スウェージング加工による脳波計用のペン 市場シェア国内100%・世界60%
(右)
社長 津田 正康
(左)
常務 多田 基史
事業内容 | スウェージング加工及び、曲げ、穴あけ、フレア等各種パイプ加工、 パイプ加工品と切削品、成形品との溶接・ロー付け・接着等のASSY、 パイプ内外面鏡面研磨・各種表面処理、 ワイヤー放電加工、レーザー加工、NCT加工、プレス加工他 |
企業名 | 株式会社 津田製作所 |
創業 | 1936年(昭和11年)7月 |
所在地 | 川崎市宮前区宮崎3-1-1 |
電話 | 044‐866-2331 |
代表 | 津田 正康(ツダ マサヤス) |
URL | http://www.tsuda-ss.jp/ |
「スウェージング加工は、パイプを叩いて細く絞っていく技術。ゴルフのアイアンシャフトや野球の金属バットも同じ方法で作られているが、ウチは注射針クラスの極細パイプが専門。他にも曲げ、穴あけ、スリット、フレア等の加工に加え、パイプ内面の鏡面研磨、テフロン加工等の表面処理、切削品や成形品との溶接・ロー付け、接着等の組立まで対応できる」と津田社長は当社の強みを語る。
当社の技術は、注射針、医療用カテーテル、人工衛星用ヒートパイプ、航空宇宙機器用微細配管、各種分析器用サンプルプローブ、記録計用のペン、歯科用エアー配管、各種ディスペンサー等様々な分野で活躍している
スウェージング加工の売上に占める割合が5%から50%超まで増加する
「スウェージング加工の仕事は売上の5%程度と細々とやっていたが、後継者の常務が7年前に入社してから年々上昇し、今では売上の50%まで増えた。スウェージング加工に注力し、営業は全て常務に任せている」と津田社長は笑顔だ。ただ、当社のもう1つの主要事業であるプレス板金加工は、中国等の東南アジア諸国の台頭で売上の減少は否めない。
多田常務は2008年の入社と同時に、パイプ加工に的を絞ったホームページを立ち上げた。津田社長はITで仕事が受注できるとは思っていなかったが、予想に反しホームページの反響は大きかった。また、工業技術見本市“テクニカルショウヨコハマ”にも出展した。
「スウェージング加工の機械を会場に持ち込み、実演加工した。また、その場で出来立ての品物をサンプルとして配布した。結果、出展企業のうち集客人数でベスト3に入れた」と多田常務は語る。
“石橋を叩いて、真ん中を這って渡る”という経営方針でやってきた津田社長は、自分の代での廃業を考えていたので、必要最低限の設備投資しかしてこなかった。しかし、多田常務が入社してからは積極的に設備投資を行っている。
「新型機への入れ替え、既存設備の増設もあるが、従業員の作業環境を良くすることが目的の物も多い。具体的には、スウェージング加工の音が大きく、周りの従業員への影響が考えられた。そこで、専用の防音室を設けたところ全く音が聞こえなくなった」と語る津田社長は縁あって入社してきた従業員を大切にする。
そのためか、当社には定年後も継続勤務を望む社員が多く、現在も75歳を筆頭に60歳を超える従業員が多数働いている。その一方で、多田常務より若い従業員も主力として働いている。津田社長は多田常務が入社した際に、当時20代だった若手従業員を工場長に抜擢した。今では、その工場長が中心となって現場を切り盛りしている。
「彼に現場を任せることができるので、自分は安心して外に出ることができる」と多田常務の信頼も厚い。
お客様のイメージをすぐに形にする細径パイプ加工の提案営業を開始する
当社は、津田社長の父親が逓信省(旧郵政省)の丁稚奉公を経て、1936年7月に東京都大田区でプレス板金加工を始めた。工場が手狭になってきた1964年12月に川崎市の現在地に移転した。津田社長は21歳の時に入社して以来、現場第一主義で70歳の今もモノづくりを極める典型的な“町工場のオヤジ”である。
