株式会社 Toshimi Fujimoto(エチエンヌ)

試行錯誤を重ねたどり着いたもの それは自然にこだわる「らしさ」


代表取締役 藤本 智美

事業内容 洋菓子製造・販売
企業名 株式会社 Toshimi Fujimoto
創業 2011年(平成23年)6月
所在地 川崎市麻生区万福寺6-7-13 マスターアリーナ1階
電話 044-455-4642
従業員 23名
代表 藤本 智美(フジモト トシミ)
URL https://www.etienne.jp/

小田急新宿線・新百合ヶ丘駅近くの閑静な通り沿いに、国内外の洋菓子大会で数々の受賞歴を持つパティスリーシェフの名店「エチエンヌ」がある。樹の幹でギリギリまで熟した果物を使った、季節ごとの色とりどりのスイーツ、繊細な細工が美しいチョコレートアート・・・。お客さんたちを魅了し続けている。同店は2011年8月、都内・六本木の5つ星最高級ホテルで働いていた夫婦が独立して誕生。開店10年目となる昨年は、オーナーシェフの藤本智美さんが、市内最高峰の匠を認定する「かわさきマイスター」にも選ばれた。最近では、川崎で生まれた唐辛子の新品種「香辛子」でシロップを作り出すなど、地元との連携にも積極的だ。

つくるプロフェッショナルから経営者に

オーナーシェフの藤本さんと、妻のスイーツアートデザイナーの美弥さんは、もともと、都内5つ星高級ホテルでペストリー料理長、ペストリースイートアートデザイナーとして働いていた。そこには海外からも含め「VIP」とされる来店客が多く「そろわない食材はない」と言われるような環境だったという。当時、夫婦で自宅がある読売ランド前から都内まで通勤していた。

ただ2人の間では「小さくても自分たちの店を持ちたい」との思いが次第に強くなった。そしてようやく見つけた物件が、現在の場所だった。

独立した2011年は、東日本大震災があった年。福島第一原発事故の影響で、川崎でも計画停電が度重なるなど、先行きが見通せない環境だった。それでも夫婦の決意は固く、同年8月に開店した。

過去の栄光よりも自分のスタイル

この業界に入って約20年。ずっと有名ホテルで洋菓子一筋だった藤本さん。「つくるプロフェッショナルではあるけれど、それ以外は素人でしたね」と、開店当時を振り返る。思えば有名ホテル時代。「この食材を使ってほしい」と、業者から売り込みがあり、全国から最高の食材が集まってきた。

また、販売やブランディングは、他部署のプロフェッショナルが担ってくれた。「原価計算はしていましたが、経営数字まで考えたこともなかったです」という藤本さんだが、独立を機にプレイングマネジャーとしての日々が始まった。

いざオープンすると、噂を聞いたお客さんが来てくれた。1年もあっという間。自分の店を持ってみて、経営者になった初めて気づいたことも多かったという。しかし、がむしゃらに走り続け3年が過ぎたころ、藤本さんは体調の異変を感じた。そして10日間の入院を余儀なくされた。だが、この入院が転機になる。自身と向かいあう時間を持つようになり、考えを一変させたという。

「今までは有名ホテルというブランド、それに大会で獲得した華々しい受賞歴…。独立しても(過去の)いろいろなことにとらわれていたと気づきました。そうではなく、自分のスタイルで、自分らしく店をやっていこうと思いました」

最高においしいスイーツを、これからも地元で

退院後、藤本さんが「自分らしさ」を追求するなかで、生み出したものの一つが「かき氷」だ。

食材探しに奔走する中で、山梨県の桃農家を訪れたのがきっかけだった。そこには、落ちるギリギリまで樹の幹で熟した桃があった。農家の人は「柔らかくなり過ぎたため、市場には出せない」という。その桃をもぎ取り、そのままかぶりついてみると最高においしかった。「これまでは『最高』の食材は、いわゆる『最高級』とされるものだと思っていました。が、その概念が変わりました」。

こうして、この農家から仕入れ、ギリギリまで樹で熟した桃を丸ごと使い、ピューレも加えた「洋菓子店ならでは」のかき氷が生まれた。当初は、かき氷=甘味屋のイメージであるため、洋菓子を専門にする自分の店で出すことに抵抗があったものの、妻・美弥さんが背中を押した。発売後、1日30杯だったかき氷の売り上げは60杯、70杯、99杯…と、あっという間に人気商品となった。100杯を超えたときには新規に電動設備も導入した。「夏は弱い」とされる洋菓子店で、完熟フルーツを使った、見た目も華やかな夏の名物ができたのだ。今や「夏の定番」とされ、暑くなり始めるゴールデンウィーク頃から秋の初めまで販売。1カ月で3500杯以上売れる月もあるほどという。かき氷での経験を機に、藤本さんは日本中の農家を訪問するようになる。おいしい食材を見つけては季節のスイーツに積極的に採用している。実際、川崎市内の農園からも、卵やキウイ、イチゴ、キンカンを使っている。今では国内40件以上の農家と付き合いがある。

今後の目標について藤本さんは「より地域に根差すこと」だと言う。同時に「個店だからできる強みを最大限生かしたいです」とも付け加える。他店舗展開をしたり、量産したりするよりも、農家から直接仕入れた完熟の“最高”な状態のままでつくり上げた洋菓子を味わってほしいと考えるからだ。確かに、リスクもある。天候次第で不作もあれば、完熟といってもすべてが一律の甘さとまではいかない。だが「自然のものを使ったお菓子にこだわりたい」という思いは貫きたい。それが藤本さんと同店のスタイルであり、「らしさ」でもある。

当社のデコレーションケーキのリベルテソヴァージュ(写真左)と桃のタルト(写真右)

川崎市産業振興会館
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