株式会社 アイビット

顧客のニーズを真摯に聴きとり開発した見えないものを視るX線検査

アイビット 代表写真
社長 向山 敬介
事業内容 X線検査装置の開発、製造、販売 他
企業名 株式会社 アイビット
創業 2000年(平成12年)9月
所在地 川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP東棟6F
電話 044-829-0067
代表 向山 敬介(ムコウヤマ ケイスケ)
URL http://www.i-bit.co.jp

携帯電話などの電子回路基板の高集積化が進み、接続端子が部品の裏側に潜り込んでしまい、はんだ接合不良などを外観検査できない部分が増えている。そういった見えない部分を検査するには、X線検査装置が有効である。向山敬介氏が率いる高津区のベンチャー企業、アイビットは、顧客のニーズに応えたX線検査装置を提供して電子産業を支えている。

獣医学部の学生から、紆余曲折を経て、X線の検査装置会社を設立する

山梨県に生まれ、幼少時から動物に囲まれていた向山氏は、獣医を目指して大学の獣医学部に進学した。大学時代の研究で、家畜の生体データを解析する実験をしていく中で、コンピュータに触れるようになった。そのうちコンピュータやソフトウェアが面白くなる一方で、開業医になるには経済的な負担が少なくないことがわかってきた若き向山氏は、獣医からソフトウェアエンジニアの道へと方向転換し、コンピュータ関連会社に入社した。しかし、そこでは志望したエンジニア職には就けず、コンピュータ資材の営業職として悶々とした日々を過ごしていた。そんな時、基板の画像検査装置のベンチャー企業が設立されることを知人から聞き、迷うことなくその会社に入社した。営業担当であったものの5~6名の小所帯ではオールラウンドに働くことが求められ、時にはプログラミングや工場に赴き装置組立の手伝いまでしていた。そんな働き方が自分には合っていた。
当時製造していたのは、24時間稼働のインライン画像検査装置であり、それは非常に高い信頼度を要求されていた。お客様の求めるレベルになかなか達せられず、営業担当として怒鳴られて会社に戻った後は、製造担当になって装置を仕上げていった。そんな無我夢中の働きの中で得られた達成感が、結果的に向山氏の人生を左右したのかもしれない。
「やっとの思いで完成させた装置を使っていただき『良かった、ありがとう』とお客様に喜んでいただいたことが心地よくて、この世界にどっぷりはまってしまいました」と当時を振り返る。会社は成長軌道に乗ったが、設立10年経つと今までのベクトルと違う方向へ進みだし、向山氏のモチベーションも低下してきた。
ちょうど半導体の高密度化が進み、画像検査機では見えない部分が出始めて、次に必要なのはX線検査装置だと考えていた1994年、X線検査装置の営業担当として大手メーカー系列の輸入商社から誘われて入社する。主に海外製装置の販売を担当したが、顧客の要望に応じて輸入機械をカスタマイズすることは叶わず、独立することも頭の片隅には浮かんだが、まだ子供も小さく、一家で路頭に迷った場合のことが何度も頭をよぎり、その考えは押しとどめていた。
そして5年ほど勤めた時に運命の歯車が動き出す。会社の方針で設備事業を切り出すこととなったのだ。 向山氏は決意した。業界15年の経験があり、自分を評価してくれている顧客はいるという確信が後押しをしてくれた。輸入商社から海外製装置販売の事業移管を受けて、2000年にアイビットを設立した。独立以前に課題だと思っていた保守や自社製品の開発も併せて事業として進めた。

お客様の喜ぶ装置と情報を提供し続ける

同社の装置は、X線を基板に照射して透過させた影像から、基板や電子部品の不良をそこに現れた画像によって判定している。主力製品は、電子回路実装基板の抜き取り検査に使われるX線観察機や、連続稼働の生産ラインに設置するインライン検査機である。基幹製品であるX線観察機FX-300tRでは、このクラス最大級の幾何学倍率900倍を達成している。同社の強みは、X線画像からデバイスや基板のOK/NGを判定するソフトウェアにある。こういったアルゴリズム(計算手順)や実機開発も自社で行って、自動判定をすることで顧客の利便性を高めている点に競争力がある。 しかし、強みはそれだけではない。それらの装置を支える“顧客の使い勝手に関する情報”があってのことなのだ。向山氏が追究しているのは、「やはりお客様が喜ぶことですよね。普段の会話の中でもお客様が身を乗り出して聞くような話を提供しなくてはいけないのです」ということである。
そのためにも、X線について一からわかりやすく解説した資料なども作成している。「お客様との信頼関係を構築するためには、自社製品をPRするだけではなくて、お客様が自ら判断できるような知識を身につけていただくことも大切です。その情報源がアイビットであることが理想なのです」と向山氏は語る。

トップダウンとボトムアップを融合させた開発で完成させたステレオ差分方式

同社の製品開発は、トップダウンのマーケット情報を基に、ボトムアップでエンジニアのアイディアを組み合わせて進めている。
その技術力の結晶が、同社独自のX線ステレオ画像差分方式である。基板の部品実装が高密度化し、裏面にも部品が実装されることで画像への干渉が課題となっていた。そのために基板を回転させて断層画像を撮影して判定するCT方式を採用するのが大勢となっていた。しかし同社では、装置コストと処理時間が自社の対象顧客ニーズに合わないと判断して、別方式を開発することにした。試行錯誤の結果、2方向から撮像することにより観察対象ではない裏面部品の画像を消して、欠陥だけを観察するステレオ差分方式を生み出した、その優秀さが評価され、同技術は第28回神奈川工業技術開発大賞を受賞した。 そんな競争力の高い技術に驕らず、マーケティング面でも攻勢をかけ、2012年にはステレオ差分方式を使ったX線レイヤースコープを発表した。これは、電子レンジ大の筐体にステレオ差分方式を詰め込み、多くのユーザーにX線検査ができるように定価600万円で提供している。
今後、パワー半導体、電池など様々な種類のデバイスが増加し、欠陥検出も高分解能化へと進んでいくと考えられる。そこでX線検査が必要な場面は増えていくと感じている。X線マーケットに波が来た時、ニーズにあった製品を即座に出すためには、基盤技術の蓄積を図らなくてはいけないと思っている。そのためにも、自分が何を考えていて、どういう方向を目指しているかを伝えることに腐心している。「言葉に出さないと伝わらないので、口が酸っぱくなるぐらい常に自分の考えを言うようにしています」。 創業10年を過ぎて向山氏は振り返る。
「自分がやりたいことをやろうと思って、会社を作りましたが、思ったほどやりたいことは出来なかったですね。今も私自身が一番好きなのは営業の最前線で、お客様のところや現場にいることなのですが、なかなか難しくなってきていますね」それでも、創業の思いは揺らぐことなく、「検査機を買って良かった」と言ってもらえる瞬間を大事にしながら、アイビットはX線検査の世界で走り続けていく。

川崎市産業振興会館
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