株式会社 リープ

出来たてのクラフトビールを”週末だけ”楽しめる店 ビール醸造所「T.T BREWERY中島工場」

リープ 代表写真
代表取締役 寺田 哲也
事業内容 飲食業、クラフトビール製造・販売
企業名 株式会社 リープ
創業 1995(平成7)年7月
所在地 川崎市川崎区東田町2‐10
電話 044‐201‐4282
従業員 76名(パートタイム含む)
代表 寺田 哲也(テラダ テツヤ)
URL http://leap.co.jp/index.html

「クラフトビール」とは、小規模なビール醸造所でビール職人が「手工芸品(Craft)」のように、丹精込めて造り出したビールのことを言う。日本ではかつて、いわゆる“地ビールブーム”が押し寄せ、全国各地にビール醸造所が誕生した。しかし、当時は醸造技術が未熟なところも多く、「値段が高い割に味は…」とやがてブームも過ぎ去ってしまった。そんな地ビールとは一線を画す、職人のこだわりとプライドが詰まった高品質なビール、それがクラフトビールである。

「自分でビールを造ってみないか」

T.TBREWERY(ティーティーブリュワリー)中島工場は、川崎駅周辺で7つの飲食店を運営する「株式会社リープ」が2015年5月に設立したクラフトビール醸造所である。同社がビール造りを始めたのは、2年前、寺田社長が市内最老舗のクラフトビールメーカー「ムーンライト」を経営する山中氏との出会いに端を発する。
寺田社長は当時、競合ひしめく川崎の店舗環境にあって、他店と差別化を図るために、オリジナルのアルコール飲料をメニュー化したいと考えていた。そんな折、川崎市の職員から「ムーンライト」を紹介され、オリジナルビールの製造と供給を山中氏に相談したところ、思いがけず「自分でビールを造ってみないか」と言われ、その場で「やります」と即答した。
「元々、自分でビールを造ることは考えてなかったのですが、山中さんの話を伺って“やりたい”と思い即決しました。それがどれだけ大変なのか、どれだけお金が必要なのかも分かりませんでしたが、何事もやってから考えるタイプなので」と寺田社長は笑いながら当時を振り返る。
それからはムーンライトの山中氏を師と仰ぎ、約1年間にわたってクラフトビール作りを学び、醸造所の開業に必要な酒税免許も取得した。また、ビール製造に欠かせない、麦芽から麦汁までを仕込む煮沸釜、麦汁を酵母の働きでアルコールと炭酸ガスに分解する発酵タンク、それを貯蔵して味を調える熟成タンクなどの設備も導入した。煮沸釜はチェコ共和国の醸造所で使用されていた、木製の味わいのある釜が使用されており、工場を構える中島の商店街の通りからも、ガラス越しにその雄姿を眺めることができる。

リープ 煮沸窯写真 リープ 熟成タンク写真

写真:チェコ製の煮沸釜(左)と熟成タンク(右)

営業は週末だけ、ビールのつまみは自前制

T.T BREWERY中島工場で作られたクラフトビールは、同社運営の飲食店で楽しむことができるほか、工場内に15席ほどの小さな店舗を併設し、出来たてのビールを提供している。ただし、工場で飲めるのは週末の金曜日と土曜日の2日間だけで、日曜日から木曜日までは閉店している。さらに、週末の開店時であってもビールのつまみは自前制で、調理用のキッチンも存在していない。店頭ボードには「ご近所のお総菜、出前など持込みいただけます」と書かれている。そんな飲食店はこれまで聞いたことが無い。一風変わった営業スタイルの理由を寺田社長に伺った。
「営業が週末に限られるのは、毎週月曜日と木曜日の週2回、客席も使ってビールの仕込みを行っているためです。その前後の釜やホースの消毒作業にも時間がかかります。できれば営業日を増やして地元の方にビールを飲んでいただきたいのですが…」と申し訳なさそうに語った。
考えてみれば、工場でありながら、わざわざ客席を設けて、週末だけでも無理をして、出来たてのビールを提供してくれていること自体が、ありがたいことである。つまみの自前制については、「シャッター街化している川崎の商店街を活性化したいとの思いから、この中島商店街に醸造所を作ることにしました。持込みを可能としているのは、近所のお店の総菜や出前を注文してもらって、店に人が集まることで、街に元気を取り戻したいと考えているからです」との由。
寺田社長は横浜市鶴見区生まれだが、熱烈な川崎LOVEの一人である。「川崎の人は地元愛の強い人が多く、自分も幼いころから買い物や遊びは川崎駅周辺だったので、川崎には深い愛着を持っています」と独特の営業スタイルの背景を語った。しかし、「店内への納豆の持込みだけは勘弁して欲しい」と続いた。なんでも、納豆菌は生命力と増殖力が強く、仕込み中の釜に僅かでも菌が入ると、納豆臭いビールが出来上がってしまうとか。ビールは繊細な飲み物である。

こだわりのクラフトビールを飲む

これまで造られたクラフトビールの種類は40種類。中島工場と「T.T BREWERY川崎チネチッタ通り店」では、常時7種類のビールを週替わりで楽しむことができる。寺田社長に今週出されているビールの特徴を訪ねると、グラスにビール注いで試飲を勧めてくれた。
始めに出された「リッチモルト」は、麦芽の量を多めにして作られた、日本で最もポピュラーな黄金色のピルスナービールである。「和食に合うように全力で日本のビールに近づけた」と寺田社長が言うとおり、見た目も味も普段飲みなれているそれに近い爽快な味わいであった。続く「ウィート」は、小麦を主体に作られたヴァイツェンビールで、濁りがあってバナナのようなフルーティな香りが特徴的である。
「アジアン料理にお勧めしたい」とのことだが、ビールの苦みが不得手という人にもお勧めしたい。「ブラウンエール」はイギリスで最も人気のある濃褐色のビールである。「長期熟成でボディをしっかりさせたので、肉やチーズにも負けない」との言葉どおり、どっしりとした濃厚な味わいだった。他にも数種試飲させていただいたが、いずれも旨く個性の中に麦芽の旨みとホップの香りが引き立つビールらしいビールだった。
筆者の個人的な好みになるが、美味しいビールとは、最初の一杯だけではなく、何杯飲んでも、2軒3軒と“飲んだ後”に飲んでも、美味しく味わえるのが本当に美味しいビールである。果たして、T.T BREWERYのビールは、飲んだ後にも美味しいだろうか。そのことを確かめるため我々取材班は後日、土曜の昼間から十分に下地を作り、千鳥足で開店直後の中島工場を訪れた。そして、数種のクラフトビールを味わうことで確信した。T.T BREWERYのビールは、何杯飲んでも何杯目に飲んでも新鮮で美味しい、真のクラフトビールであることを。

川崎市産業振興会館
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