株式会社 アイム

発達障害児の未来モデルを作る

代表取締役 佐藤 典雅
事業内容 放課後等デイサービス、グループホーム、生活介護事業所の運営、日中一時支援
企業名 株式会社 アイム
創業 2014年(平成26年)12月
所在地 川崎市宮前区土橋一丁目13番1号   富樫ビル201号室
電話 044-863-9029
従業員 80名
代表 佐藤 典雅(サトウ ノリマサ)
URL https://imhappy.jp/

鮮やかな色遣いで、かわいらしい動物の絵を描くアーティストGAKUさん。一昨年ニューヨークで個展を開いて以降、海外の有名なバッグのブランドとのコラボや、大きなキャンバスに描いた作品が有名ファッションブランドに数百万円で買われたといった話をもつ、現在注目のアーティストだ。今年21歳になるGAKUさんだが、実は重度の自閉症をもつ。そんな彼が中学生の頃から過ごしたのが、父である佐藤代表が始めた放課後デイサービスである。Yahoo!JAPANのマーケッターや東京ガールズコレクションのプロデューサーなど華やかなビジネスの現場に立っていた佐藤代表が始めたユニークな福祉事業のお話を伺った。

様々なユニークな取組

市内4区に放課後デイなどを運営する当社。当社は、発達障がい児支援で一般的に行われる療育(治療教育)をやらないことで知られており、従来の福祉事業所とは異なった運営していることが特徴である。教室は元々古い住宅だった場所を壁をぶち抜いたりして使いつつも、あちこちの壁には一面青や黄色の原色に塗られており、キレイな照明がいくつも天井からぶらさがっているといった雰囲気だ。また、特徴的なのが、従来ではNGとされる児童の“顔出し”については、敢えて顔を出したYouTube制作やブログ、パンフレット作り等をしている。

さらに、当社にいる80人程のスタッフの半数が、利用児童の保護者である。発達障がい児童の真の専門家はその児童の保護者であるという佐藤代表の考えから、保護者をスタッフとしてスカウトもしているという。子供はマニュアル管理するものではないという当社方針の下、いかに利用者や保護者家族が「楽しい」と感じ、その様子を動画等で観る側が「楽しそう」と思えるかを基に、スタッフ達自らが考えたサービスを行っている。

そんな当社の設立の経緯は、やはりGAKUさんとは切り離せない。GAKUさんが3歳児検診で、自閉症とわかってから、療育の先端といわれるアメリカへ一家で移住し療育の体験をした。家族で9年間を過ごした後日本へ帰国してから、GAKUさんの受け皿となる場所として、自ら放課後デイサービス等を2015年に作ったことから始まる。

枠に嵌めない、障がい児に合わせた環境

2015年から「かながわ福祉サービス大賞・特別賞」を4年連続受賞して以来、様々な人の見学や問い合わせが多くなり、現在4か所の放課後デイ以外にも2017年、2018年と発達障がい者向けグループホーム、生活介護事業を始めている。

一般的には利用者は18歳を過ぎると、そのまま就労継続支援B型事業所と進むケースが多い。ただし、既存の就労支援では単調な作業や多くの細かな規則があり、ある程度スキルのあってメンタルの強い人でないと続かず、引きこもってしまう。これは当社のグループでも同じ状況であったため、まずは気に病まない場所を障がい児に提供することが必要だ、として始めたのが生活介護事業である。

就労継続支援B型事業所と生活介護事業所との差は、工賃が出るか出ないかの違いであるため、自主的に工賃を支払うことができれば大きな違いはないため、当社の生活介護事業所で商品開発に取り組み、就労支援を行っている。

また、18歳という一般社会であればまだ若く、発達障がい児であっても青春を愉しむこともして欲しいという佐藤代表の想いからの開設でもあるようだ。

これら当社全体の取組は、佐藤代表自身の発達障がい児童を育ててきた経験から、「発達障がい児を枠に嵌めるのではなく、環境の方から歩み寄っていけばよい」という考えによるものである。

これからの福祉業界における人材

「福祉にセンスを」という当社のコンセプトを基に、これまでの福祉事業所に佐藤代表が「殺伐・地味」等と感じてきたイメージを打破したことを行ってきた。そのため、当社事業所やスタッフには一般競争社会で通じるセンスを求めている。当社の「ダサい服装等禁止」や「表参道の美容室手当」といったことも、発達障がい児と接するスタッフやそのセンスが大事だからである。

そもそもこういったコンセプトの発端は、佐藤代表が従来の福祉事業所に一般競争社会とのズレを、従来福祉業界に携わる人材に感じたからだ。福祉業界の人材事情については、特に有資格者が売り手市場となっており、福祉業界のみで人材が動いていることが背景にあるからとも考えている。

けれども、施設の運営に必要な有資格者確保は当社にとっても課題であるようだ。なぜならば福祉事業では、認可事業である福祉事業では有資格者につき利用者の定員が定められているが、利用者数がそのまま売上となるからである。佐藤代表の話では、巷には人材会社等に多額の広告料や紹介料を支払って有資格者含め人材の確保に苦心している事業所が多く、そのために他の経費が削られて、利用する児童にしわ寄せが生じているという。

このような問題を解消するためには、行政のITの活用による有資格者のデータベース管理が必要ではないか。例えば、看護師が何かの理由で一度仕事を辞めた後、職場に復帰したいと思っていても、看護師しかなれないと考える人も多い。そういった有資格者を眠らせないような仕組みが必要だという。また、同じ業界の中で転々とする人材も多いという状況下できちんとキャリアが社会的に共有できることも必要だと佐藤代表は話す。

一般社会での発達障がい児活躍モデルの追求

放課後デイや、グループホームや生活介護、さらには信託サービスも兼ねた親なきあとの相談センターも行う「アイム・パートナーズ」といった事業を次々に展開してきた当社。

当社は今後、公益性の高い福祉事業を行う当社の事業を、フランチャイズ化や株式上場などではなく、如何に将来にわたって継続させられるよう安定した事業形態とするかを考えているという。また、その過程で、発達障がい児達の一般の社会・ビジネスに通用するモデルも模索している。その足掛かりとなるのがGAKUさんだという。例えば、GAKUギャラリーのある高津周辺をGAKUブランドで発信した飲食店や小売店が並ぶGAKUストリートといったことを、クリエイティブチームを組んで仕掛けていきたい。「GAKU」が偶然にも才能を開花したアーティストであったとしても、福祉という業界から一般社会・経済においてどういったモデルを見出すことができるのかを追求していきたい、と語る。そんな当社の挑戦は、これからも「発達障がい児の幸せ」に常に向き合いながら続いていく。

自身のアトリエで作品を持つGAKUさん

川崎市産業振興会館
トップへ戻る