株式会社 スエヒロ(菓子匠末広庵)

森永製菓の特許技術と独自製法のアンサンブル 自慢の餅を川崎から世界へ


代表取締役会長 三藤 哲也
事業内容 菓子製造と販売
企業名 株式会社スエヒロ
創業 1952(昭和27)年9月
所在地 川崎市川崎区東田町3-16
電話 044-233-4658
従業員 90名
代表 三藤 慎也(ミトウ シンヤ)
URL https://www.suehiroan.co.jp/

和菓子でありながら、毎日食べ続けると体脂肪の低減が期待できるという“大福”が川崎から誕生した。しかも、食べることで子どもたちを笑顔にする、社会貢献活動にも参加できるという。そんなギルトフリーな大福の名称は「エンゼルのほっぺ」。川崎市を拠点に和菓子屋「菓子匠末広庵」を展開する株式会社スエヒロが開発した。

ネーミングの由来は、エンゼルのトレードマークでお馴染みの、森永製菓の特許技術を活用していること、そして、まるで赤ちゃんのほっぺのように柔らかい餅の食感から、「エンゼルのほっぺ」と名付けられている。

菓子匠末広庵

末広庵の創業は1952年9月、箱根駅伝ファンにはお馴染みの1区の見どころ、「六郷橋」を下った旧東海道川崎宿の東田町に「末広菓子舗」を開いたことに始まる。現在は「菓子匠末広庵」として創業の東田町の本店のほか、「ラゾーナ川崎プラザ店」、「マルイファミリー溝口店」、「宮前店」と川崎市内に4店舗、横浜市に「すみれが丘店」と「江田店」の2店舗を展開している。

今年で創業70年目を迎えることから、“老舗”と紹介したいところだが、取材に応じていただいた三藤哲也会長によると、「この業界ではまだまだ新参者」とのこと。日本の和菓子の歴史は古く、京都や伊勢には、創業から500年以上の歴史を持つ和菓子屋が現存しているらしい。最古参の「一文字屋和輔」(京都市北区)は、平安時代の長保2年から1,000年以上にわたって、あぶり餅だけを提供し続けていると言うので、老舗感が想像を超えていた。

末広庵の特長は、いい素材にこだわって美味しいお菓子を作ることである。そのために、最高の原料を国内外から仕入れ、こだわりの製法で本物の美味しさを追求している。一方、“新参者”の強みを活かし、伝統的な製法や業界の常識に捉われず、消費者の味覚の変化に合わせて、新しい味や技術開発に常にチャレンジし、時代に応じた新商品を次々と生み出してきた。その一つが2018年秋から販売している「エンゼルのほっぺ」である。

伝統や常識を疑うことで新たな発見がある

エンゼルのほっぺは、フワっと抹茶が香る宇治抹茶クリームと、ほんのりビターなチョコレート餡を、末広庵独自製法の柔らかい餅で包んだ三層構造の大福である。毎日食べ続けると、体脂肪を減らす効果が期待できるという不思議なスイーツだ。その仕掛けは、森永製菓が所有する「体脂肪低減剤及び体脂肪低減食品」の特許技術を採用したことにある。

特許公報によると、抹茶に含まれる「茶カテキン」と、チョコレートに含まれる「カカオポリフェノール」を特定の質量比で配合すると、優れた体脂肪低減効果が得られるとあり、臨床試験の結果、茶カテキンを適量配合したチョコレートを一日一回、8週間にわたって夕食前に摂取したところ、10%程度の内臓脂肪の低減効果を確認したと記載されている。つまり、カテキンとポリフェノールの“黄金比”が肝であり、その特許技術が「エンゼルのほっぺ」にも使用されているので、毎日食べると体脂肪を減らす効果が期待できるということである。もちろん、肝心の味も確かだ。突きたてのように柔らかい無添加の餅のうまさ、小豆の風味が漂う餡子、そこに抹茶とカカオの香りと苦みが加わり、和洋織り交ぜた重奏感が演出されている。その味はスイーツライターから「100点満点!」のお墨付きを貰っているので間違いない。

開発の苦労を三藤会長に伺った。

「茶カテキンもカカオポリフェノールもどちらも苦く、とても口にできるものではありません。そこで、プロの視点であれこれと工夫し、オレンジピールやラムレーズンなどの果実を加えて、苦みを抑え甘みを引き出しました。ところが、消費者による試食会を開くと、『色々入れずにもっと苦くして欲しい』、『苦くて美味しいものが欲しい』、『罪悪感を覚えない甘さが欲しい』と思わぬ意見が返ってきました。これまで『甘くて美味しい味』を追求してきた我々にとって、『苦くて美味しい味』との意見は、新たな気づきとなりました。それからプロの意識を捨てて試作を繰り返しましたが、茶カテキンとカカオポリフェノールの配合比率は特許で決められていたので、理想とする味や苦みを出すのに数カ月かかりました。」と当時を振り返る。

恐らく、長い歴史と伝統を持つ和菓子業界において、大福を巡って特許権がライセンスされた例はごく稀だろう。伝統的な製法や業界の常識、慣習に捉われず、常にチャレンジする末広庵だからこそ、「エンゼルのほっぺ」が生まれたと言える。

エンゼルのほっぺは、発売から一年間で7万個を販売するヒット商品となり、売上の一部は森永製菓のプロジェクトを通じて、社会貢献活動を行う団体に寄付されている。

 エンゼルのほっぺ

餅の中に餡子だけではなく秘密が隠されていた

次なるチャレンジついて話を伺うと、三藤会長は目を輝かせて答えてくれた。

「今後は冷蔵・冷凍タイプの無添加の餅を使った事業の拡大を考えています。実はこれまで、無添加の餅は冷やすと固くなって元に戻らないと考えられていましたが、「エンゼルのほっぺ」がその常識を覆しました。当社独自の製法で添加物や砂糖を加えずに、冷凍から解凍しても突きたてのような柔らかさが数日間持続する餅の開発に成功したのです。そこで、昨夏から旬の果物と餅を組み合わせた冷蔵タイプの「フルーツ大福」を発売したところ、予想を超える人気商品となりました。」

従来のフルーツ大福は冷蔵で固くならないように、もち粉や白玉粉で作られた求肥餅が使われてきた。そのため、食感が不自然で風味もやや劣る。ところが、末広庵のフルーツ大福は、もち米から秘密の製法で作られた純粋な餅を使っているので、ふんわりと柔らかく美味しいのである。これまでにパイナップル大福、陽蜜みかん大福、和栗モンブラン大福、巨峰大福、プレミアムあまおう大福など、旬のシリーズ商品がリリースされた。中でも和栗を使ったモンブラン大福は、一日に2,500個作っても注文に追いつかないほどの大ヒットを記録した。

フルーツ大福のほかにも、業者向けにシート状の冷凍餅のOEM供給も始まった。現在は全国の同業者から末広庵の餅を使いたいとの引き合いが増えているらしい。大福づくりの体験キット「おうちでフルーツ大福屋さん」も人気だ。元々は子ども向けに発売された商品だが、全国の観光いちご農園が“イチゴ大福づくり”の体験を提供し観光客に好評だと言う。「次はアジアの国々へ日本の餅を輸出したい。」と、末広庵のチャレンジは続く。

 和栗のモンブラン大福

川崎市産業振興会館
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