株式会社 クリエイティブテクノロジー

創造する文化が生み出した静電気技術でひきつける

クリエイティブテクノロジー 代表写真
代表取締役
辰己 良昭
事業内容 半導体製造装置機器の開発・設計・製作・販売 他
企業名 株式会社 クリエイティブテクノロジー
創業 1985年(昭和60年)7月
所在地 川崎市高津区上作延507-1
電話 044‐870‐1335
従業員 80名
代表 辰己 良昭(タツミ ヨシアキ)
URL http://www.createch.co.jp/

スマートフォンの液晶画面のガラス貼合せ工程等で欠かせないキーパーツとなっているのが、ガラス等の薄板を静電気の力で把持/開放する静電チャックである。その世界的メーカーである株式会社クリエイティブテクノロジーを率いる辰己良昭氏に“静電”というイメージとは対極にあるエネルギッシュな語り口で同社の経営を語っていただいた。

セラミックスを削る匠の技で静電チャックを形にした

同社は、1985年に株式会社創造科学という社名を冠して、大手工具メーカーの下請けとして、超硬材などの難削材の切削加工を主要業務として川崎区小田で設立された。程なくして、その加工技術が評価され、セラミックスの加工を手掛けるようになった。当時の工業技術院が進めた省エネルギー技術開発の「ムーンライト計画」の一環で、自動車用エンジンのセラミックス部品を形にした。しかし、自動車部品にしては高価過ぎたため事業化できずに、当時伸長著しかった半導体分野で製造装置の部品として応用を進めていった。それが奏功し、1990年以降の半導体産業の成長につられるように、同社の売上も倍々ゲームで伸びていった。
こうして半導体製造装置の部品加工会社として業界にも名が知られるようになった頃、ある大手メーカーから「静電チャックを修理再生してほしい」という相談があった。静電チャックとは、静電気の力で半導体のウェハー等の薄板状の部品を把持して、傷をつけずに搬送する大型の円形セラミックス部品である。その製造工程では、内部に電極や(電気を通さない樹脂等の)誘電体層、冷却部品などを組み込む必要があり、構造が複雑であったため再生はできないと言われてきた。しかし、同社は自社で培ってきた職人芸で果敢に取り組み、世界で初めて再生に成功した。そうすると静電チャックの製造もできるようになり、1995年から本格量産を開始すると、組み合わせた装置本体に搭載した部品の売上も増大した。

町工場の社員から会社を引き継ぎ、半導体装置部品メーカーへと成長させた

そんな同社の成長を支えてきたのが、辰己氏である。同氏の実家は、大阪で機械加工の工場を営んでおり、幼少の頃から工作機械には慣れ親しんでいた。新卒で大手工作機械メーカーに入社すると、セラミックスを砥石で削る研究のプロジェクトを担当する。そのプロジェクトのメンバーのうちの1社が創造科学であった。辰己氏には、網目状の柔らかい構造を持つ砥石で硬いセラミックスを削っていく創造科学の技術と発想が衝撃的であった。縁あって、辰己氏は25歳の時に同社へ転じる。転職と言えば聞こえは良いが、当時の創造科学は3名の会社で、給料水準も前職と比べて十分とは言えなかった。しかし、仕事面では、発想力が鍛えられるものが多く、辰己氏にとっては充実した毎日であった。
1997年に転機が訪れる。健康上の理由で当時の経営者が降りることとなり、会社解散の話が持ち上がった。当時課長であった辰己氏は、その数年前に同期であり友人でもある現副社長を大阪から勧誘したこともあり、「ここで辞めるとみんなに悪い」と思い、社長を引き継ぐ。辰己氏は、当時を振り返り「副社長とじゃんけんをして負けたので、社長になってしまっただけです」とうそぶくが、実際は多額の負債を背負っての困難なスタートであった。
職人集団であった会社は、技術はあったものの開発にどっぷり浸かってしまう面もあった。辰己氏は、「早く欲しい」という伸び行く半導体業界のニーズに対応すべく体育会式の号令をかけて、まさに「走りながら考える」ように開発し、顧客要望に応える会社に変えていった。単価が安いため、競合が手を出しにくかった樹脂製のチャックも自社開発して、他の工程に応用することで売上高を押し上げた。
創業時は3名だった会社も2000年には15名を抱えるまでになっていた。そして同年、株式会社クリエイティブテクノロジーと社名を改めた。自社製品事業では、静電チャックの他に、半導体製造工程で使うシート状のヒーター、静電気応用センサ、静電気用電源など多数の製品を生み出している。また、受託加工事業では、協力会社と連携しながら、半導体分野で求められる多種多様な材料の高精度形状加工、表面処理、接合などに多様な加工に対応して、半導体分野で確固たるポジションを築いている。

柔軟性の高いマネジメントで新分野進出と働く環境の多様性を実現

2000年以降も売上は伸び、海外子会社も設立した。また、国内の従業員も80名となった。今後について、「高電圧を使った静電気応用技術をコアにして進めることに変わりはない」と辰己氏は語る。同社では、中長期の経営計画を定めて予算配分している。
主力分野の半導体関係では、供給責任に応えるべく、拠点や人材のリスク分散を着々と実行に移している。きっかけは世界的大手メーカーが2005年に監査に来たことである。会社の技術や品質等は高い評価を受けたが、「社長に依存し過ぎている」と問題点を指摘された。そこから次世代の人材に権限委譲を進めた。「リスクをとって失敗して良い」とチャレンジを促すメッセージを辰己氏は常に発している。また、中国の上海工場、日本国内の川崎、宮崎、京都の4拠点制で天災などにもサプライチェーンを分断させないようにしている。
一方で、半導体以外の事業の柱についても模索している。樹脂製の静電チャックが産業用ロボットアームに採用されるなど産業分野には広がりを見せていたが、リーマンショックの経営への打撃は大きかった。そこから挽回して足元が良くなっている今だからこそ、民生品分野などで新しい製品を生み出すべく、プロジェクトを組成して商品開発に取り組んでいる。
2017年に発売開始した製品に、静電気による吸着技術を活用した事務用掲示板『ESCLIP(R)』(エスクリップ)がある。オフィスでの行動予定などを貼りつけて情報共有する利用シーンを想定している。静電チャックの技術を基に開発し、画鋲やテープを使わずに静電気で紙などを貼ったり剥がしたりすることができ、掲示物にダメージを与えることがないというメリットがある。同社にとって初の民生品で、今までと勝手の異なるマーケティングにもチャレンジしている。また、次なる開発品として、静電気式空気清浄機をドローンに搭載した『Flying Magic Cleaner』がある。ドローンのプロペラで空気の循環をしながら、空気中の埃などを集塵するのが特徴である。欧米の展示会に出したところ、先進性を評価した現地のプレスなどがこぞって採り上げてくれた。
これらの業務の広がりにつれて、人材の多様性も増している。近年は新卒者も増え、会社の雰囲気も変わってきた。現場に合わせて柔軟に考えを変える辰己氏は、従来の体育会式から社員がライフスタイルに合わせて仕事を取り組めるオフィスへと環境を整えた。研究者の7割が女性となり、育児休暇後に復帰する社員も増えている。同社は、モノを『ひきつける』技術で成長してきたが、優秀なヒトもひきつけて次のステージへ向かっていく。

 

※参考:事務用掲示板『ESCLIP(R)』  商標登録第5922641号(標準文字)、商標登録第5896797号(ロゴ)

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