顧客の仕様を練り直す、こだわりのオーダーメイド自動車生産設備メーカー
社長 酒井 高雄
事業内容 | オーダーメイドの生産設備・電子制御機器の開発、設計、製作 |
企業名 | 株式会社 マイス |
創業 | 1991年(平成3年)3月 |
所在地 | 川崎市高津区宇奈根758 |
電話 | 044‐813-7530 |
代表 | 酒井 高雄 (サカイ タカオ) |
URL | http://www.mice1991.co.jp/ |
(株)マイスは、オーダーメイドの生産設備や電子制御装置類のワンストップメーカーである。スイッチ自動組立機や、水晶振動子検査装置、電子部品自動搭載機ほか、数多くの生産設備製作の実績を持つ。従業員数は社長を含めて3人という小所帯ではあるが、ものづくりに対するこだわりは大きい。「机上の設計だけでモノは動かない」と、顧客の仕様を練り直し最適な設計提案を行うことも度々である。高度な知識と経験に基づく優れた技術力、そして、設計から組立、配線、制御、据付までほぼ外注することなく、ワンストップでサービスを提供できる強みがある。そんなマイスが製作する装置類は、シンプルで低価格でありながら、使い勝手と信頼性が高く、見た目の美しさにも定評がある。
“何か面白いことをやってみたい”との想いで起業
酒井社長はかつて、大手光学機器メーカーの生産設備部門に26年間在籍していた。そこでは、切削や研磨、きさげ加工といった、ものづくりの基礎となる技能を身に付けると同時に、専門的な光学知識や機械設計の知識、装置作りのノウハウを幅広く学んだ。
「職場には、旋盤やフライスといった工作機械のほか、塗装装置やめっき槽、ガラス溶融炉など多分野の設備がありました。それぞれに専門の技能者がいて、彼らはいつも先生役となって多くのことを教えてくれました。何でもゼロから作り上げていくので、ものづくりを学ぶにはいい環境でした」と当時を懐かしそうに振り返る。現在の装置作りのベースはその当時に身につけたと言う。
充実した職場環境にありながら、独立した理由を尋ねると、「何か面白いことがやりたくて起業しました」と酒井社長は語った。
マイスは1991年3月、品川区大崎で設立され、2000年に高津区宇奈根に移転し現在に至っている。社名の由来は、創業者二人の干支が子(ねずみ)だったことに因み、その複数形英単語の「Mice」を充てている。
酒井社長が取り組んだ“面白いこと”の第一弾は、プリント基板への電子部品の供給装置である、テープフィーダーの製品化だった。会社設立と同時に取り組んだ初の自社製品開発である。
「電子部品は、テープフィーダーと呼ばれる専用の供給装置にリール状に装着されています。当時はリールを使い切るとその都度、装置を止めて交換していたので、そこを自動化する装置を作れば当たると考えました。共同開発のスポンサーを探しながら、開発を進めていましたが、じきに資金不足で行き詰まってしまいました。結局、当時の市場には必要とされず、自分の思い込みだったと後になって気づきました」
こうして、初の自社製品は日の目を見ないままに頓挫したのだった。
こだわりが顧客の信頼を勝ち取る
目論見が外れたテープフィーダーの開発は経営を圧迫した。その後しばらくは資金繰りに苦しみ、眠れない日々が続いた。事業が軌道に乗り始めるのは、設立から6年が経過してからである。「携帯電話の普及とともに忙しくなりました。その制御用の部品である、水晶振動子の自動検査装置の製作を請け負ったことによります。携帯電話の出荷は2・3年周期で波があって、繁忙期はほとんど休みを取ることができません。当時は黙っていても注文が入る時代で、大手スイッチメーカーからの大掛かりな仕事も重なり、年間の休日が10日にも満たない状態が続きました」
その頃の売上は3人で3億円近くにも達したという。一人1億円もの売上である。そして、当時の顧客は今もマイスのリピーターとして仕事を発注している。マイスが製作した装置を一度使用するとファンになるらしい。酒井社長に装置作りのポリシーを伺った。
「装置は、お客さんというよりもその先のオペレーターの身になって作っています。なので、お客さんの仕様どおりではなく、こちらから現場で最適な仕様を提案させてもらっています」
時には顧客の仕様にダメ出しすることもあると言う。そして、顧客が納得するまで繰り返し仕様を練り直す。
「オーダーメイドは仕様を詰める部分が一番重要です。お客さんの頭の中で装置が動き出すまで時間をかけて一緒に詰めていきます。これが仕事の9割で、残りは我々が装置を作って実現すればいいことです」
顧客とともに仕様を詰めていく進め方は、テープフィーダー開発の苦い体験が背景にある。
「独りよがりで装置を作ると、お客さんに喜んでもらえないので…」と照れくさそうに酒井社長は語った。
残る1割には、マイスのこだわりが詰まっている。特に現場での使い勝手を大切にし、標準動作を満足させるのは当然のこと、トラブルが発生することを前提として、ソフト上で例外処理対策を徹底している。そのウェイトは8割から9割にも達するという。だから装置は不具合なく稼働する。電源を落としてリセットするのはソフトの出来が良くないからと断言する。
装置の見た目や仕上がりの美しさにもこだわりが見られる。酒井社長は「見た目の美しさも精度であり、どれだけ気を遣って作業しているか、どれだけ商品管理をしているかが現れる」と語る。
現場での使い勝手を大切にするからこそ、マイスにはファンが生まれリピーターとなる。面倒見の良さも持ち味で、少ない人数でありながら、要請があれば昼夜を問わずどこにでも出向く。これも「現場のラインを止めたくない」とのこだわりであり思いやりでもある。
自社製品は起業の時からの夢
マイスは今、“面白いこと”にチャレンジしている。それは、第二弾となる自社製品開発である。
川崎市知的財産交流会を通じて、日産自動車から特許のライセンスを受けて、ボルトの自動定量供給装置「MiNK」(ミンク)をこの3月に完成させた。マイス(ねずみ)からミンクが生まれたのである。Mice、Nissan、Kawasakiの頭文字を取って酒井社長が命名した。「自社製品を持つことは起業の時からの夢でした」と酒井社長は開発の苦労を感じさせず満足そうに語った。そして、今回の取り組みを「顧客ニーズの大切さを学ぶいい経験でした」と振り返る。
MiNKは、日産自動車から改良と生産販売のニーズを受けて開発されたものである。今後は同社の国内生産ラインへの納品が予定されているほか、既に他の国内自動車メーカーやネジ商社からの受注も見込まれている。紆余曲折を経て、ようやく起業の時からの夢が実現した。それでも、「MiNKに続く製品を開発していきたい」と酒井社長は語る。面白いこと探しの旅はこれからも続きそうである。