相互発條 株式会社

着実なマネジメントとハートの入ったバネづくりで世界の航空機市場を捉える

相互発條 代表写真
社長 岸 俊之
事業内容 航空機用、自動車用、他各種精密バネ及び形状記憶合金バネの製造販売
企業名 相互発條 株式会社
創業 1939年(昭和14年)11月
所在地 川崎市麻生区栗木2‐7‐4
電話 044‐981‐1400
代表 岸 俊之(キシ トシユキ)
URL http://www.sogospring.co.jp/

自動車、新幹線、建設機械からおもちゃ、医療機器など動くものであれば、大抵の製品にバネは使われている。相互発條株式会社は、極細線0.05mm~線径12mmという幅広い範囲に対応するバネのリーディングカンパニーである。同社の岸俊之社長に、高い信頼性と安全性を求められる航空機・宇宙分野でバネを納入し続けている秘訣を伺った。

日本の高度成長期とともにあらゆる分野のバネを製造してきた

1939年に先代である岸 條太郎氏が、軍需産業にかかるバネを個人事業として製造したのが同社の始まりである。終戦後に、自転車、鉱山削岩機等の産業用バネの製造に転換した。その後、高度成長期の日本を象徴するように電気機器用など様々な産業に対応したありとあらゆるバネを製造してきた。1977年からは、大手重工業など航空機関連企業の協力工場として認定を受けて、航空機用バネを製造してきた。
また、1982年には、形状記憶合金(折り曲げるなど形を変化させても、ある一定の温度以上になると元の形状に復元する合金)によるバネの量産化に成功して、炊飯器やコーヒーメーカーなどにも使われる身近な存在になるまでにした。
1987年には、国産ロケット「H-Ⅰ」を皮切りに、続く「H-Ⅱ」、「H-ⅡA」などの切り離し用バネなど、極限環境での高い信頼性を要求されるバネを納入し、日本の宇宙開発に貢献してきた。

当たり前のことを着実に実践するマネジメントで国際的認証を取得

同社の2代目として生を受けた岸氏は、自らを「反骨心の固まり」と評する。1977年に同社に入社してから、「社長の息子と思わないでほしい」と宣言し、7年ほど現場で仕事を覚えてきた。慣れない現場仕事も、ひたすらノートにメモを取り、懸命に覚えた。
現場仕事を通じて感じたのは、「こんなに一生懸命やっているのに、なぜ儲からないのだろう」ということ、つまり、技術に偏り過ぎて収益性が二の次になっていた自社の傾向であった。
そこから「当たり前のことを着実、地道に実践する」とのモットーで会社を変えていった。まず、事業部制を提案し、部門の採算性を見えるようにした。それまでは財務などの知識はなかったが、金融機関主催のビジネススクールに1年ほど通い、独学で習得して、自ら分析をして不採算部門にメスを入れた。
2000年の社長就任後も、「会社は生き物。手を打たないと衰退する」との信念のもと、資産のスリム化などを進め、会社を筋肉質に変えてきた。「何でもないことを見過ごしている『やりっぱなし』は良くない。これは、自分自身への戒めでもある」と社長が率先垂範している。そして、自分が従業員へ指示したことへのフォロー、助言も大事にしている。
2000年以降は、ISOなどの認証取得に力を入れた。下請けではなくメーカーとして航空機業界へ本格参入するにあたり、高い技術力が必要であることはもちろんのこと、中小企業にとって大きな障壁となっている国際認証の取得、維持、生産管理などといった欧米を基準とした制度への対応が必須であるという考えからである。確かに、大手企業と同等の管理は負担が大きい。しかし、生き残るための不退転の決意で社長自ら陣頭指揮をとった。
具体的には、一般的な品質マネジメント規格である「ISO 9001」に加えて、2003年に「JIS Q 9100」(航空宇宙産業特有の要求事項を織り込んだ世界標準の品質マネジメント規格)、2006年には「Nadcap」(1990年に国際的に標準化された特殊工程審査・認証プログラム)の認証を取得した。これら2つの認証取得は、バネ専業メーカーとしては国内初のことである。
Nadcapには、世界の主要な航空機及びエンジンメーカーが運営会社として参加しており、国際的に認証の一本化が図られようとしている。航空宇宙製品のメーカーとして、世界市場の入口に立てたと感じている。
宇宙開発用や航空機用などのバネは、軽量性や、過酷な使用環境に耐える耐熱性そして耐食性が要求されることから、チタン合金等の特殊な材料を使用する。また、加工精度や探傷などの検査基準も非常に高いレベルが要求される。しかし、機械化全盛の現代において、驚くことに同社では完全手作りでこれらの要求を満たしている。
Nadcapでは、30万回繰り返し負荷を与える耐久性試験のような厳しい審査があった。しかし、自社のバネは折れなかった。この事実により航空会社が当社のバネに全幅の信頼を置くようになった。
「厳しい試験に耐えられたのは、『何とかしたい』という社員の思いから、ハートを入れてものづくりをしてくれていることにつきます。すなわち、どこで使われているか、問題が起きたらどうなるかを考えているということです」と岸氏は述懐する。
そういった品質維持など事業活動にかかる細やかなモニタリングとコントロールをする基盤となっているのが、2009年に社長自らが作りこんでいった品質・環境統合方針とマニュアルである。「改善・スピード・実現」の経営理念を実現するため、礼儀や挨拶から始まり、PDCA(計画・実行・確認・改善)サイクルを回すことなどが記されている。

天壌無窮をめざし、世界の医療市場や航空機市場で優れたバネ製品を提供する

2014年に、創業の地である東京都品川区から、川崎市麻生区のマイコンシティ内に工場を新築し、本社機能を移転させた。
小樽の研究所で開発を続けている形状記憶合金のバネも様々な分野に展開している。世界トップクラスの給湯機やバルブに採用されている。また、医療業界向けに開発した形状記憶のガイドワイヤーは、カテーテルを挿入する際には欠かせないものとなり、現在の収益の柱にもなっている。今後もますます自社の出せる付加価値にはこだわって、開発を進めていく。
付加価値を追求するためにも、「努力は絶対嘘をつかない。ただし、無用な努力はしてはいけない。そこを良く見極めてほしい」と従業員に求めている。一方で、自らには気づきを与えるような教え方を律している。年1回開催される若手研修会もその一つである。他社見学をして、自分の職場と照らし合わせて、感じたことを記録する場にしている。会社へ貢献する従業員提案も積極的に促している。それも「従業員を信じている」からこそである。
社長就任時に、「空を飛ぶ飛行機全てに相互発條のバネを入れる」大きなビジョンを出した。2013年にはFAA(アメリカ連邦航空局)に認定された当社のバネが民航機に使われた。
「Nadcapの取得、且つ相互発條の品質もFAAに認めてもらうことができた。今、ボーイング社を含むアメリカへの足掛かりはできつつある。次は、ヨーロッパへの進出も視界に入っている。」と岸氏は、世界中のエアラインの補修部品市場を射程に捉えている。
入社して書き溜めたノートが100冊を超え、ノウハウや体制も整った今、「天壌無窮」(天地とともに永遠に極まりなく続くさま)という言葉が、岸氏の描く会社の将来像に一筋の光を挿しこんでいる。

川崎市産業振興会館
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