株式会社 松本製作所

プラスチック成型加工の“技”と大企業の“知”を融合して活路を見出す

松本製作所 代表写真
社長 松本 浩秀
事業内容 プラスチックの成形加工、金型設計・製作
企業名 株式会社 松本製作所
創業 1969年(昭和44年)10月
所在地 川崎市中原区井田杉山町17-35
電話 044‐766-0034
代表 松本 浩秀 (マツモト ヒロヒデ)
URL http://mss-1969.com/index.html

松本製作所は、パソコンの液晶画面のバックライト用フレームや、電子機器の筐体など、比較的薄肉のプラスチック製品の射出成形加工を主要業務としている。当社の企業規模では珍しい220~350トンクラスの加工機を取り揃え、スーパーエンジニアリングプラスチックにも対応できる強みを持つ。2008年には創業から40周年を迎えた。2代目社長の松本浩秀氏は、次の40年に向けて新たなチャレンジをスタートさせた。

24歳の若さで会社を承継、苦難の道のりが始まる

松本製作所は、1969年に川崎市中原区井田杉山町の地で創業し現在に至っている。高度経済成長期にあった当時、モノは作れば作るだけ売れ、同社もプラスチック製の音響製品や自動車内装部品を大量生産し、順調に業績を伸ばしていった。やがて、バブルが崩壊し完成品メーカーが生産拠点を海外へシフトしたことに伴い、同社の仕事も減少した。加えて、顧客からの単価引き下げ要求により利益率も悪化した。それでも、先代社長の技術力と人徳によって、得意先から一定の仕事量を確保することができていた。
その先代が急逝したのは2000年2月のことだった。同時に松本浩秀氏は2代目社長を継いだ。ところがその一週間後、同社の売上の7割を占めていた大得意先から、発注の打ち切りが突然告げられた。その理由は社長交代にあった。同社の経営は一気に窮地に追い込まれた。
「社長と言っても自分にはプラスチック加工の知識も技術もありませんでした。得意先が離れていったのは納得いきませんが、理解はできます」当時を振り返り松本社長はしみじみと語った。
それまでの受注は、先代の努力と信頼の賜物であり、自分にはそれらが欠けていたことを痛いほど思い知らされたと言う。松本社長が24歳の春先の出来事である。
それからというもの、松本社長は必死になってプラスチック加工を学び、成型ノウハウや金型製作の知識を身につけていった。同時に、経営意欲を取引先にアピールするため、処理能力350トンの射出成型機を導入した。これほどの規模を持つ成型機を保有する中小企業は、当時も今もなかなか見当たらない。その狙いは、同業者と差別化を図り、オンリーワンの強みを発揮することである。その後は、高速射出成型機でしかできない、液晶パネル部品などの薄肉プラスチックの成型加工に特化していった。さらに、苦境の中にあっても、老朽化した装置の入れ替えを毎年のように進めた。それは、新社長のやる気と覚悟を社員に示すためでもあった。
新たなリスクを背負う設備投資ではあったが、新社長の努力と意地の経営により、就任から5年目にして同社は黒字転換を果たしたのだった。

大企業の保有特許を活用して自社製品「アロマ レ・フレール」を開発

2012年7月、松本社長は「かながわサイエンスパーク」で開催された「川崎市知的財産交流会」に参加した。これは、大企業の特許を使って、中小企業による製品開発や、新規事業への取り組みを後押しする川崎市の施策の一つである。
当時の松本製作所は、設備投資による差別化と、その後に進めてきた「スーパーエンジニアリングプラスチック」の加工ノウハウの蓄積により、仕事の依頼が増加する傾向にあった。しかし、経営は決して安泰と言える状態ではなかった。松本社長に知的財産交流会に参加した理由を尋ねてみたところ、次のように語った。
「仕事の依頼はそれなりにはあるのですが、単価引き下げの要求がより強くなっており、利益を捻出し辛くなっていました。今後は下請けの仕事だけに頼らず、新しいことに取り組まないと将来がないと思い参加しました」
松本社長に限らず、知的財産交流会に参加する多くの下請け型の企業経営者が同様の理由を口にする。
その年の11月、松本製作所は富士通と特許のライセンス契約を締結し、自社製品の開発をスタートさせた。導入した特許は「芳香拡散装置」という、“香り”を楽しむことができる技術で、富士通製の携帯電話にも実際に使用された実績がある。専修大学とも連携し、経済学部の学生グループが製品アイデアの検討やマーケティング活動に加わった。
翌2013年11月末、この特許を使った「アロマ レ・フレール」と言う名の製品の販売を始めた。同社から生まれた初の自社商品である。
「アロマ レ・フレール」とは、香りを使い分けて楽しむことができる、主に女性をターゲットとしたカード式の芳香グッズである。プラスチック製のカードに埋め込まれたセラミックスの特製チップに、好みの香水やアロマオイルを数滴染み込ませると、香りが長時間広がる。使用例としては名刺入れや財布、各種のポー チなどに入れて使用する。チップを水洗いして、TPOに応じて香りを付け替えることができる特徴がある。同社の金型設計やプラスチック成型加工のノウハウが活かされている。
草花をモチーフにデザインされた商品の価格は1,500円(税抜き)、無地の単色商品の価格は1,200円(同)である。初期費用として3万円ほど負担すると、社名や店名を入れるなど、自由にデザインすることも可能でノベルティグッズとしても使える。
販売から一ヶ月程度で、当初に作製した1,200枚の商品は底をつき、売り出しは概ね順調と思われる。2月に「インターナショナルギフトショー」に出展したところ、バイヤーから予想を超える数の商談が持ち込まれた。現在もその対応に追われつつ、信頼し合えるパートナーを模索中である。
「分かり合える人たちと、楽しく好きな仕事をしていきたいですね。今後は単価改訂に歯止めがかかるような商流を作り出していきたいです」自社製品を見つめながら、松本社長はそう語った。

同じような境遇の町工場に夢や希望を持ってもらえれば…

今後のビジョンを伺ったところ、「今はまだビジョンを語れる段階にありません。まずは借り入れを返済していく中で考えていきたいです」と控えめな答えが返ってきた。しかし、今回の自社製品開発については、自社と同じような下請け型の企業経営者にメッセージを伝えたいと言う。
「実は、知的財産交流会には“面白そう”というだけで深い考えもなく参加しました。“知財”という言葉もその時に覚えたほどです。カード式芳香グッズのアイデアも、たまたまその場で思いついたに過ぎません」さらに続ける。
「しかし、こんな自分でも大企業の特許を使って自社製品を開発することができました。うちのような町工場にもできたのだから、ほかの町工場の方々にもできるはずです」と、自社製品開発の取り組みにエールを送る。
プラスチック業界に限らず、とりわけ下請け型の製造業はどこも経営が苦しいはずである。そうした中で松本社長は、自社製品開発の成功モデルを創り出し、同じような境遇に置かれている企業に、夢や希望を伝えたいと意気込みを見せている。

川崎市産業振興会館
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