株式会社エリントシステム

一社依存から提案型ビジネスへのシフト 見守りシステムによる「The Only One」の実現へ

エリントシステム 代表写真
代表取締役社長
松本 正己
事業内容 ソフトウェアテスト・開発関連
企業名 株式会社 エリントシステム
創業 1983年(昭和58年)5月
所在地 川崎市中原区新丸子東2-888 KTSビル2F
電話 044‐430‐5501
従業員 53名
代表 松本 正己(マツモト マサミ)
URL http://www.elintsystem.co.jp/

病院や介護施設では入院患者や入居者の転倒や体調不良などを素早く察知することが不可欠である。しかし、これらの職場は肉体的にも精神的にも重労働であり、人手不足が大きな問題となっている。そのため、見守りが行き届かず、時には事故の発見や対処が遅れることもある。こうした現場で役立つのが「見守りシステム」である。エリントシステムでは現在、シンプルで低コストでありながら、検知精度が極めて高い見守りシステムの開発にあたっている。本システムは、現場の労働環境の改善と労働力不足の解消、患者や入居者の安全、そして、同社の夢の実現に貢献するはずだ。

就任直後に訪れた危機

当社は、事務機器やコンシューマ製品に搭載されるソフトウェアの評価業務に特化した企業である。客先であるメーカーの製品開発に初期段階から参画し、目には見えないプログラム上のバグや障害を見つけ出し、その原因を分析の上で評価結果を提供する。メーカーはそれに基づいて障害対応を図り、製品の品質を向上させていくのが基本的な業務の流れである。
当社の設立は1983年5月、大手OA機器メーカーに出向していた先代社長が、その出向先から「会社を作ってうちの仕事をやらないか」と勧められたことが起業のきっかけである。以来、同社はそのメーカーを唯一の得意先とし、カメラやプリンタのファームウェア、ドライバ、アプリケーション等の評価業務を請け負ってきた。売上比率の100%を一社に依存するリスクの高い顧客構成だが、得意先が好不況の波に影響されにくい体質であったため、円高やバブル崩壊の影響をほとんど受けなかったと言う。しかし、リーマンショックは別だった。
2代目にあたる松本現社長が代表取締役に就任したのは、2007年7月である。その翌年の8月、米国のある投資銀行が破綻したことに端を発する世界的金融危機、いわゆるリーマンショックが発生した。このとき川崎では2010年までの約2年間で、全製造業事業所の17%にあたる、約300社(従業員数4名以上の事業所)が廃業に追い込まれる危機的な事態となった。同社唯一の得意先もこの時は例外ではなかった。不況の煽りで事業が縮小され、当社への発注も大幅に削減された。そして、設立以来初めてとなる大赤字を生んでしまった。

経営指針に基づいた事業展開

「設立からこれまで、安定した注文がありましたし、得意先とは二人三脚体制で開発に取り組んできたので、これからも何とかなるだろうと、当時は高をくくっていたのかも知れません。しかし、開発費が大幅に削減されてしまったことで当社への発注も売上も大幅に落込み、大きな赤字を生んでしまいました。」と当時を振り返る。一社依存の怖さと危うさを痛感した松本社長は、大赤字をきっかけに経営改革に乗り出す。始めに着手したのが経営指針作りだった。そのために松本社長は、知人に紹介された「神奈川県中小企業家同友会」に入会した。
「同友会とは、中小企業の経営者同士の学びの場です。当社が所属する川崎支部では、毎月勉強会を開催し、さらに毎回いずれかの会社が経営指針を発表することになっていて、メンバー同士でその指針をブラッシュアップしています。当社も先輩メンバーから多くの助言をいただきながら、経営指針を作成することができました。当時の当社にとっての一番の課題は、一社依存体制から抜け出すことでしたが、理念や方針と言った概念的な事柄だけでなく、課題を解決するための具体的な手段まで突き詰めて検討することができました。その後は指針に沿って、営業活動の強化や取引条件の見直しなどで立て直しを図り、得意先も増えたことで、かつて100%だった得意先の比率は、中期目標値の60%を達成しました。そして現在では、もう一つの目標として掲げていた、オンリーワンの自社製品開発にも取り組んでいます。」
自社製品開発は、指針作りを始めた時からの夢だったと松本社長は言う。それは、一社依存体制からの脱却と合わせて、経営の安定化を図る上で必須の取組みと考えていたようだ。同社の今期の経営指針の事業戦略の一つに「The Only Oneの実現」とある。これは、本業の強化と開発体制の拡充を図りつつ、独自の自社製品による事業化を推進するキーワードである。
その独自の自社製品とは、病院や介護施設向けの「見守りシステム」である。

大企業の特許を活用した「見守りシステム」の製品化

「見守りシステム」とは、最新の映像・行動解析技術により、医療や介護施設における入院患者等の状態を常時高精度に検知し、就寝中、起床(起き上り)、離床(ベッドから立ち去り)、激しい動き(発作など)、ベッドからの転落、転倒といった患者の状態や行動を、ナースコールシステムを通じて看護・介護者へ通知するシステムである。
これらの施設では全国的に、看護・介護職員の人手不足が問題となっているが、その背景の一つには、夜勤・交代制勤務など厳しい勤務環境がある。本システムは、現場で働く職員の労力軽減と人手不足の解消、さらにベッド周りでの転倒・転落の予防、認知症患者の徘徊予知に貢献する。
システムの鍵を握る要素技術には、電子カルテのトップメーカーの富士通が開発した「行動検知技術」を採用している。富士通が数億円の費用と長期にわたる労力を投じて開発した技術だ。川崎市知的財産交流事業を通じて、富士通から特許の実施許諾を受けることができた。本技術をシステムに組み込むことで、従来の見守り製品の課題であった、設置の煩わしさ、誤検知による誤報と未報、耐久性、コスト等の課題を解決することができる。松本社長に今後の計画について伺った。
「今年の8月までに試作機を完成させ、9月からは病院や介護施設で試作機による実証試験を始めたいと考えています。計画が順調に進んだ場合ですが、来年の1月からの販売が目標です」“順調に進んだ場合”との条件付きではあるが、経営指針を初めて作成した時からの夢が間もなく実現しようとしている。
しかし、中小企業が自社製品の事業化を成功させるのは簡単ではない。最も課題となるのが販路開拓である。多くの場合、営業やサポート体制を持っていないからだ。そのため、力のある販売パートナーとの連携は必須である。販路開拓についても話を伺った。
「販売やサポートは、ナースコールメーカーとの連携を予定しています。まだ試作機も完成していない段階ですが、既に国内トップシェアのメーカーさんと話し合いを持っていて、販路開拓だけではなく、試作開発や製品展示にもご協力いただけることになっています。メーカーさんからは早期の製品化を期待されています。」と抜かりない。
当社は、大赤字をきっかけに経営指針作りに取り組み、その指針に沿って着実に成長してきた。医療や介護の現場の労働環境の改善、労働力不足の解消、患者や入居者の安全、そして、指針に沿った同社の夢の実現のためにも、見守りシステムの早期の製品化を期待したい。

川崎市産業振興会館
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