株式会社 ニコ・ドライブ

手で踏めるアクセル・ブレーキを主力商品に移動格差の解消に貢献する商品開発に挑む

ニコドライブ 代表写真
代表取締役 神村 浩平
事業内容 バリアフリー運転装置の開発・製造・販売
企業名 株式会社 ニコ・ドライブ
創業 2013年(平成25年)10月
所在地 川崎市高津区坂戸3‐2‐1 KSP西棟4階 NEO G3
電話 044‐712‐7025
従業員 5名
代表 神村 浩平(ジンムラ コウヘイ)
URL http://nikodrive.jp/

手で踏めるアクセル・ブレーキ『ハンドコントロール』を主力に事業展開する株式会社ニコ・ドライブは、交通事故で下肢に障害を持つ神村社長が、自らの体験を活かして2013年に創業した。足が不自由な方をはじめ、自動車販売店、レンタカー会社、自動車教習所などへ製品の普及を図ってきた。最近はリハビリ病院やインターネットを活用した個人への情報発信を強化し、経営は軌道に乗りつつある。「企業理念である『移動格差の解消』を目指し、新たな商品開発にも取組み、事業の幅を広げていきたい」と、好調をバネに次のステージも見据えている。

取り付けやすさとこれまでにない低価格が、車いすユーザーから高い評価を得る

自動車を運転する際にブレーキやアクセルを手で操作できる手動運転装置は足の不自由な方々の運転には欠かせない製品だが、従来製品では車を改造する必要があり、費用は数十万円にも上り誰もが手軽に使える製品ではなかった。
当社が販売する『ハンドコントロール』は押すとブレーキ、引くとアクセルとなり、操作はいたって簡単。改造が不要でほとんどの車に容易に取り付けられ、価格は10万円と数分の一で済む。本体は900グラムと軽量で折り畳み式なのでバックに入れて持ち運べる。製品評価については世界で最も厳しいオーストラリアの安全基準を採用していることも利用者には心強い。
神村社長は「車いすの利用者にとって自動車は重要な移動手段。それなのに利用するには改造費などの費用がかさみ、専用の車を置く教習所も少ない。障害者にとっての自動車利用の敷居は高く、誰もが使えるレベルに下げることが創業の目的だった」と起業の背景を説明する。2013年に発売以来、累計で約550台を販売(2018年2月現在)。ネットなどを通じて「こういう商品が欲しかった」という声が各地から寄せられ、さらなる利用拡大に意欲を見せる。

自らの体験を活かし、大手自動車メーカーのエンジニアと2人で創業する

神村社長は16歳の時に交通事故で脊髄を損傷。以来、車いす生活となった。障がい者の職業訓練校を卒業後、大手半導体メーカーに就職。米国留学などを経て外資系金融機関に転職したが、配属されるのは管理部門ばかり。希望の営業職には就かせてもらえなかった。そんな時に出会ったのが起業のきっかけとなったインターネットのブログだった。大手自動車メーカーのエンジニアだった荒木正文氏が『ハンドコントロール』の原型となる模型を掲載していた。車いすで作業している同僚が、改造費が高くて自社の自動車に乗ることができず、これを解決するために考案したものだった。当時、会社を辞めて悩んでいた神村社長は製品を見て「これを広めることに自分の人生を使いたい」と、荒木氏と連絡をとり、「ぜひ自分に売らせてほしい」と思いを伝えた。2013年には2人で「ハンドコントロール」の事業化に乗り出した。
しかし、翌年の2014年9月に荒木氏が死去。突然パートナーを失った神村氏だったが、荒木氏の遺志を継ごうと2015年2月に法人化。「株式会社ニコ・ドライブ」を友人らと設立し、本格的な事業展開に乗り出した。2016年には神村社長の自宅近くのかながわサイエンスパーク(KSP、川崎市高津区)に本社を置き、本格的な事業展開に着手した。
川崎市産業振興財団が主催する第100回かわさき起業家オーデションにもエントリーし、「かわさき起業家優秀賞」をはじめ8つの賞を受賞するなど、ビジネスとしての評価も得られた。

