リカザイ 株式会社

高精度の極薄金属箔でハイテク産業を支える

リカザイ 代表写真
代表取締役
小室 好夫
事業内容 各種金属の精密圧延箔、板ならびに精密加工品の製造・販売等
企業名 リカザイ 株式会社
創業 1947年(昭和22年)11月
所在地 川崎市中原区下沼部1810番地7
電話 044‐411‐6138
従業員 25名
代表 小室 好夫(コムロ ヨシオ)
URL http://atsuen.rikazai.co.jp

武蔵小杉駅近くのタワーマンションや高層オフィスビルに挟まれるように建っているモダンな複合ビルがリカザイ株式会社の本社である。しかし、その印象とは裏腹にビルの中には、加工の匠が金属の板にロールで圧力をかけて薄く伸ばす圧延工法で金属箔を作る現場がある。その厚さは0.001mmと極めて薄く、200枚重ねても郵便はがきと同じ厚みになるかどうかという高精度なものである。 それらの極薄の金属箔でハイテク産業を支えてきた同社の小室社長にお話を伺った。

戦後の工業復興の柱として金属の冷間圧延技術を極めてきた

当社の原点は、第二次大戦後の1947年に工業の再興を目指して設立されたことにある。戦前に関東特殊製鋼の社長であった秋山順一が、 新たに理化学材料株式会社を設立して、理化学用ガラス器の製造と圧延による金属箔の製造を始めた。創立時から圧延理論を実現するため、工場長を務めていた順一の末弟、重雄の指揮の下、研究開発を進めていった。復興下では、製鉄所の熱間圧延によって作り出される厚さ数ミリの鋼板が、造船や自動車工業の発展を支えてきた。
しかし、冷間圧延による金属箔技術は、いわばその先を意識した技術であり、市場も確立されていなかった。経営の安定に苦労しながらも、時計用ゼンマイやスピーカーの振動板などの需要を開拓して、少しずつ金属箔の用途を広げていった。そして、1980年頃に会社の転機が訪れる。
カセットテープレコーダーの磁気ヘッドに当社のチタン箔が使われるようになったのである。磁気ヘッドは、テープに磁石の力で信号を記録させる重要な部品だが、磁界を発生させているこの部品のわずかな隙間に1μm程度のチップ 状の箔を入れる事で、記録性能の向上と磁気ヘッド自体の小型化を実現させた。
これで爆発的に生産量が増えた。その後も、民生分野で家電品の絶縁体や遮熱板として、業務分野では、産業用の磁気ヘッド製造に雲母板が採用され、売上げと共に社員も増え会社は大きくなっていった。
一方で圧延技術の追究にも余念はなかった。1975年に秋山重雄が社長に就任し、積極的な技術開発は継続していた。1984年には、ドイツから20段冷間圧延機を導入した。1年半以上の試作開発を要しながらも、厚さ0.001mmのチタン箔を先駆けて実現した。1987年の創立40周年を節目としてリカザイ株式会社に社名変更した。

開発から顧客へ入りこみ、民生品から産業機器への市場変化を捉えた

1992年に小室社長は、義父である当時社長の重雄に請われる形で入社した。当初は建設会社に就職し、建築現場の監督業務を経験していた為、ミクロン単位の品質を作りこむ世界とは縁遠かった。入社後は、経理や営業部門を担当することになった。同時期は、それまで当社の発展を支えてきたテープレコーダーの市場も成熟してきて民生品向け事業は難しい局面を迎えていた。
小室社長の営業担当時のミッションは、当社の培ってきた金属箔を求める顧客を開拓することであった。民生用市場が減少傾向にある一方で、産業用市場は、カード時代が本格的に到来し、金融業界のキャッシュカードや、セキュリティ対策の入退館用磁気カードなどの普及拡大で、磁気ヘッド向けに堅調な需要が見えてきた。それに加えて、環境問題の高まりなどで、自動車開発等で使われる騒音測定器の振動板などの用途も開けていた。伝手を頼りに様々な業界の現場に足しげく通って、顧客と対面して話を聴き、提案していった。開発段階から顧客へ入りこんで課題解決していくスタイルが確立され、現在まで受け継がれている。
現場もそれに応えた。開発段階では、機密管理の観点から製品用途を伏せたまま試作することが多い。難しい仕事にも果敢にチャレンジしていき、限られた条件で顧客の期待に応えられるよう、社内の『匠』たちがノウハウを出しながらものにしていった。例えば、医療系の開発品では、圧延と熱処理を繰り返す「気の遠くなるような」長い工程で、チタン合金の難加工品を要求通りの薄箔に完成させた。
こうした努力が実り、精密な測定器や分析器の基準板などで確固たる位置を占めてきた。匠の技術は、その生命線となっており、歴代の経営者はその労をねぎらい、和気あいあいとした家族的な社風を保ってきた。2005年に小室社長はリカザイの4代目社長に就任した。建設会社の社員時代に培った現場を大事にする考え方から、その社風を踏襲し、「協力会社も含め、関わっている仲間それぞれの思いを共有して成功へ導く」マネジメントを心掛けている。

金属箔の匠の技を継承し、新しい産業への応用を進めていく

工業製品の高精度化、電子部品などの微細化に伴い精密圧延箔の用途はさらに広がっている。
半導体分野では、導電性の優れた銅合金シートをリードフレーム(半導体素子と外部配線を接続する部品)に応用している。また、高精度に厚みが仕上げられた金属箔は、FDP製造装置などの高さや隙間の調整用のシムスペーサーとして使われている。
電気自動車に搭載されるリチウムイオン電池では、ニッケルやアルミ、チタンなどの箔が電極材として応用研究が進められている。また、高い磁性を持つ金属箔をモーター部品として使っている。電気自動車やIoTに代表される技術の流れの中で、半導体の搭載機器の数も大きく増加し、情報機器が小型化する傾向と、この分野へのニーズはさらに強まってくると予想される。同社としても、電気自動車や関連産業での開発支援は意識しているマーケットである。
ニーズ対応のためにも会社の課題と位置付けているのが、匠の技の継承である。現在、6か月サイクルのプロジェクト形式で若手社員の技能習得を促進している。対象者は、業務の深掘りを課題にOJT研修後に成果を発表する。まだ緒についたばかりだが、結果が楽しみである。
一方、ニーズ対応の考えとは別に、今後、会社として自社ブランド品を作る構想も打ち出した。それも自社を訴求できる新しい柱を求める考えからである。今年度プロジェクトを立ち上げ、ブレインストーミングでアイデア出しを進めている。社員一人一人が知恵を出し合える環境整備をしている。こうしたニーズ対応や新しい取り組みの拡大、体質改善などを組み込んだ中期経営計画を策定し、アクションプランを各部門へ展開している。
変化の激しい時代において新しい発想を生み出すために注力しているのは、話し合う環境作りである。家族的な雰囲気が特徴の当社であるが、「最近は世代間ギャップか会話が減っている」と感じているからだ。上席は、社員と個人面談をして、「アクションプランに対し、どういう着眼点を持って、個人として成長していくか」を話し合っている。「浸透してきており、少しずつ動いてきた」と語る小室社長は、これからのリカザイの発展に手応えを感じている。

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