株式会社 メックデザイン

障がい者の前向きな気持ちを引き出す 斬新なデザインの電動チェア

メックデザイン 代表写真
社長 井上 和夫
事業内容 舞台美術のプランニング・オペレート(コンサート全般)、舞台美術器材・展示器材の輸入・販売、屋内用木製電動チェアの製造・販売 等
企業名 株式会社 メックデザイン
創業 1989年(平成1年)7月
所在地 〒214-0014 川崎市多摩区登戸133
電話 044-911-9521
FAX 044-911-9524
従業員 6名
代表 井上 和夫 (イノウエ カズオ)
資本金 1000万円
URL

屋内用木製電動チェア(商品名:吉田いす)という、新しいコンセプトの商品を世に提案しているのがメックデザイン。2007年に東京ビッグサイトで開催された国際福祉機器展に出展して好評を博したことを機会に、2008年には飛騨高山の職人によるこだわりの高級家具“オークヴィレッジ”の作品として玉川高島屋で展示された。福祉機器と高級家具という全くコンセプトの異なる分野で通用するという事実が『吉田いす』の特異性を物語っている。その斬新なデザインと機能は福祉の先進国であるデンマークでも認められ、2009年3月にはコペンハーゲンでショールームをオープンする予定だ。

コンサート会場で培われた演出力とデザイン力

井上和夫氏はデザインの専門学校でグラフィックデザインを学んだ後、先輩に誘われて舞台照明の仕事に就いた。1982年には舞台照明会社を設立し、現在もその代表取締役を務める舞台照明家としてアルフィー、矢沢永吉、安室奈美恵などトップアーティストを担当して来た。ステージの関連業務に携わりながら、1988年にTruss(トラス)と呼ばれる舞台の屋台骨を設計・施工する会社(メックデザインの前身)を設立。「中森明菜、TRF、B’zなど数多くのコンサートツアーも担当しました」と社長は笑顔をみせる。現在、当社のトラス事業はコンサートの舞台から、TVスタジオのセット、イベントや展示会のデコレーション、店舗の什器へとその用途を広げている。
メックデザインの強みは情報収集力と演出およびデザイン力。井上社長は毎年数回ヨーロッパを中心に世界中の展示会に出かけ、時代の最先端に触れている。「展示会に行くのが同窓会みたいになってしまって」と言うほど頻繁に行くそうだ。10年程前にはデュッセルドルフの展示会でイタリア企業の洗練されたトラス用部材に着目し輸入代理店になった。また、同業者の間ではアルミ素材のトラスが常識であったが、当社は2年前に透明な素材であるポリカーボネート製のトラスを商品化し、米国、ドイツ、ブラジルに販路を開拓中である。「アルミ色の冷たさは、ファッション、フード、コスメ、医療器具などの展示には向きません。長年探し続けた結果、透明で照明によって展示品が映えるポリカーボネートという素材に巡り合いました」と解説する。舞台照明は喜怒哀楽を演出する仕事であり、その経験から常に“魅せる”演出とデザインにこだわっているという。「現在は展示会が中心ですが、今後は店舗用の什器を強化していきたい。例えば花屋さんや靴屋さんの商品のディスプレイなど、どうすれば来店者にアピールできるかを、きめ細かく提案していきたい」と将来の事業構想を語る。

友人のために始めた『吉田いす』の開発

『吉田いす』とは当社が開発した屋内用の木製電動チェアのこと。従来の車椅子に比べて小型で小回りが利く上、駆動部と椅子がセパレート式になっているため、色々な椅子に載せ替えが可能。乗り手の感性に訴える柔らかく暖かなデザインが特徴だ。前述のデンマークデザインのいすとのコラボレーションの話もある。もちろん屋外を走ることも可能で、最先端のパルス制御のモーターコントローラーを搭載したことにより上り坂や下り坂でも平らな道路と同じ走行スピードにコントロールできる。
井上社長が『吉田いす』の開発に取り組み始めたのは、今から2年程前の2006年秋のこと。中学生時代からの友人であった吉田さんが筋ジストロフィーを患って不自由されていることを知り、何か手助けできないかと思ったことがきっかけである。一級建築士の吉田さんは設計事務所の社長として、現在も第一線で活躍されている。「吉田君がオフィスで快適に仕事することができるようにとの思いで、車椅子作りを始めました」と井上社長は語る。とはいえ車椅子の素人が始めたことであり、試作を繰り返しながら必要な部品の選定を進めるという、手探り状態からの出発であった。駆動用モーターでは日本中のモーター屋を探し回ったが満足できるものが見つからず、最後にたどり着いたのが台湾のメーカー。「車椅子の試作品を台湾メーカーに送って2日後に訪問したら、先方で新たに試作品を組み上げていました。実際に自分たちで組み立てしてみないと希望に添うことが出来るか分からないということらしく、ここまでやってくれるのかと感動しました」と井上社長は言う。
開発に着手してから約1年後の2007年10月、東京ビッグサイトで開催された国際福祉機器展に手作りのモデルを出展。モデルを見た来場者から「かわいい!」「私たちはこういうものをずっと待っていた!」など大きな反響があった。「パンフレットはすぐに無くなるし、これが欲しかったという多くの声に感動しました」と井上社長は振り返る。その後も試作品を作っては吉田さんに仕事や日常生活で使用してもらって意見を聞き、それを参考に改良を進めながら完成度を高めていく。そして十数台の試作を重ねて誕生したのが大人用の『Rose Tilt』と子供用の『Kid’s Moon Tilt』の2モデルだ。電動車椅子の乗り手の機能面でのニーズにきめ細かく対応する一方、大人用では家具と呼ぶに相応しいデザイン、子供用では月に腰掛ける子ども“星の王子さま”をイメージしたデザインとすることにより、乗り手の気持ちをほぐしている。「従来の電動車椅子は、スチール製でいかにも医療用といった雰囲気です。このような医療用の車椅子は、乗り手に自分は障がい者なのだと思い起こさせ、気持ちを暗くしてしまう、この話はデンマークでも同じだったんです」と井上社長は説明する。

障がいを抱える人の尊厳を守り、喜びや楽しみを提供する

2007年11月から松戸特別支援学校で当社の電動チェア『Kid’s Moon』をモニター用に貸出している。頂いた声をもとに改良型への交換を繰り返し、現在までに3機種計6台を貸出した。この学校の子供たちの約8割は、脳性麻痺などの障がいにより自力で寝返りや起き上がることが難しい。自分では動けない子供たちが『Kid’s Moon』に乗ることによって、自分の意思で好きな場所へ移動することができる。当社の電動チェアは非常にゆっくりと動き出すように設定が可能なため、子供たちに怖さがなく、一度経験すると目を輝かせて操作に集中する。「『Kid’s Moon』で自分一人でもできるということを体験することにより、もっと色々なことができるのではないか、という前向きさが子供たちに出てきて感動しています」と先生やご両親。「舞台照明の業界に入ってから、これまでの40年間という自分のキャリアは『吉田いす』を開発するためにあったような気がします。乗り手の皆さんが楽しく乗れるいすが出来れば嬉しいですね」。仕事を楽しんでいる井上社長の姿が印象的であった。

川崎市産業振興会館
トップへ戻る