有限会社 ねこのしっぽ

高度な印刷技術で同人誌文化を支え、漫画、アニメを通じた地域活性化に寄与する

ねこのしっぽ 代表写真
代表取締役
内田 朋紀
事業内容 同人誌・自費出版・チラシ等の印刷業
企業名 有限会社 ねこのしっぽ
創業 1997年(平成9年)6月
所在地 川崎市中原区上丸子八幡町 1466
電話 044‐430‐3767
従業員 58名
代表 内田 朋紀(ウチダ トモキ)
URL http://www.shippo.co.jp/neko/

神奈川県内で唯一の同人誌印刷会社である有限会社ねこのしっぽ(川崎市中原区)。漫画、アニメ等の同人誌業界では全国的な知名度を持ち、社長をはじめ社員の多くが同人サークル出身者という極めてユニークな印刷会社である。後発ながらデータ原稿の印刷システムをいち早く導入し、最新の印刷技術と同人誌を熟知した社員のユーザー目線の対応とが相まって年間8,000人を超す顧客から熱のこもった原稿が持ち込まれている。また、地域の各種イベント支援に積極的で、自らオリジナルキャラクターを企画するなど印刷業の枠を超えた活動でも異彩を放つ。「同人誌文化を守り、漫画やアニメを通じて地元、川崎にも貢献していきたい」と、サブカルチャーの視点から地域活性化を模索する。

同人誌作家のシビアな評価で磨かれた印刷技術

同人誌は漫画、アニメ、文芸などで同じ趣味を持つ人たちが共同で作成する自費出版物である。一般書店への流通がないため通常の販売は同人誌即売会などで行われることが多く、有名なイベントとしては東京ビッグサイトで開催し、毎回数十万人の来場者であふれるコミックマーケット(コミケ)がある。販売される同人誌はコピーを綴じた簡易なものから高級紙を使い華美な装丁を施した豪華本まで様々。それぞれ作り手の個性、思入いれが強い作品が多く、出版社を通した一般的な著作物では満足できない根強いファンは少なくない。一度のイベントで数千部を完売する人気作家も存在する世界だ。
当社はこうしたイベントで販売される同人誌の印刷、製本を主力に成長してきた。1997年に内田社長と荒巻喜光専務の2人で中原区の10坪(33㎡)の店舗で立ち上げた。同地に本社と受付事務所を持ち、高津区下野毛の玉川工場に印刷機、製版機、PP加工機、製本機などを揃える。「こだわりを持つ同人誌のお客さんの目は厳しく、それに応えるための技術力向上と設備投資を行ってきた。」と語る。
「当社が印刷会社としては後進ながら成長できたのは第一に印刷業界にデジタル化の波が押し寄せたタイミングと参入時期が重なったことが大きかった。」と振り返る。

業界に先駆けてデジタル印刷を導入

もともと当社を立ち上げるきっかけとなったのは「川崎市で個人の印刷物を引き受けてもらえる印刷会社に出会えなかった」ためである。
当時の印刷会社は企業間の取引が主流で一般の人には敷居が高かった。同人誌仲間だった内田社長と荒巻専務は「だったら自分たちで印刷会社をつくろう」との思いが一致し、東京、横浜への利便性の良い川崎市中原区に店舗を置くことを決めた。また、内田社長には勝算もあった。実家がコンビニエンスストアを経営していてコピー機の利用者が意外と多いことに気が付いていた。従来の印刷会社が引き受けない個人顧客、少部数の印刷需要は確実にあると踏んでいた。
創業当初はコピー機とリソグラフ(孔版印刷)を置き、名刺やチラシの印刷からスタートした。そうした中で出合ったのが、データ原稿に対応した製版機(CTP)であった。パソコンから直接データを流し、出力できる製版機が登場。当社は1999年に業界に先駆けてシルバーマスターデジプレート製版機(CTP)を導入した。印刷用のデジタルデータをパソコンから刷版に直接焼き付けられるため、フィルムなどの経費削減や工程短縮による納期の短期化、細かい網点の再現度が増し品質が飛躍的に向上するなど、ゼロからスタートした当社にとっては絶好の追い風となった。
ただ、導入に向けては銀行の融資がなかなか受けられずに苦労したという。「印刷機がなければ仕事が受けられず、仕事がないから融資も得られない」。資金繰りが厳しい時期が続いたが、やがて、銀行からの融資もまとまり、CTPが導入されてからは一気に軌道に乗り始めた。
当初は、地元の女子高生のオリジナル便箋を印刷したりしていたが、同人誌のイベント会場でPRを重ねるうちに口コミで広がり、同人誌の注文が倍々で増えるようになった。

