着実に高めた技術を結集したEMCスキャナーでノイズを可視化する
社長 森田 治
事業内容 | EMCノイズスキャナー、RFモジュール試験システム 他 |
企業名 | 森田テック 株式会社 |
創業 | 1993年(平成5年)3月 |
所在地 | 川崎市麻生区栗木台3-8-1 |
電話 | 044-980-8139 |
従業員 | 13名 |
代表 | 森田 治(モリタ オサム) |
URL | http://www.morita-tech.co.jp |
携帯電話の国内累積契約数も1億台を超え、誰しも電子機器や通信機器を持つ時代になった。これらの機器から発生する高周波ノイズは機器相互の干渉により誤作動の原因となってしまう。そのため、各電子機器は、自分の放出するノイズの総量を抑え、且つ、他からのノイズに対しても一定の耐量を持たなければならない。それらの機器設計の際に使われるのが『EMCノイズスキャナー』で、電磁波に感度を持つセンサープローブを、ICなどの素子や回路基板の近傍へと位置決めして、電磁界分布を測定しマップ形式で表示する装置である。麻生区の森田テックでは、少人数ながら高周波技術とメカの技術を両立させてコストパフォーマンスの高いスキャナーを開発・製造している。「ど素人から起業しました」と自称する代表取締役の森田治氏は、チャンスを的確に捉えて同社を成長させてきた。
ステップバイステップで高めてきた高周波技術
森田氏の実家は、大田区大森で大型の変圧器を製造する会社を営んでいた。男3人兄弟の末っ子であった森田氏は、小学校時代から実家の1階にあった工場で、電線を巻く手伝いをしながら育った。そして大学の電気電子工学科を卒業すると、当然のように実家で働き始める。大手メーカーの汎用計算機などに搭載されるトランスを父が設計して、兄弟で力を合わせて製作するという仕事であった。入社して10年が過ぎて平成の時代に入ると、経済の風向きも悪くなり、変圧器製造で兄弟3人が生計を成り立たせられる見通しが立たなくなってきた。そこで森田氏は39歳の時に父から創業資金援助を受けて、森田テックを設立した。具体的な事業計画はなく、バブル崩壊後でもあったため設立を思い留まらせようとする人もいた。それでも「とにかく何でもやります」との掛け声で創業した。知り合いの伝手によって、電子機器などのワイヤハーネスを1つ数円の工賃で作り上げるなど、2年ほど軽作業的な仕事をした。 そんな時、大手計測器メーカーに勤務する友人に声をかけられたことがターニングポイントになって、94年頃から計測器システムのラック組立業務を請け負うようになった。人手不足の時には、近隣の板金屋や菓子屋の知人も作業現場へ連れて行くことで、何とか仕事をやりきった。森田氏独特の勘で「この会社からの依頼は何でもやろう」と覚悟を決めると、技術的にステップアップした注文が連鎖的に入ってくるようになる。もともと電気分野は土地勘があったので、何とか外注先も見つかった。最初は見様見まねで対応していたが、次第に高周波関連の仕事が増えてきたので専門の人材を採用した。そして98年には「自分ができないことを何かやってみたい」とある決意をする。
「よその会社の作ったインターフェイスボックスをラックに組み付けているだけではつまらない。このインターフェイスボックスを自社で作らせてもらおう」。インターフェイスボックスは、高周波の信号切換や周波数変換をする装置で、携帯電話の端末や基地局の評価をするのに計測器とともに使用され、携帯電話が急速に普及した当時は計測システムに多く使われていた。他社にできてなぜ自分の会社でできないのかという意地から、何とか満足する性能をもつものを作り上げた。すると堰を切ったように仕事が流入、多くの携帯電話端末や基地局メーカーに試験装置の一部として数多く納入され、会社は順調に成長した。最初は2名で始めた会社も、成長と並行するように人材が集まってきた。機構設計などの機械のエンジニアを採用して、3次元CADでの設計ができるようになると、高周波、ロジック・アナログ回路設計など電気や機構のハードウェア技術が一通りカバーできた。そして次なる目標を、ソフトウェア技術者を採用して、システム全体を作ることに定めた。
敬意を持って専門家集団を率い、EMCノイズスキャナーを形にした
そんな時、ある計測器メーカーから、電子機器から漏えいするノイズを測定したいという依頼を受ける。それが3次元の位置決めをする精密機構と高周波ノイズを測定するプローブを組み合わせたEMCノイズスキャナーの原型であった。森田氏は、動きながら測定するスキャナーが面白いと感じ、依頼されたものの他に自費でもう1台製作した。それを展示会に出品したところ、偶然の出会いが生じた。「展示している装置はもっと性能向上できる。私を雇わないか?」と “流しの技術者”から売り込みをかけられたのだ。彼の協力を得てスキャナーを改良し、商品として遜色がないものに仕上げた。その時、森田氏は確信した。「高周波もできて、メカもできる会社は他にはあまりないのではないか?これなら商売になるかもしれない」。以前、ゲーム機に通信機能が付属しだしたため、従来の評価用の治具が使えず、森田テックへ依頼が流れてきたこともあった。手さぐりで始めた開発業務も15年ほど経過した頃には、専門エンジニアの集団に変貌しており、顧客の認知度も上がってきていた。無我夢中で進んできて気付かなかったが、改めて自社を俯瞰してみるといつのまにか強みが醸成されていた。 専門家集団により競争力があっても、会社の方向性に沿ったマネジメントをすることは多くの企業が苦労している点である。森田氏にその秘訣を聞いてみたが、「特に難しく考えてはいません。あえて言うならば、社員は私の持っていない技術や能力を持っている人たちなので、彼らには敬意を持って接しています。当社では、顧客や協力会社との打合せの場にエンジニアも同行させますが、協力会社に対して理不尽なことをさせないようにしていますし、顧客の難しい注文でも『できる方法は無いか?』と徹底的に考えてもらうようにしています」と懐深く構えている。こういう技術者との接し方も会社を経営してから実践しだしたことかもしれない。昔、実家の会社で兄弟3人が言いたい放題で、父親が顧客との板挟みで苦労していたことを思い出すと、父親に諭されているような気がしてくるという。
外部との連携も強化して、開発型の企業としてブランド力をつけていく
2010年に発売したEMCノイズスキャナー『WM7400シリーズ』は、8GHz帯域超まで測定できるなど、業界で最も早い時期にCISPR(国際無線障害特別委員会)の22規制「情報技術装置からの妨害波の許容値と測定法」に対応した。同社ではこのEMCノイズスキャナーを押しも押されもせぬ一流の製品に育てたいと願っている。平成23年度の川崎ものづくりブランドにも認定され、徐々に製品のブランド力が向上している。森田氏の頭の中には、今後の事業領域がしっかりと描かれている。高周波関連の計測システムの市場規模を考えると、少人数体制を維持していくことにはなるが、高い技術力を持った会社に育て、顧客である大手企業と直接話ができるような会社にしたいと思っている。そのためにも開発に力を割き、大学や研究機関、大手企業との連携も積極的に進めている。現在は、産業技術総合研究所や東京大学と連携して、経済産業省の「新世代情報セキュリティー研究開発プロジェクト」に関わっている。今後は、次世代型のプローブを開発して、顧客の多様なニーズに応えられる装置を作り上げることを目指している。