株式会社 廣杉計器

10円のスペーサーと細やかなシステムがオンリーワンの強い会社を作る

廣杉計器 代表写真
社長 佐々木 一郎
事業内容 各種機構部品(金属製、樹脂製スペーサー、ワッシャー)製造・販売
企業名 株式会社 廣杉計器
創業 1980年(昭和55年)12月
所在地 〒216-0035 川崎市宮前区馬絹2038-1
電話 044-855-1320
FAX 044-854-7364
従業員 45名
代表 佐々木 一郎 (ササキ イチロウ)
資本金 5,000万円
URL http://www.hirosugi.co.jp/

株式会社 廣杉計器は、社名から測定器関連の会社と思われがちだが、実は電子機器の筐体からプリント基板を浮かすための金属製や樹脂製の “スペーサー”を開発・販売する会社である。社長の佐々木氏の戦略的経営により、一代でシェア7割(推定)のリーダー企業として確固たる地位を築いている。

数百万円の計測器から数十円の部品への事業転換

医薬品製造装置の会社で設計エンジニアとして勤務していた佐々木氏は、その会社の倒産に直面し1980年に当社を設立した。設立当初は、社名が示すようにダムや港湾等の公共事業での調査に用いられる音響測深機の設計・組立・配線の下請けをして、初年度から順調に業績を上げていた。しかしながら経営者としては公共事業の下請けリスク、すなわち1回の取引金額が大きいものの景気や政策に売上高が大きく左右され、取引先が限定されることが気になっていたと言う。“ラーメン一杯分程度の価格”で誰もが気軽に買える商品を扱う安定したビジネスを展開したいと考えていた時、佐々木社長の目に留まったのが測深機に付いていた六角柱形の“スペーサー”であった。当時は金属製のものを外注して作らせるしかなく、販売価格も1個100~200円と意外に高いものであった。プリント基板1枚の四隅には必ず付いており、規模の大きな装置によっては、1台に100個も200個も使うこともある。「これを樹脂のような軽い素材で安く作って売ったら結構いい商売になるのではないか?」と閃き、調べてみると競合となるような会社もない。何よりも1個10円で作れれば50個まとめてもラーメン一杯分の価格で買える消耗部品であることが魅力的であった。こうして同社は計器事業を残しながらも、1984年にスペーサーの製造販売に進出する。それ以来、新規事業立ち上げの困難さに打ち勝ち25年近く順調に成長を遂げ、スペーサーのトップ企業としての足跡を残してきた。
とはいえ、10円の部品で事業継続のための売り上げを立てるには、大変な手間がかかる。「私はもともと設計屋だから営業はしたくなかった」と語る佐々木社長は、電子部品を通信販売する形をとった。FAXや宅配便の黎明期であった25年前としては斬新な「商品カタログ配布、FAX受注、宅配便発送」の流通形態を確立する。販促方法も独自に考えた。通販を貫くため、自分から商社の門を叩かずに、設計技術者が目を通す雑誌2誌への広告掲載に頼った。初年度は広告料に見合う売上は無かったものの、1年を過ぎると大手企業からも注文が入り安定してきた。広告掲載はトップ企業となった今でも継続していると言う。「販促手段としての効果は分からないが、苦しくなると最初に削られることが多い広告経費を削らないでいるという事実が会社の信用力アップに繋がる」と判断しているからである。

25,000アイテムの取扱いを支えるスピード経営

今や当社の商品は25,000アイテムにも達している。しかも、その全てに仕様書を整備している。「採算を考えると1個数円の部品に仕様書データを提供することは合理的ではありません。でも、お客様となる設計者の立場で考えると、仕様書があることは非常に助かるものなのです」と佐々木社長は言う。また、一見して紛らわしい金属スペーサーには、判別のため材質名を印字している製品もある。発注の簡便化のため部品にはコード番号もつけている。同社の製品とサービスには、設計者視点の細やかな配慮があふれている。それが顧客に支持される理由なのであろう。
支持される理由をもう一つ挙げるならば、即納体制であろう。顧客に対しては、問い合わせ後2時間以内に納期回答が原則となっている。フロア内の大型ディスプレイに案件の状況が色分けで表示され、一目で未処理案件がわかるシステムとなっている。「分業化して効率化したとしてもミスは減りません。むしろ責任の所在を明確にすることが大事です」との信念のもと、受注プロセスはお客様別マンツーマン体制で処理される。自分専用ダイヤルで顧客から注文を受けた担当者は、受注、クレーム、発送まで全責任を持って進める。そのための仕組み作り、インフラ整備などは社長主導で進めた。
一方で製造については外注とし、委託先を1社に絞ることなく数十社に分散している。ビジネスパートナーとしての委託先との間に信頼関係を構築し任せているからこそ、自社で製造や在庫管理の必要もなく、数千品目の開発と販売に専念できる。日報により製造委託先別の仕入率などのタイムリーな把握をすることで委託先全社の経営が安定するように配慮している。 「本当に必要な部分だけ自社の人員を割く。経理や労務はアウトソーシングです」という同社は、佐々木社長の考えが隅々まで行き届きつつもシステマティックな会社となっている。しかし、その一方で会社を支える従業員は、「お酒が飲める人、宴会をする場合は幹事をやりたがるひとが多い。当社の仕事では協力工場との折衝になります。紋切り型の人物では務まりません」と情や懐の深さを大切にできる人物を選んでいるそうだ。

思い切った製品開発投資で築くオンリーワンのポジション

同社は、「小さな引き出しに入る他社のできない商品をどんどん企画すること」を戦略としている。そのためにも自社開発の手は緩めない。同社の真の姿は、1年間に2,000アイテムの新商品を出している開発型企業である。スペーサーの他に、樹脂性のワッシャー、ブッシュの企画なども進めてきた。開発を支える背景には、「社員は会社の歯車ではない」という佐々木社長の思いがあり、若い社員も仕事にやりがいを持って積極的に開発提案する風土ができている。
環境調査力があることも同社の強みである。RoHS指令(電子・電気機器における特定有害物質の使用制限)などの厳格化が進む中、お客様が部品の環境調査をする手間を省けるようにと、当社では年間3000点もの調査・分析をして自社製品の環境調査結果を提出できる体制を構築している。
スペーサーというのは、今まで筐体と基板を繋ぐ機構部品の扱いであったが、今後は電子部品と基板を繋ぐ電子部品の領域にかかる製品を強化していきたいと考えている。その流れから生まれたのが、今春発表のLED用スペーサーである。環境特性に優れたセラミックス製でLEDの放熱性能も向上させている点が特徴である。常に開発型企業でなければならない、しかし開発商品は3年後ぐらいにならないと花開かないと割り切って、事業で得た収益を積極的に商品開発に投じている。 佐々木社長は、自分の趣味について「会社のことについて考えを巡らすこと」と語る。国内の製造業が今後半分になったと仮定して、そこで生き残っていけるか?そんなことを自問しながら、常に会社の将来を考えている。「日本の製造業が生き残るには、少量多品種生産しかない」と語る佐々木氏の目線の先には、製造業が生き残るためのヒントが見えているのであろう。

川崎市産業振興会館
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