光を電気で操る技術により開発したプラスチック製無痛針マイクロニードルにて医療機器市場を目指す
代表取締役
宮地 邦男
事業内容 | 光学・電気技術を用いた医療機器および検査測定機器等の製造販売事業 |
企業名 | シンクランド 株式会社 |
創業 | 2014年(平成26年)2月 |
所在地 | 川崎市川崎区日進町7番地1 川崎日進町ビルディング9階 |
電話 | 044-874-1916 |
従業員 | 22名 |
代表 | 宮地 邦男(ミヤジ クニオ) |
URL | https://www.think-lands.co.jp Seleia 公式ショップ https://seleia.jp/ |
「当社は『微細技術で無限の可能性』を追求しており、光学技術・電気信号処理技術・ソフトウェア技術をトータル化し、レーザー光で物体の厚みや距離を検査する測定機の製造が得意です。また、マイクロニードルの穴開けや穴の測定検査にもレーザー光を使っています」と宮地社長は胸を張る。
サンプルの表面や内部構造を非接触・非破壊・非侵襲でイメージング(断層画像化)できる光干渉断層計「OCT」や高速通信用変調デバイス・受光器における周波数帯域検査装置「PFDA」を製造販売するメジャメントソリューション事業、世界初の中空型マイクロニードルを使った医療機器や化粧品を国内外に展開するマイクロニードル事業の2事業を展開する。
医工連携による光通信計測機器の医療分野への応用展開を前職時代から検討
「金沢大学理学部化学科出身で、1986年に住友大阪セメント㈱に入社して、セラミックスの射出成形を研究開発しました。その後、人工骨の拡販のために製薬会社に出向し、MR(医薬情報担当者)を2年経験しました。次に、住友大阪セメント㈱の子会社に出向した際に当初から携わっていた光学デバイス販売では通信バブルの波に乗り、某電線メーカーに大量に購入いただき、9 年目に40 億円の売上高を達成しました。更には、2001年に設立した㈱アルネアラボラトリにて取締役に就任、光通信計測機の製造販売を担当しました。2004年から代表取締役に就任、退職前3年間連続黒字化に成功しました」と宮地社長は当時を振り返る。
光通信計測機を製造販売する㈱アルネアラボラトリでは、コンシューマーなど使う人の意見は届かず、大手電気メーカーの研究所のために働いているイメージが強かった。景気の影響を受けにくい安定した伸びを示す医療業界において、世の中の人に直接製品を届けたいという思いを強めた宮地社長は、光通信計測機の医療分野への展開を目指して、医工連携の「工」の立場で「医」を一から勉強した。
2014年2月、50歳を契機に独立、シンクランド㈱を設立した。社名は「Think(考え思う事)を実現するLands(場所)であり続けたい」という思いを込めた。
「当時中学生だった下の娘に『Think の読み方はスィンクで、シンクだとSink で沈むという意味になる』と指摘されたが、今は会社紹介の掴みとして笑いを誘っています」と宮地社長は笑顔だ。
創業時は、横浜市鶴見区のリーディングベンチャープラザの25㎡の1部屋に入居、最初の仕事は机の組立だった。その後、同施設で50㎡の3部屋を借りたが、フロアが異なり経営効率の改善が必要となった。2021年6月、従業員の通勤を考慮して川崎区日進町の現事務所に移転した。
創業1年目は、3つの振動子がXYZ 軸のどの方向に振動したかを測定する装置を開発した。水のろ過フィルターが内蔵するハウジングの筐体表面に装着して、フィルターの目詰まり具合をLEDの青色→緑色→赤色と色の変化により評価し、無線で遠隔監視する装置として特許を登録した。その後、ビル解体工事現場の振動測定装置として中堅建設会社に販売した。創業2年目に、かわさき起業家オーディションに参加してビジネスアイデアテーマ「建造物や工事現場における過振動可視化装置の開発」にて起業家優秀賞を受賞した。
NEDOのSTS事業採択を契機に医療用の中空型マイクロニードルを開発
「主要製品の光干渉断層計「OCT」は、携帯電話の保護フィルムなど樹脂フィルムの多層膜の厚さや不純物の検査、表面形状を評価することができます。石英ガラスのレーザー加工形状を測定すると、断層画像からレーザー加工で開けた穴の半径や深さだけでなくマイクロクラック(微細なヒビ割れ)まで評価できます。ペットボトルなど透明な物質の表面キズの検査や内部構造も評価できます。また、周波数帯域検査装置「PFDA」は、高速通信用デバイス評価のための検査装置です。コア技術の『光を電気で操る技術』を活用して計測に注力した形で色々な産業に展開しています」と宮地社長は力強く語る。
2016年、NEDO のSTS(シード期の研究開発型ベンチャー)事業採択を契機に、光渦レーザー技術を活用して金属製微小注射針を研究開発していた千葉大学大学院の尾松孝茂教授と医工連携で医療用のプラスチック製中空型マイクロニードルの開発を開始。樹脂に光渦レーザーを照射する試作実験でマイクロニードルの製作に成功した。当社の元CTO(最高技術責任者)が糖尿病で、毎日インスリン注射を投与していたことも開発を推進する原動力となったという。2018年、NEDOのSCA(企業間連携スタートアップ)助成事業に採択され、医療用途では長い針が必要となり、シミックCMO ㈱と連携した結果、複合的な製造方法により現在では注射針の長さ1,500㎛(1.5㎜)を実現している。
無痛針マイクロニードルで売上を確保するために、医療用途での開発に先駆けて、化粧品用途を開発した。肌の角質層を抜けると医療行為になるので、注射針の長さ200㎛(0.2㎜)にして角質層を抜けない設計により神奈川県の承認を得た。ノック式中空型マイクロニードル化粧品のオリジナルブランド「Seleia セレイア モイスチャーリュクス ST」をオンライン公式ショップ等で販売中だ。美容成分のヒアルロン酸やコラーゲンなどを含み、1本で皮膚表面に約400プッシュ使用できる。使用方法はYouTube動画で紹介しており、2023年4月の発売開始から50媒体以上のメディアで「最新の針エステ」として紹介された。ノック式中空型マイクロニードル化粧品のOEM・ODM(容器販売)を受託しており、ユーグレナ㈱の「CONC コンク リンクルインジェクション」の売れ行きは好調だ。今後も複数の企業がノック式中空型マイクロニードル化粧品を発売する予定だ。
無痛針マイクロニードルの美容用途アイデアは社員と議論する中から発想
「無痛針マイクロニードルの開発から製品化では社員に苦労をかけたし、今も社員には苦労をかけています。開発費用の資金調達も大変でした。現存技術で事業化するために、美容用途にピボット(方向転換)できたのは社員と議論する中から出てきたアイデアでした」と宮地社長は熱く語る。
経営理念は「光を使った計測技術で無痛針の技術で社会に貢献する」を掲げる。
主要製品の光干渉断層計「OCT」は、従来は顧客企業が計測したデータを解析していたが、当社は一歩踏み込んで計測データを顧客企業が欲しいデータにカスタマイズする方針。そこで、ソフトウェア技術者を更に採用して組織体制を強化する計画だ。
無痛針マイクロニードルは、医療用途における痛くない注射針の開発スピードを上げる方針。そこで、今後は、動物実験を成功裏に実施後に、医療機器の薬事承認申請、人に対する臨床試験、薬価基準収載の承認に取り組む計画だ。
「最終目標は、無痛針マイクロニードルの開発に投資してくれた株主の皆様に利益を還元することです。医療用途での開発を推進して、必ず製品化を成功させたいと考えています」と宮地社長は将来を見据える。