る近隣農家に飛び込み営業をかけた。「規格外の梨があったら、それで梨のジャムを作らせてもらえないか」と。

当時の梨農家は、規格外の梨を加工しているところはなく、まさにジャストタイミングだった。そして「この梨が障がい者の方たちの勇気と希望になるのであれば…」と無償で提供する農家が現れた。

とはいえ、せっかく優れた素材があっても、加工しなければ商品として販売できない。無論、味も問われる。職員たちは生ジャムのレシピ開発に1年間をかけたという。売れる商品を作るため、1年間何度も試作を重ねた。こうして同事業所のオリジナル商品「多摩川梨ジャム」は誕生した。2010年のことだった。製造は1日2キロ、15本分を作るのがやっと。また、福祉イベント以外は決まった販路もなかったため、初年度の売り上げはわずか43万円。それでも、細々と続けていった。

そんなジャム製造に転機が訪れたのは4年後。ホームページで「多摩川梨ジャム」の存在を知った大手鉄道会社から「イベントで地元の名産品としてジャムを使いたい」と、突然のオファーがあった。

挑戦することで、人もかわり、組織もかわった

「確かにうれしかったですが、それ以上に不安も大きかったです」と主任の田中敦子さん。相手は大企業。イベント開始は3カ月後で、必要とされるのは60キロのジャム。農家の協力はもちろん、1日最大2キロという生産体制の中で、利用者たちは付いて来られるのか…。職員と利用者たちの間で話し合いが行われた。「大企業からこんな(自分たちのつくったジャムが欲しいと)話が来て自分たちもうれしい。やりたい」。それが利用者から返ってきた言葉だった。こうしてプロジェクトへの挑戦が始まった。

まずは設備を見直し、大型の鍋を購入。製造方法も2倍量で今と同じ味が出るようレシピの見直しも進めた。絶えず生産できるようにするため、勤務時間もシフト制にした。

こうして順次納品することに成功。約束の量を全て作り終えて10月のイベントを無事迎えられた。梨ジャムは、パウンドケーキやデニッシュなどに使われ好評を得た。以降、6年連続毎年秋にイベントで使われている。

「挑戦したことで、利用者たちの意識が変わりました」と、田中主任は語る。「60キロの梨ジャムを製造する」という大きなプロジェクトを目の前に、どうしても体調が悪くシフトに入れない人がいると他の人が代わりに入ったり、利用者たちの間に「助け合い」や「思いやり」の心が生まれ、プロジェクトが6年も続いていることでやりがいや自信にもつながっているという。

自立を目指し、収益を上げる

一大プロジェクトを乗り越えた同事業所。その年の売り上げは80万円。前年比で1.6倍にもなったという。今では、9軒の地元農家からの協力を受け、季節に合わせて年間10種類ほどの野菜や果物のジャムを、素材に合わせたレシピで製造している。さらに、大きく変化したことは、売り上げの拡大とともに「作業工賃」の増加だった。それまで時給140円だったのが18年度には時給360円に。利用者にとってもジャム製造は人気作業となった。

「利用者にとって一般就労は将来の希望の一つでもあります。でも、それでもやはり難しい人もいるのが現実。はっぴわーくで働くことで障害年金と作業工賃で生活できるようにしていけたら」と田中主任。精神障がいのある人たちが自立して暮らしていくためには、障害年金のほかに自分でもお金を稼いでいく必要がある。そのために一般就労を目指す人も多いが、障がいとうまく付き合いながら就労することが困難な人も少なくない。施設でしっかり働き自立のための糧を得てもらうため、軽作業ではより複雑な作業を受注することで単価を上げたり、ジャム製造の売り上げを伸ばすことでより一層の工賃アップを図っていきたいとしている。

同事業所では今、収益アップが見込める作業として、ジャム製造に力を入れている。今後は、お客様からのニーズに対応していくことを目標に、製造技術の向上や新製品の開発にも挑戦していきたいとしている。

オリジナル商品「多摩川梨ジャム」

 

川崎市産業振興会館
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