株式会社 ナガオシステム

好奇心とアイディアで創り出した疑似無重力状態の粉砕・混合装置

ナガオシステム 代表写真
代表取締役社長
長尾 文喜
事業内容 理化学機器等の製造、販売、電気及び機械の設計コンサルタント他
企業名 株式会社 ナガオシステム
創業 1994年(平成6年)10月3日
所在地 川崎市麻生区片平1-9-30
電話 044-954-4486
代表 長尾 文喜(ナガオ フミヨシ)
URL http://www4.plala.or.jp/nagaosystem/

小田急線柿生駅に程近い雑居ビルには、昭和の時代にタイムスリップしたかのような小さな飲食店街がある。ともすれば通り過ぎてしまいそうなその一角には、周囲の風景とは似つかわしくないナノテクノロジー分野の機械装置が多数置かれている展示室がある。その小さな部屋から株式会社ナガオシステムは、独自の3次元運動により金属や無機材料などをナノレベルに粉砕・混合する装置を提供して、国の研究機関などの研究開発の現場に大きく貢献している。独創的なアイディアで数々の粉砕・混合装置を作り出してきた同社の長尾文喜社長に話を伺った。

好奇心あふれる少年が電子工学に目覚め、制御を一生の仕事とした

1946年に宮城県仙台市の太白山のふもとで生まれた長尾氏は、自然に恵まれた環境の中で釣り、キノコ狩りなどの遊びに夢中になり好奇心を育んでいった。「野山を駆け巡り、勉強はそっちのけでした」という長尾少年であったが、高校進学を目の前にして、その好奇心を刺激されたのが“電子工学”であった。当時は、アンテナに代表される電波の時代から、トランジスタ回路による電子の時代へ移り変わる過渡期で、トランジスタの産業への応用も進んでいた頃だった。そして長尾氏は、高校の電子科に進学した。それまで「勉強はしてこなかったので、電子工学は難しかった」と感じたが、手先が器用であったことも幸いし、現場で見て、ねじ回し、半田付けなど回路を作りながら覚えていった。そうして、どんどん電子回路の面白さと社会を変えていく可能性にひかれていった。大学でも引き続き電子工学科に進み、電子デバイスの実験に明け暮れた。
大学卒業後は、電子回路を使った制御の技術者としてのキャリアを積んでいった。長尾氏は、会社を3社変わったが、一貫して小型モーターやその制御を専門として、自動車のサンルーフの駆動、スチールラジアルタイヤへのワイヤの繰り出し装置など、その時々の先を行く制御システムを世の中に送り出してきた。動かすものは違えども、面白い動きをするものに常にアンテナを立てて、制御装置を考えていた。そうするうち長尾氏は、会社でのポジションが上がり、No.2にまでなった。しかし、営業的責任も増え、大量生産する案件やマニュアル的に進める仕事への関わりが増えていった。
「自分のやるべきことは、マニュアル的な仕事なのか?」と自問自答を繰り返した結果、1994年に独立して、ナガオシステムを設立した。しかし、資金もなく、仕事を発注してもらえるあてもなかった。そんな中、唯一支援をしてくれた取引先があり、ホモジナイザー(溶けにくい物質を切り刻み、液中に均一に分散させる装置。乳製品やインクなどの製造工程で使用する)のOEM生産を任せてもらうことができた。そこからホモジナイザーの受託製造を続け経営を安定させていった。2001年には子息の大輔氏も入社し、父を支えている。OEM製造は年々増加し、メンテナンスも含めて忙しくなっていた。

 OEM製造から材料の粉砕・混合の世界へ入りユニークな製品を開発

しかし、製造だけには終わらないのが長尾氏であった。関連する学会にも積極的に参加し、混錬機に関する論文なども書いた。そうした論文投稿がきっかけとなり、自社商品の開発につながっていった。それが、2007年に初の自社製品として発売した遊星ボールミル『Planet』である。それは、遊星歯車といわれる「複数の歯車が自転しつつ公転する」機構を応用して、粉体の粉砕や混合をする装置である。最大の特徴は、遊星運動で起こるトルネード回転により、高速回転で生じていた粉体表面の破損や凝集といった従来の欠点を解消できたことにある。それによりPlanetは、強い遠心加速度を一気にかけることができ、短時間での粉砕が可能となった点も強みである。
発売以来、利用分野は多岐にわたっており、電子材料、半田ペースト、インクや塗料、カーボンナノチューブや光触媒などのハイテク素材の調製・製造などに使われている。
また、産業技術総合研究所や物質・材料研究機構など国の研究機関にも同社の装置は納入されるようになった。最先端の研究者から寄せられる様々な相談や意見を受けて、性能向上を進めてきた。その相談の一つが、クリノスタットに関するものであった。クリノスタットとは、実験容器を3次元的に回転させることで、地上で疑似的な微小重力環境を発生させる装置であり、植物の重力による影響などの研究に使われてきたものである。当時存在していた製品は、装置が大掛かりになり、かつ、高額という課題があった。長尾氏のアイディアで縦/横2枚の円盤の回転により簡単な構造で3次元的回転が可能となる装置を開発し、無事客先に納入した。
しかし、それで終わりにはならなかった。好奇心の強い長尾氏が試しにクリノスタットを高速回転させると、今までに見たことのない面白い運動をすることが分かった。「これは、物体の粉砕に使える」と長尾氏は直感した。折しも、廃棄された携帯電話からレアメタルを取り出す都市鉱山が注目され始めた時期であった。粉砕用のボールと携帯電話を一緒に装置に入れて高速回転させると、10分程度で粉々にできることが分かった。縦横それぞれの回転を調整するとボールがランダムな方向に運動する為、遊星ボールミルと比べても効率良く粉砕ができたのだ。これを『3Dボールミル』と名付け、商品化した。3Dボールミルを展示会に出してみると、技術者の注目を集めた。さらに、「材料の粉砕だけでなく、混合にも使える」と新たな用途を見つけた。単なる混合に加え、高速回転による高い運動エネルギーを利用して反応器としても利用できると気付いたのだ。異種金属を混合して合金化するメカニカルアロイングやその他の化学反応を引き起こすこともできる。こうして最先端の研究開発の現場で、粉砕・混合のニーズを満たせる装置ラインナップが確立された。

研究開発戦略や特許戦略を重視し、世界を視野に入れて製品開発していく

長尾氏は、3Dボールミルにより物質の特性を大きく変えられる可能性を感じている。そこで、公的な技術開発補助金等を活用して、真空度や温度をパラメータとして混合する条件を変えられる装置を試作し、物質の様々な特性を引き出す研究開発も進めている。また、3Dボールミルを使ったマイクロバブル、ナノバブル発生などにも関心は広がる。食品のまろやかさや洗濯物の汚れの落ちやすさなど「空気を巻き込むことで、物質の特性が変わらないか?」など新たな好奇心が湧き起こっている。
国際会議などで製品展示をすると、海外の参加者から3Dボールミルは多くの注目を集める。今こそ自社製品をアメリカやドイツをはじめとする海外へも展開するチャンスと感じている。
そのためにも、研究開発戦略と特許戦略は重視している。専務の大輔氏は、物質・材料研究機構の客員研究員も務めており、論文も著している。特許については、必要性を勘案しながら、国内だけでなく海外へも出願している。同社の独創的な粉砕・混合装置は、世界へ向けて広がりを見せていくことであろう。

川崎市産業振興会館
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