株式会社 ゼンク

「他社貢献値」という独自のモノサシを意識した経営を行うIT企業


代表取締役 増田 芳憲
事業内容 情報処理サービス業
企業名 株式会社 ゼンク
創業 2005年(平成17年)4月
所在地 川崎市幸区柳町1番地 伸幸ビル5階
電話 044-511-4222
従業員 20名
代表 増田 芳憲(マスダ ヨシノリ)
URL https://zenk.co.jp/

第18回(令和3年度)川崎ものづくりブランドに、当社製品「Ten Voice(テンボイス)」が認定された。「Ten Voice」は、川崎市知的財産マッチング事業でNTTから特許ライセンスを受けて開発した商品レコメンドシステムで、市内飲食店向けのテイクアウト・デリバリーシステムに実装されている。また、コロナ禍で苦境に立つ市内中小企業向けに無償でテレワークの支援もしている。競争が激しいIT業界にあって、OSSの活用を通じた事業展開を「他社貢献値」という尺度で評価する経営方針を持つ、当社代表取締役の増田芳憲氏に話を伺った。

OSSを活用した事業展開と「他社貢献値」を意識した経営

当社はいわゆるIT企業であるが、売上の半分以上は常駐派遣のシステム受託開発である。創業からしばらくはオラクル認定パートナーとして、大手企業のシステムを受託していたが、2008年のリーマンショックで、顧客から突然開発プロジェクトを中止させられた苦い経験があった。派遣していた社員が会社に戻ってきてもやることが無いのを見た増田社長が取り組んだのは、OSS(オープンソースソフトウエア)の活用だった。自社製品を開発するにも資金面が厳しいため、仕入れ価格が抑えられるOSSをカスタマイズして、初めての自社製品である「PremierΖ(プルミエゼータ)」というフィールドワーカー管理システムを開発した。これをきっかけに、OSSのエバンジェリスト(IT業界用語で伝道者を意味する)を雇入れ、当時は日本に1社しかなかった米国SugarCRM社のパートナー企業に加わった。SugarCRMは、CRM(顧客関係管理)の代表的なソフトウェアで、OSSとして1100万件以上ダウンロードされ、世界で1万社以上の企業で採用しているシステムである。

もう一つ、注力しているのがサイボウズ社のKINTONEである。KINTONEはOSSではないが、詳しい開発知識がなくても、業務アプリの作成が可能なクラウド型業務アプリ開発プラットフォームである。サイボウズ社の社長とも知り合うことができ、2017年にはサイボウズオフィシャルパートナーになった。現在では、受託開発・OSS活用と並ぶ事業に成長している。

リーマンショックを跳ね返すために取り組んだOSSを使った自社製品開発、KINTONEでの事業拡大で意識してきた経営方針は何なのか、増田社長に伺ったところ、「財務諸表に現れない、他社貢献値という独自のモノサシを意識した経営を行うこと」という答えが返ってきた。これは、コロナ禍で苦境に立つ市内中小企業向けに無償でテレワークの支援を行ってきた結果、この方針に行き着いたという。「単に注文を取って、開発して、納品するのではなく、当社のシステムを使って(お客が)どれだけ売上や利益が上がったかを経営指標の一つとし、社員の評価軸にも使っている」とのことである。顧客満足度という定性的なものでなく、貢献度を定量的に評価するという素晴らしい経営方針である。

2005年28歳でゼンク設立 社名の由来は後付け?

増田社長は1976年愛媛県出身で、徳島大学工学部で情報工学を専攻した。地元は製紙産業や繊維産業が多く、大学時代に学んだ情報技術を活かせる就職先は限られていた。卒業年の1999年当時は「就職氷河期」と言われる就職難の時代であったが、運良く神奈川県戸塚区に本社のあった日立電子サービス(現:日立システムズ)に入社できた。入社後は東京支社に配属、システムエンジニアとして勤務を続けていたが、組織の指示に従って自分の意思を曲げるより、独立して自分の思うように仕事をしたい意欲が次第に高まっていった。その後、退職して志を同じくする仲間と2005年4月に有限会社ゼンクを設立し、川崎市内にある自宅で事業を開始した。「若気の至りだったが、サラリーマンに向いてなかった」と笑って振り返る。川崎市産業振興財団のベンチャー支援施設に一旦本社を移した後、2006年4月には現在の拠点である幸区柳町に再度移転し、同年11月には株式会社化して現在に至っている。

独特な響きのある社名の由来を聞くと、2つあるとのことである。会社設立時に「全力(ぜんりょく)」という社名を考案したが、今一つひねりをきかせたかったので、(りょ)を省いて「ゼンク」とカタカナ表記に決めた。ところが、会社設立後1年ほど経った頃、たまたま「前駆(ぜんく)」という言葉があるのを知った。「前駆」とは、行列などの前方を騎馬で進み、先導することを意味する。後付けながら、まさに当社のイメージに合った社名の由来である。

そんな増田社長の趣味は歴史研究だという。大抵の歴史好きは戦国時代とか幕末とかを挙げるが、増田社長は南北朝時代(太平記等で知られる、鎌倉時代と室町時代の間)が好きとのことである。歴史好きで遊び心のある増田社長のパーソナリティが垣間見えるエピソードがある。ゼンクのホームページにエンジニア紹介のページがあるのだが、エンジニアの名前は全員「三国志」の武将になぞらえている。ちなみに、紹介ページにある「劉備玄徳」が増田社長本人である。

NTTの特許を活用したレコメンドシステム「TenVoice(テンボイス)」を商品化

OSSを使って開発した「PremierΖ」など、早くから自社製品開発に取り組んできたが、2018年7月の「川崎知的財産シンポジウム」で出会ったNTTのレコメンドシステム特許のライセンス契約を受け、2019年9月にサービス開始に至った自社製品が「Ten Voice(テンボイス)」である。テンボイスとは、「天の声」と「10の選択肢=多くの声」という意味を込めた造語である。これは、過去のサービス利用者の履歴(家族や友人同士などの属性)ごとのモデルを作成することで、初めて利用するお客に対しても、精度の高いレコメンドが可能となる技術である。「Ten Voice」は、テイクアウトやデリバリーサービスのシステムに実装され、川崎市内の飲食店等にて稼働しており、第18回(令和3年度)川崎ものづくりブランドにも認定されている。コロナ禍で、店内売上が減少したり、スタッフ不足で悩んでいる飲食店や食品販売店がITを導入する際に、大いに役立つシステムである。

最後に、今後の抱負を増田社長に伺った。「あくまでも他社貢献度を上げていきたい。当社の売上・利益が上がればよしとするのではなく、お客様が成長できればいい。商売とは人助けで、そのために自分を磨き高めていきたい。」と締めくくってくれた。今後のゼンクの活躍を期待したい。

 レコメンドシステム「Ten Voice」の利用例

川崎市産業振興会館
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