見えないバリアが、普及に立ちはだかる

製品には自信があり、ネットを通じて販売してきた実績や車いすユーザーにも評判が良い。これに自動車関連企業と協業できれば一気に普及すると思われた。しかし、満を持して営業活動を始めた神村社長は思わぬ逆風に見舞われる。
販売の対象としたのは自動車販売ディーラー、レンタカー、自動車教習所であり、当然の利用拡大を兼ねて受け入れてもらえると考えていたが、「足が不自由な方々が利用するマーケットは約30万人しかなく、そのための投資は難しいのが実情で、この見通しは全く違っていた」とのこと。趣旨を理解してもらいパートナー契約を結んだ企業も出てきたが、予想外の苦戦を強いられた。「当初は自分たちの気持ちが先行し、売れるところでなく、売りたいところにだけ目が行っていた。むしろ最初に取組んだ個人ユーザーを対象とした通販の方が展開としては向いているのではないかと、頭を切り替えるのに苦労した」。
こうした反省を踏まえ、神村社長は即座に 営業戦略の見直しに着手。BtoBの営業も進める一方で、当事者への浸透を図るためにリハビリ病院への提案活動も開始した。「患者さんは半年程度で社会に復帰するため、これまで乗っていた自家用車にもすぐに使える当社の『ハンドコントロール』が適している。実際にデモを行ってみるとすごく反応が良く、かなりの患者さんに購入いただいた。病院の方々もとても熱心で、時間外に補助具等の研究を行う文化が根付いていて、我々にとっても得るところが大きい」と、ニッチな市場ながらも手ごたえを感じ始めている。

消臭グッズなどの新製品開発を進め、幅広い角度から格差解消に挑んでいく

業績は2016年の後半からネット通販を中心に伸び始め、2020年の東京パラリンピックを背景にBtoB向けの需要も増加してきた。2018年は現状で400台以上の販売を見込んでいるが、ここにきて当社は大きな転機に迫られている。その原因は自動走行の実用化
だ。起業した5年前には夢の技術だった自動運転が人工知能(AI)の急激な進化で、身近なものとして迫ってきた。
そうした中、一つの方向性として進めているのが、疾病などで歩行や運転に支障をきたしている方向けの製品開発だ。現在、左足だけで作動できるアクセル・ブレーキの製品化に取り組み、2018年内に発売を予定している。近年増加している脳卒中で、左脳に障害が残った場合、右半身が不自由になるため、運転するには左手でハンドルを持ち、左足でアクセルとブレーキを操作しなければならない。そこに着目した製品だ。
「実際にはこれも自動走行では不要になるかも知れないが、対象は広げていきたいと考えている。障害者だけでなく、高齢者や妊婦など補助を必要とする方々に使ってもらえる製品づくりにもシフトしていきたい」との考えだ。
また、その観点から取組んでいるのが消臭グッズの開発だ。「排泄物の処理に困る障害者にとって臭いはとても気になる。商品化を進めている消臭剤は臭いの元となる菌を分解する機能を持ち、アンモニア臭などは瞬時に消すことができる。直接的に自動車とは関連しないが『移動格差を解消する』するための商品としてコンセプトは同じ」と新たな展開への可能性を示唆する。
今後、こうした製品開発を進める一方で、ネット通販による事業戦略を強化し、マーケティングの精度を上げて効果的な販売を展開していく考えである。神村社長は、「『移動格差の解消』には障害者の所得向上も重要と考えている。ハンドコントロールの組み立ては障害者の就労施設に委託しながら貢献している。今後、当社でも積極的に雇用し、就労機会を広げる取組みにもつなげていきたい」と、幅広い角度から格差解消に挑んでいく。

川崎市産業振興会館
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