株式会社 アキュセラ

世界中のがん患者のQOLを向上させる次世代放射線治療装置の開発に挑戦するベンチャー

アキュセラ 代表写真
社長 田辺 英二
事業内容 放射線治療装置、工業用非破壊検査装置、研究用加速器他の設計、開発
企業名 株式会社アキュセラ
創業 2005年4月
所在地 〒215-0033 川崎市麻生区栗木2-8-22
電話 044-980-1511
代表 田辺 英二(タナベ エイジ)
URL http://www.accuthera.com/

がん患者数は、国内で150万人、世界で1240万人と推定されている。治療方法の研究も進み、放射線療法は増加しているが、国内では今のところ手術療法が中心を担っている。理由の一つに、放射線治療装置が、がん細胞だけに照射することが困難で、周囲の正常細胞を破壊しないようにX線量を落として少しずつ使用するため、治療回数が増え、患者の金銭的/時間的負担も大きいことがあげられる。そこで患者のQOL(生活の質)を落とさずに治療できる画期的な放射線治療装置を開発しているのが、田辺英二氏が社長を務める(株)アキュセラである。

アメリカで知った放射線治療を広めたいという思いで会社を設立

田辺氏は、1970年にアメリカに渡りディーク大学大学院での博士課程を終えた後、1975年から米国バリアン社に勤めながら、スタンフォード大学の加速器(素粒子等の実験に用いる荷電粒子を光速近くまで加速する装置)研究所で研究員として、小型高電界加速器の産学共同実験に従事することとなった。
放射線治療を受け入れる土壌が整っているアメリカで治療用加速器の実験に打ち込み、新しいエネルギー可変型加速器装置の開発にも大きな成果を上げることができた。これらの仕事を通じて先端科学技術が医療に大きく貢献出来る姿を目の当たりにし田辺氏は放射線治療とその技術の素晴らしさに魅せられて行った。「このように有効な治療方法を支えるさらに良い装置を開発して、それを社会に広めていかなくてはならない」という使命感が湧いていた。会社経営者の祖父と医師の父を持つ田辺氏にとって、放射線治療はまさに天命のような事業シーズであったため、直ぐに起業することも考えた。しかし、多額の開発投資が必要で、一人では到底できない。技術的な不安はなかったが、「実行に移すビジネス感覚が身についていない」と感じていた。
そこで大きな資本を必要としない先端技術を日本輸出する事業で起業することにし1986年にアメリカのシリコンバレーにAET Associates Inc.を設立、今までの研究生活で取り扱ってきたマイクロ波などの電磁波や高周波の関連機器、装置やソフトウェアなどをアメリカから日本へ直接販売する事業やコンサルティングを主な仕事とした。ニッチな分野の事業であったが、目の付け所が良く、技術力もあったことで他の商社にはできない仕事が多くあり、1988年には川崎市に株式会社エーイーティージャパン(後に㈱エーイーティーと社名変更)を設立し、ソフトウェアと電子機器の代理店業務の他に、自社でマイクロ波電子銃やプラズマ装置、誘電率測定装置なども開発して、業界内で名の通った会社に成長させることが出来た。
創業し20年近くが経過した頃には、資金的にも安定し、大手企業などから優秀な人材も集まってきていた。そこで2005年に田辺氏は、かねてからの目標であった次世代放射線治療装置の開発を進めて、世界に打って出るために新しく株式会社アキュセラを設立した。

地方に行き渡る放射線治療装置を目指して、産官学連携プロジェクトを進行

しかしながら、がん治療に放射線治療を積極的に取り入れ、専門医や医学物理士などの専門人材がいるアメリカと比べると、日本では放射線治療が現場で浸透しておらず、社会的認知度はあまりにも低かった。
また、大学病院等での採用実績や学会発表を通じてスタンダード化が進む医療装置の開発環境にしても、アメリカでは当たり前であった医工連携や産学連携などの組織間交流が、日本では簡単に進みそうになかった。田辺氏はもどかしさを感じることもあったが、「この状況を何とかしなくてはいけない」という強い思いが行動に駆り立てた。そして、2007年にNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発」に応募し採択されてからは潮目が変わってきた。これにより十分な研究開発資金を獲得して、それまでに培った小型のX線加速器技術を活用して、リスクを最小限に抑える事が出来る放射線治療システムの研究開発に大学と共同で取り組む事ができた。
同社の強みである電磁波、X線、荷電粒子を扱う総合的な技術力を存分に活用し、従来の約半分となる直径3mm以下の細いビーム状の放射線を照射出来ることと、ロボット制御技術を活用してリアルタイムに追尾し、がん細胞の部分だけに集中して放射線を照射することを目標に、満足できるシステムが開発できた。これにより延べ照射時間もこれまでの何十回にわたる分割照射によるトータル平均4~5時間から、1回の治療で10分程度へと大幅に短縮化され、患者の負担が大幅に軽減される見込みである。
従来の重粒子線装置などは数百億円規模のシステムとなってしまうため、国内にも数カ所の機関にしか置かれていない。同社では加速器などを小型軽量化し、汎用の産業用ロボットを使用することで安価な設備に仕上げ、全国400近くある地方の拠点病院のみならず,小さなクリニックでも導入できる価格帯での商品化を目指している。

世界で戦える人材を育てながら、がん患者のQOLに貢献する装置を開発する

このように地域の医療現場でも使える装置を目指しているが、市場としては開発当初から米国や欧州市場、そして将来はアジアも視野に入れている。そのため、アメリカへの輸出に必要なFDA(アメリカ食品医薬品局)の承認申請を来年度に行う予定である。
世界市場は2500億円以上と推定される大きな事業である。同業の海外のベンチャー企業との競争のためにも、同社を将来的に売上200~250億円の企業にしていきたいと田辺氏は構想している。
同社はこの他、環境・エネルギー分野の装置事業も展開している。代表的なものが、高エネルギーX線を使った非破壊検査装置や高エネルギー電子ビームを医療用具などに照射することで滅菌可能な小型加速器装置である。近年、高度経済成長期に作られた橋梁など老朽化の指摘がされているが、老朽化のシグナルである亀裂などを診断するための非破壊検査装置としての製品開発も進んでいる。その他、化学プラントなどの非破壊検査装置や研究用加速器なども十分海外で戦っていける製品だ。
このようにワールドワイドで勝負をかける同社の競争力の源泉は、人材にある。製品化のプロセスでは、理論や計算のみならず実験や試作がものを言う要素が多い。そのため、同社は経験者を中途採用する採用方針をとっている。エンジニアがやりたいことを実現できる環境を用意しているため、安定している大手メーカーから志を抱いて入社するエンジニアも多い。それでも自分の仕事だけに閉じこもらず、各人がオールラウンドプレイヤーとして互いをカバーしあいながら、仕事を進めるのが同社の文化である。
エンジニアであっても同社の社員には、海外とのコミュニケーション力は必須のものとなっている。フィリピンからの研修生も受け入れており、研究開発成果は、積極的に国内外の学会などで発表している。また最初は英語を苦手にしている人でも、海外と情報交換をインターネットを駆使しながらリアルタイムにコミュニケーションすることで自然に力がついていくようだ。
放射線治療に取り組み、この10年でがん治療に対する社会の考え方が少しずつ受容する方向に変わってきたと感じている。理想とするアメリカで見た日常生活の中の放射線治療、すなわち「普通の仕事をしながら、がん治療がいつどこででも出来る」世の中を想像しながら、田辺氏とアキュセラの挑戦は続く。

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