日本メカトロニクス 株式会社

高完成度の高速給紙/仕分け装置でかんばん方式を支える

日本メカトロニクス 代表写真
社長 実井 敏一
事業内容 情報関連機器の企画/開発/設計/製造
企業名 日本メカトロニクス 株式会社
創業 1982年(昭和57年)12月
所在地 〒216-0013 川崎市宮前区潮見台9-6
電話 044-977-8585
FAX 044-977-8507
従業員 29名
代表 実井 敏一 (ジツイ トシカズ)
資本金 3,800万円
URL http://www.n-mechatro.co.jp/

もっとも古くからあり、もっとも身近な情報媒体である“紙”。その歴史とともに、普通紙、コート紙、リサイクル紙等、何百種類という特性の異なる紙が出現してきている。それら特性の異なる紙に対応して一枚ずつ剥離・給紙し、1分間に200枚近い伝票のバーコードやイメージ情報を正確に読取り、仕分けする装置を開発・製造しているのが日本メカトロニクス 株式会社である。 今や製造業界に広く普及しているトヨタ生産方式を支える重要なアイテム“かんばんリーダー”(工程間伝票の自動読取機)における草分け的存在として、創業者一代で高いシェアを築きあげた代表の実井 敏一氏に同社の成長の足跡を伺った。

会社の成長期には様々な繋がりに恵まれた

岐阜県の農家に生まれた実井氏は、家業を継ぐつもりでいた。しかし機械好きであった実井氏は農業機械の改造に興味を持ち、耕運機を改造してスピードアップし、畑で乗り回すという青春時代を過ごす。そうして農業から工業の世界へ気持ちが次第に傾いていった。上京して入学した大学では物理学を専攻し、卒業後は大手技術商社に入社し、手形や小切手などの紙片を発行する機械の設計を担当するエンジニアとなった。機械が好きだったので仕事は楽しかったが、バブル崩壊で業績悪化に陥ったことをきっかけに会社の先輩たちが次々と独立していく姿を見て、実井氏も「独立したい」と思うようになるのに時間はかからなかった。そうして35歳を目前にした1982年、日本メカトロニクス㈱を立ち上げる。希望に満ち溢れていた創業であったが、待ち受けていたのは生計を立てていかなくてはならないという厳しい現実であった。また、同時に将来のための開発投資もしなくてはならない。そんなジレンマに陥っていた時に救ってくれたのは、同じ経験をしていた会社時代の先輩たちであった。彼らは会社の成長につながる良い仕事を出してくれ、時に叱咤激励してくれた。サラリーマン時代とは質の違う“繋がりの重要さ”を痛感した。
また、オフィスを貸してくれた大家さんにも恵まれた。最初は30坪の事務所を借りてスタートしたが、同じ大家さんから近隣の土地で5回も拠点拡張をしている。人材を分散させずに技術集約できたことは規模拡大に大きく貢献した。「大家さんの懐の深さに助けられた」と実井氏は言うが、大家さんを社員旅行にも招待するなどの人間味溢れる付き合いがあったからこそであろう。
そして顧客にも恵まれた。かんばんリーダーを手掛けたのも、実井氏曰く「出張の空き時間に挨拶に行ったら、開発を依頼されました。」というきっかけで、とんとん拍子に受注が決まった。しかし開発はそんなに甘くなかった。当初は開発期間を半年で想定していたが、結局1年半を要してしまった。それでも顧客は待ってくれた。同社にとって決して小さくはない開発費負担であったが、顧客の納得できるものを完成させたことで、その後も受注が順調に伸び、かんばんリーダーは同社の事業の柱となった。

先行開発と顧客との関係強化で完成度の高い製品を製造する

同社は、自社ブランドの製品を持たないOEMメーカーとして黒子に徹している。顧客である製品/システムメーカーとは、要望に継続的に応えて関係を強化していく方針をとっている。しかし顧客から指示されたことだけを下請け的に実行するのではなく、顧客の今後の方向性を想像し、先行開発と投資によって試作品を仕上げて積極的に顧客提案している。そのために実井氏は自ら顧客と積極的に会話してヒントを得ながら、エンドユーザーの今後の方向性まで想像している。実際に社長室には試作の構想図を描くためのCAD端末が置かれている。一方、同社の技術者も、顧客が展示会に出展する際は手伝いに出向きエンドユーザーの声を聞きとっている。このようにして“お客様のお客様”まで配慮した製品作りが同社の競争力となっている。先行開発を重視する理由として、「お客様からの依頼を受けても、急に良い製品が出来上がる訳ではない、1~2年経って本当の意味で使える機械になるので」と実井氏は語る。そこまで完成度を高めた機械装置は、顧客との信頼を築く営業ツールとして威力を発揮する。
現在、いくつかの顧客は同社の事務所に常駐している。自社と顧客それぞれの強みを活かせる方法を模索したら、自然とそのような形に行き着いたと言う。同社はOEM部分の製造を行い、顧客はシステム全体の最終チェックや保守・修理を担うことでビジネス上の住み分けが明確にできる。自社だけでは不足する経営資源も、顧客との一貫体制で補うことによって最終的な完成度を高めることができる。そうして顧客の製品化を素早く実行することが、同社の使命となっている。
「何よりも会社を安定させることが大事。そのためには製造技術の向上は必須」と語る実井氏は、パーツの共通化なども含め、製造における改善への意識が高い。エンジニアのモチベーションを高めるためにも、各人の担当する装置を決め、継続的に改善する機会を作っている。改善の過程では、社長からの指示よりも、お客様からの指摘やお褒めの言葉が一番響く。そうして同社のエンジニアは自律的に改善を進め、責任を持って最後まで仕上げる姿勢を持つようになると言う。
同社では2006年にISO9001(品質マネジメントシステム規格)を取得し、積極的に社内展開している。以前の技術者の個性が見え隠れし共存する集団的雰囲気から、会議体で意見集約する企業的雰囲気に変わってきた。業務上もドキュメント化を更に徹底して品質管理体制を向上した。リピートオーダーに効率的に応えられるよう、装置で使う配線の長さまで手順書化した。

紙の搬送/仕分分野にある技術課題を解決したい

同社の企業理念は、「社員が安定した生活を送れる会社を目指すこと」である。その点からも市場がある程度確保される搬送/仕分分野を、今後も事業領域の主として注力していく方針だ。リーマンショック以後、経営的に難しい局面が続いている。しかし、こんな時だからこそ今までの問題点も洗い直している。紙の種類も増え、コート紙や再生紙などの搬送や仕分けでは、これまでとは異なる工夫が必要になっているが、技術的に未解明な点が多々ある。開発の手は緩められない。2009年には川崎市の新技術・新製品開発等補助金を得て、カット紙の両面印刷検査機の開発を新規事業として進めてきた。
一方で“画像技術”は、今後キーとなる技術として意識している。「今後、紙での表示が画像表示に置き換えられる場面が増えてくると思われます。当社でも画像を扱う機会が増えそうなので、画像技術の勉強会を開いています」と動き出している。
会社時代の先輩に言われた「会社が30年持ったら一人前」という言葉が心に残っていると言う。しかし実井氏の頭の中には、そのもっと先の構想図が描かれているであろう。

川崎市産業振興会館
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