多田常務は津田社長の娘婿で、大学卒業後特許事務所に勤務していたが、釣りが趣味で、ルアー作りやリールの改造など子供の頃からモノづくりが好きだったことから当社に飛び込む。現場経験を経て、津田社長の方針で営業担当として外に出た。最初は御用聞き程度で取引先を回るが、プレス板金の仕事の薄さをすぐ痛感する。一方で、スウェージング加工を始めとする細径パイプ加工に対する反応は違っていた。
「頭の中にイメージはあるが、実際に形になるのか分からない」、「現在の方法ではなく、全く新しい方法で形にしたい」そんなお客様の声が多かった。そこで、多田常務は自社の強みである細径パイプ加工を全面に押し出した提案営業・課題解決営業を開始した。お客様のイメージを加工側からよく検討した上で現場に伝え、津田社長や工場長がすぐ形にし、お客様に評価頂ける段階までもっていくことを心がけた。また、他社が図面通り製作するであろう品物でも、当社はコストを抑え、かつ性能が向上するよう可能な限り提案を行う。
「お客様と綿密な打ち合わせを行い、図面から肝となる部分を見極め、そこにフォーカスして持てる経験と技術を注ぎ込む。また、無駄(オーバースペック)を省くことで引き締まった品物になるよう様々な提案をさせて頂く」多田常務のスタンスは現在も変わっていない。「結果として、“1部品の価値”ではなく、結果として、お客様の“製品の価値”を上げることができたら嬉しいですね」多田常務は一つの部品からその先を見据える。
77年を超える歴史ある誇り高き町工場
「“仕事を面倒くさいと思え”改善しろと言っても従業員は頭を抱えてしまうのでこう言っている。それは仕事を工夫してラクして稼げという意味。少しやり方を変えるだけで効果が出る。最近では良い意味でサボっている場面が見られるようになった」と語る津田社長は“カイゼン”を個性的な切り口で社内に浸透させている。
当社が強みとするスウェージング加工とは、パイプを周りから叩き、部分的に細くする加工。素材を削らないので材料の無駄が出ない。また、切削が難しい材質にも対応が可能。多品種少量生産という昨今の業界のニーズにも好適だ。
当社がスウェージング加工に取り組むきっかけは、大手電機メーカーが輸入していた記録計用のペンを国内で製造できないかと依頼してきたことにある。当時は、太いパイプに細いパイプを挿入し半田付けしていたが、当社はスウェージング加工により、より低価格・高精度の品物を作り上げた。その後もスウェージング研究を重ね、現在はスウェージング後の内径90マイクロメートルを実現し、80マイクロメートルの人の髪の毛をサンプルに通してお客様に見せている。スウェージング加工でここまで細くできる企業は日本で当社だけとマシンメーカーにも太鼓判を押された。
「一番苦労したのは、第1次オイルショックの時。それまでは父の自慢だった“残業しない日は1日も無かった”仕事量が、金土日3連休してもいい位に激減した。やることが無くて営業に外に出たが、どこに行っても門前払いだった」と津田社長は当時を語る。
77年を超える“歴史ある誇り高き町工場”を標榜する当社は、提案営業・課題解決営業の成果が実りつつあり、既存の取引先はもちろん、新しいお客様とも深い信頼関係を構築している。
「JAXA殿から宇宙用平板ヒートパイプ(FHP)の機能向上の為の、超小型逆止弁の開発を依頼された。与えられた図面のまま製作するのではなく、JAXA殿と複数回に渡る打合せを行うことで、要求を満たす製作仕様を固め、形にすることが出来た。打ち合わせの際に感じた設計者の方の強い熱意に何とか応えたかった」と多田常務は振り返る。
小型実証衛星4型(SDS-4)に搭載されたこのFHPはH-2Aロケットで無事打ち上げられ、軌道上性能評価試験が行われている。
今後も“食卓の箸から人工衛星の部品までスウェージングによるパイプ加工を極める”と当社の強みに磨きをかける方針だ。