アメノスパジオ

質感の高い仕上げで「欲しいけど世の中にない革製品」を創り出す工房

アメノスパジオ 代表写真
代表 仲垣 友博
事業内容 靴・鞄・革小物等の革製品製造・販売
企業名 アメノスパジオ (現 株式会社ユハク)
創業 2006年(平成18年)4月
所在地 〒213-0027  川崎市高津区野川3889-1
電話 044-272-9009
FAX 044-272-9009
従業員 3名
代表 仲垣 友博 (ナカガキ トモヒロ)
URL http://www.amenospazio.com/

*アメノスパジオは平成21年7月をもって株式会社ユハクに組織変更しました。
最寄駅からバスで15分、中原街道沿いの少し奥まったガレージのようなところに“アメノスパジオ”は工房を構えている。仲垣 友博代表の手から作り出される味わい深い手染めの革製品(靴・鞄・革小物etc.)が陳列された工房は、店名の由来通りの「心地の良い空間」となっている。

販売員のアルバイトからスタートした独学の職人

仲垣氏の実家は金属加工の工場を営んでおり、小さい頃からモノづくりが身近にある環境であった。仲垣少年が誰から習うわけでもなくモノ作りを楽しんでいたことは想像に難くない。そんな仲垣少年の心を捉えたのは、靴であった。独特のフォルム、光沢、もしかしたら靴を通して大人の世界を垣間見ていたのかもしれない。ただ、その思いは革職人という職業を意識するまでのものではなく、最初は絵描きという生き方を目指すこととなる。しかし、絵の世界には「上には上がいる」ことを思い知らされ、程無くして絵描きを断念する時が訪れる。
「生活のために」仲垣氏は靴の企画会社で販売員のアルバイトとして勤務することになる。幼少期の靴への思いから「せめて好きなものに携わる仕事なら」という気持ちであった。そして販売員として職場にも慣れた頃に転機は訪れた。「絵を勉強してきたなら、靴のデザイン画を描いてみないか?」と言われ、販売員として顧客と接し感じていたニーズを元に「欲しいけど、世の中にない靴」を描きだした。するとニーズを形にしたその靴は、会社で一番のヒット作となった。
その一作目から仲垣氏の製品作りの哲学は変わらない。「デザインを極力抑えた洗練されたデザイン。それでいてパッと見ただけで心が惹きつけられる様なそんなモノを作りたい」「ただの遊びで面白いというものには意味がない。欲しいと思わせるのが大事。洋服やその人の個性と引き立て合うような作品が理想」と言う。同業者に“凄い”と思わせたい気持ちをぐっと抑え、職人の独りよがりにならないように留意している。惹きつけるポイントを何点も盛り込むと確かにカッコイイが“使える”感じにはならない。本当に良いポイントは主張しなくても感じ取ってもらえるところでもあるので、惹きつけるポイントは一製品に一か所あれば良いと考えている。
企画会社には9年ほど在籍した。革を扱う技術に関しては殆どを独学で習得した。一番大きかった経験は修理に携わったことで、他社の製品作りが分かり大変勉強になった。しかし分かっただけに終わらせないのが、仲垣氏曰くの「負けず嫌いな性格」である。「もっと良いものをと考え、自分ならこうする」という仮説思考が、製品の隅々にまで満ちている“雰囲気”を守り続けている。「小遣いは今まで殆ど貰ったことがないですね」と笑う仲垣氏は、会社勤務時代には給料の殆どをミシンなどの設備に投資した。革製品の世界にどんどんのめり込み、靴以外にもいろいろな仕事をしたいと思うようになった
そして、遂に「どうしてもやってみたい」と2006年にアメノスパジオを設立する。納得できる製品作りを追求する上では、試行錯誤がつきもの。独立してからは普通の人の2倍以上は仕事したと自負している。また、作り上げても自分の中で納得がいかずに、売ったものを一旦戻してもらって作り直したこともある。採算が合わないことは重々承知しているが、世の中に出る自分の靴や鞄は顔を持っており、それ自体が広告宣伝費と割り切って妥協することはない。そのため立ち上げ後2年程は、殆ど儲からなかった。というより、バイトを掛け持ちして乗り切ってきた。独立して実感した苦労は想像以上だった。資金繰りの大変さやお客様をつかむことがいかに大変かも痛感している。しかし、良い製品作りをしていれば、誰かが見ている。製品に触れたことがきっかけで自動車部品販売や高級時計販売などの会社からOEMの依頼が来た。現在、OEMはアメノスパジオにとって重要な柱になっている。

トップブランドと同等の商品作りを追求する

ハンドメイドというと、革の裏側(床面)を敢えて見せてしまう“いかにも”という作りが典型的になっている。アメノスパジオは、そういった典型的なハンドメイドの範疇の製品ではなく、トップブランドと同等のしっかりした製品作りをしていたいと思っている。どこを見てもきれいな革の表側(銀面)が見えるよう極力床面を隠しながらも、銀面の貼り合わせなどの手間をかけたり、内側に山羊の革などを使いハリを出したりして、丈夫で傷つきにくい製品にしている。
アメノスパジオのもう一つのこだわりは「手染め」である。自分が欲しかったアンティーク調の質感が出るものが、世の中にはなかったことがその理由だ。手染めでは革の芯まで染まらないので何度も重ね染め上げることが必要となるが、光の加減で色味が変わり奥行のある雰囲気がでる。財布では4~5色、靴で8色使うこともある。手間はかかるが止めることはできない。
そんな同社のこだわりがファンに信頼されてであろうか、当店へのオーダーは殆ど「おまかせで」とか「なんとなく、こんな感じで…」との依頼である。そのため顧客の好みを知るためにも実際に会って、長話をしたりする。工房に来た顧客は、だいたい2時間以上は滞在しているというから驚きである。現在は営業らしいことをしておらず、8割は口コミで残りがホームページ経由である。ホームページからは、映画「GOEMON」の地下足袋の注文などもあった。注文に沿ったモノ作りにプラスして、自分の独断で「映像を通して綺麗に見える」という要素を中に入れ込んだ。作り直すことも覚悟のうえで仕上げたと言う。しかし、それが好評であった。

挑戦の時期 -規模拡大しても職人集団

「やりたいことが沢山ある。今は挑戦する時期」と仲垣氏は思っている。だからといって、雑な作りは許されない。一つ一つの製品に気持ちがこもっているのが最優先で、“しっかりした作り“にこだわって突き詰めていきたいと仲垣氏は語る。「今後、加わるメンバーは、”しっかりした作り”をわかった上で自分の個性を発揮してもらうことになるでしょう。組織が大きくなるとすれば、一人一人の個性に応じてブランド分けする必要も感じています。」
仲垣氏自身は将来的にも職人でいたいと考えている。しかし、量産化は否定していない。一つ一つの手順をしっかり踏んでクオリティを落とさず、速く良いものを作ることは非常に興味深いテーマと認識している。今後は企画とサンプルまでで、あとは外注する場合も出てくることが考えられる。それも新しい人材を育てる機会と認識している。人材育成の理想形としては、「その人にあったものを大切にし、自分より優れている点を伸ばしたい。全体を知っていて、一つの強みを伸ばしていくような形」と考えている。大きい工場のように担当部分を固定して個々人が「作業員化」するようなことはせず、個々がお客さんの方を向いている「職人」集団として、アメノスパジオは魅力的な製品を作り続けるであろう。

川崎市産業振興会館
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