自社名のつく「アボロン工法」で建設工事を支える杭打・杭抜機の高シェア企業
代表取締役 竹井 寛
事業内容 | 建設機械・油圧機器の製造、整備 |
企業名 | アボロンシステム 株式会社 |
創業 | 1964年(昭和39年)4月 |
所在地 | 川崎市川崎区小島町4-5 |
電話 | 044‐299 – 2616 |
従業員 | 50名 |
代表 |
竹井 寛(タケイ ヒロシ) |
URL | https://www.avolon.co.jp/ |
川崎区の小島町は沢山の工場が密集しており、工場夜景の主要地域としても知られている。その小島町に、ひときわ大きなクレーン車やショベルカーが所狭しと置かれている一角がある。そこがアボロンシステム株式会社の本社工場である。同社の主要製品であるアタッチメント式の施工機は、取り付けることで市販の工事用車両を必要な時に杭打機や杭抜機に早変わりさせる。動力部分を車両と共有するため、小型・軽量、設備投資負担の軽減をすることが評価され、全国の建設現場で活用されている。同社の竹井寛社長にこれまでの展開と今後の展望を伺った。
滑車を使った懸垂式の杭打機/杭抜機を開発し、低振動・低騒音の工事に貢献
同社の始まりは、川崎区の殿町で自動車の修理を主要事業として、1964年に設立された中央自動車興業株式会社にある。中央自動車興業は、大手自動車や特殊車両メーカーと業務提携をして、クレーン車など建設機械の改造・修理をするようになる。そうするうちに顧客の要望が増え、建設機械の開発にも進出することになった。その開発製品が杭打/杭抜機である。当時、ビルなどの基礎工事では土留用の鋼板を地中に埋め込んでおり、その打ち込みや引き抜きには大型の振動機を使用していたが、周囲への振動・騒音が課題となっていた。
この課題を解決するために、クレーンメーカーや商社と共同で、クレーン車に後付けする形で、杭打ちでは杭用の穴を開けるためのオーガ(スクリュー)をアタッチメント式にし、杭抜きでは滑車を使ってウィンチで巻き取って杭を引き上げられるようにする開発を進めた。その過程では、多くの試行錯誤があったという。「滑車に使用している鋼材部品の割れなどがあり、材質や溶接方法を変えて、四苦八苦しながら1年くらいかけて商品化しました」と竹井氏は語る。こうして1976年に無振動無騒音型杭抜機「アボロンNV-101」が市場に投入された。また、翌年にはオーガ併用杭打機「アボロンCV-205」が製品化され、アボロンシリーズとして本格的に販売が開始された。ギリシャ神話の光明を司る太陽神Apollōnを由来として、新しい分野でのVICTORY(勝利)の意味を込めて、AVOLONという名前に変えて商標登録もした。
「顧客第一主義」 安全・安心の対応力でバブル期も乗り越えた
1977年、大手建機メーカーから転職してきた竹井氏が入社する。前職では建機の営業担当として、迫力ある建機に魅力を感じる一方、大きな組織の中での限定的な仕事に物足りなさも感じていた。油圧ユニットや発電機など様々な機械を組み合わせて顧客へ提案できる同社が魅力的に映った。「初めて1億円の見積書を出した時には震えました」とやりがいを感じる毎日であった。バブル期の前という時代背景もあり、勢い盛んな顧客も少なくなかったことは想像に難くない。「いろいろ社会勉強をしました。業界イメージを高めるためにも、お客様に対して礼儀正しく努めています。社長になった今は、言葉遣いなども教育を徹底しています」と竹井氏は語る。同社の工場で従業員からかけられる気持ちのよい挨拶は、こういった意識の表れなのであろう。
1990年代前半のバブル崩壊では、当社にも少なからず影響があった。竹井氏は営業本部長として、倒産した顧客の債権処理などにあたった。そのような状況下で「一つ一つの完成品をお客様と作り上げていくしかない」という確信を竹井氏は持った。バブルに飲み込まれなかった強い顧客は、基礎工事現場で効率よい作業を追求する上での課題が明確になっていた。そのような課題を受けて解決できるのが、自社の強みであった。具体的には、基礎工事では、10m近い杭を打つため、オーガを支持するリーダやケーシングといった部品も同等の長さになる。それらの長い部品をクレーン車で採りまわすには不安定さが伴い、倒壊するようなことがあれば大事故につながる。クレーン車の重心や足場にかかる荷重を計算して、安心・安全に工事できる確証が必要となる。自社の強みである現場に合わせた計算のできる設計力、中小企業ならではの小回りのよさ、そして大手並みの品質管理力を駆使し、個々のニーズに応えていった。その姿勢を貫き、現在も竹井氏は社員にも「社長の顔より顧客の顔を見ていこう。お客様との共存共栄が大事」と顧客第一主義を説いている。品質管理では、特に作業者による巧拙の出やすい溶接工程では、資格保有者である部門長が自らチェックをするなど徹底している。新入社員には、半年間でクレーンまでの免許取得を会社としてバックアップし、使い勝手を意識した製造ができるように教育している。
戦後75年で増加する解体個所を見据え、全国展開の地固めを進める
2000年頃に、(タイヤ式の)ラフタークレーンから(キャタビラー式の)クローラークレーンへとクレーン車の潮流に変化が生じた。これにより設置安定度が増し、同社の杭打/杭抜機も高出力化が図れた。そのため、より高出力が必要な現場へも適用範囲も広がり、需要が高まった。懸垂式杭打機では国内シェア80%(当社推定)となったブランド名をとり、2005年にはアボロンシステム株式会社と社名変更した。そして、2017年に竹井氏が5代目社長に就任した。
竹井氏の今後の戦略は、全国に広がりつつある需要に応えていくことである。戦後に建設されたビルの老朽化は進行し、解体工事の需要は全国にある。関東地区中心だった自社のユーザーは、解体業を中心に広域に広がり、2017年に西日本営業所を開設した。修理などのきめ細かい対応をするためにも拠点を拡充し移動距離を減らしたいと考えている。
現在、川崎から遠く離れた沖縄県の首里城の改修工事でも同社の製品は使われている。2014年の工事から入り始め、2019年の火災を受けて長期の改修工事に使われている。小型機でないと搬入が難しい現場で、沖縄ならではのサンゴ礁で硬い岩盤と高低差の多い工事であり、狭い場所でも安定した力で杭打ちできる同社の技術
力が活かされている。
技術力を維持するために大事なことは、新しい製品開発とそれを支える人材であると、竹井氏は考えている。新製品は、顧客要望を基礎として、時には共同開発にも取り組む。「出来上がるまでが大変です。ものになるまで10年ぐらいかかることもあります」という。近年ではJRの駅にホームドアを取り付けるための穴あけ機なども開発した。人材面では、未経験者も含めて採用と教育を積極化している。「ものづくりの好きな人を求めます。料理人出身の職人も在籍していて、教育を経て責任ある仕事をこなしています」と竹井氏は誇る。「大きな機械を動かしているのは、いつだって人」という意識でアットホームな雰囲気を大事にして、同社の杭打/杭抜機は全国の建設現場へ広がっていく。
主力製品である「アボロンオーガーシリーズ」