経験者ならではの顧客対応

「ねこのしっぽに行けば相談に乗ってもらえる」全国の同人誌に携わる人々の間でこうした声が口コミで広がり始めた。当社の最大の強みは同人誌を熟知している点だ。創業者である内田社長、荒巻専務をはじめ社員全員が漫画、アニメ好きで、同社の顧客だったことから入社した社員も少なくない。そのため、単に原稿の印刷を受けるだけでなく、顧客の要求を同じ目線でくみ取り、紙の選定や装丁などの相談にも自然に応じられることが、ほかの印刷会社と大きく異なる。初心者には漫画、イラストの描き方や冊子の作り方をレクチャーし、同人誌の扉を開く手助けにも力を入れている。「ネットワーク化が進みオンライン入稿というケースが増えてきましたが、直に印刷所で話を聞いて検討したいというお客さんも少なくありません。事務所に受付を置いているのもそうした理由からで、気楽に遊びに来てもらえる会社でありたいと思っています。」

Japan Color 標準印刷認証を取得

同人誌印刷業界では初となる、「JapanColor標準印刷認証」を2012年に取得した。同認証はISO国際標準に準拠したもので、オフセット印刷における「色の基準」を忠実に再現できる一流の印刷会社としてのお墨付きである。取得しているのは大手印刷所ばかり。「有限会社で社員数100人以下の中小企業で取得しているのはめずらしく、川崎市では現在も当社のみです。」
大手OAメーカーと印刷機の共同開発に参画し、当社のコンセプトを活かしたオンデマンド印刷機が市場に投入されるなど、既に実力は高く評価されていたが、認証取得によって公的にも認められ、さらに仕事の幅も広がりつつある。
例えば、パソコンでイラストを描くタブレットペンのチュートリアル本の印刷や最近では高級外車のパンフレットを手掛けるなど同人誌以外のお客様からの仕事の依頼も増えてきている。さらに今後は紙以外の印刷(アクリル、布製品)にも挑戦していく考えだ。
「現在、売上高の9割が同人誌ですが、それにとらわれずに分野は広げていきたいと考えています。既に地元の小学校の会報やマンションの管理組合の報告書、神社のお祭りの告知ポスター、選挙ポスターなども受けています。必要とされるならどんな仕事でも相談に乗る。これが当社の創業からのポリシーです。」と同人誌を柱に仕事の幅を広げつつも、頼れる地域の印刷屋としての顔も大切にしたいと強調する。

同人誌文化の発展と漫画、アニメを通じた地域貢献

そうした当社の姿勢が伺える取組みの一つが自社のフェスティバルの開催や各種イベントへの参加、支援である。最近では、内田社長が企画を手掛けたキャラクター「カワサキまるこ」が地元J1チームの川崎フロンターレの公認キャラクターとなり、同チームのイベントなどで活躍している。
内田社長は「同人誌だけでなく、漫画やアニメの文化を川崎からも発信していきたい。地域全体のイベントなどを通じて盛り上げていければ」と文化的な側面からの川崎ブランドを提案する。今後は地元の中高生らが漫画を通じた交流を目的としたイベントも検討しており、地域に根差した文化の発信を目指していく。

川崎市産業振興会館
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